札幌市で実習中のベトナム人技能実習生が2019年9月、脳出血で倒れて意識不明の状態となり、入院しています。2020年3月の在留資格の期限が切れると不法残留となって原則は母国に送還されますが、札幌出入国在留管理局によると、意識不明の実習生は「想定外」で、対応に苦慮している状態です。
当然家族は日本での治療継続を希望し、国や自治体に対応を求めています。
トゥさんは2019年3月、1年間の技能実習の在留資格で来日しました。札幌市西区の建設会社で働いていた9月17日、現場で頭痛を訴えて救急車で運ばれ、脳出血で手術を受けるも「意識の回復は難しい」と診断されました。
実習生の在留資格は本人の意思で最大5年まで延長でき、期限内は日本人と同様、国民健康保険や生活保護が適用されます。一方、在留資格が切れると不法残留となって入管施設に収容され、母国に送還されます。
トゥさんの場合、人工呼吸器をつけているため収容・送還は難しい状況。現在の医療費や生活費を賄っている実習生保険は3月で切れるため、札幌入管は「個別の事情に鑑みて最良の方法を検討したい」と話しています。
外国人技能実習制度の問題点
外国人実習生とか外国人研修生とか呼ばれているいわゆる「技能実習生」。人手不足の日本の工場・建設現場・農場や港には多くの若い外国人が労働者で溢れかえっています。日本の外国人政策では外国人の単純労働を原則として禁止しますが、一方で、人材不足にあえぐ経済界からの要請というホンネとのバランスを図るため「技能実習制度」をつくり徐々に拡大させてきました。
しかし現在、こういった外国人の雇用をめぐり、賃金の不払いや違法な時間外労働といった問題や外国人労働者が関わる事件や事故の増加といった問題が顕在化しています。
厚生労働省の2015年の調査によると、実習実施機関約5,000のうち、約7割以上で労働基準関係法令上の違反が認められたといいます。
外国人技能実習生自身が関わる事件や事故も増加しています。
警察庁によると、2014年に摘発された外国人技能実習生は全国で961人であり、2年前の約3倍にものぼっており、さらに年を追うごとに右肩上がりに増加しています。
実習期間を超えてからも日本国内に滞在し続ける不法残留や、実習として認められた仕事以外のことをする資格外活動や、万引き・空き巣といった窃盗行為も増加しています。
事件や事故が頻発する理由
外国人技能実習生が事件・事故を起こしてしまう大きな原因は、当初考えていたよりも「稼げない」からです。
これは、企業に問題があるケースが多く、実習生の賃金を不当に低くしていることが多くあるからです。そのため、実習生によっては「稼ぎたくても稼げない」という状況が発生することになります。
その結果、実習生はより高い収入を求めて資格外活動をしてしまったり、場合によっては犯罪に手を染めてしまったりというケースも少なくないのです。
労災補償制度
今回ズオン・ゴツク・トゥさん(19)は脳出血で倒れてしまう不幸に見舞われました。
一般的に技能実習生も業務中に発生したケガや疾病等は労災保険の対象となりますが、「業務が原因で発生していること」(業務起因性)と「業務を行っているときに発生したこと」(業務遂行性)という2つの要件を満たしている必要があります。
しかし、脳梗塞等の場合は病気と業務の関係性を慎重に確認し労災と判断されるケースがあります。
今回のようなケースが労災保険で認定されるには、脳梗塞の発症が業務に起因することが明らかであると認められる必要があります。
判断基準としては厚生労働省の「脳・心臓疾患の認定基準」に基づいて行われますので、次の認定要件を確認して下さい。
脳・心臓疾患の労災認定要件
- 異常な出来事はなかったか
- 発症直前の前日までにおいて、発生状態を時間的・場所的に明確に特定できる異常な出来事に遭遇していること
(例)業務に関連した大事故に遭遇して精神的なダメージを受けた
- 短期間の過重業務
- 発症時期付近において、特に過重な業務に就いていること
(例)1週間前から、ほとんど休みなく体力を使う業務に就き続けている
- 長期間の過重業務
- 発症前から長期間に渡って著しい疲労を蓄積させるような過重な業務に就いている
(例1)数ヶ月の残業時間の平均が45時間を超えている
(例2)6ヵ月前から月間の残業時間が80時間を超えている
(例3)直近の1ヵ月の残業時間が100時間を超えている
実際に労災認定を行うのは労働基準監督署です。
認定要件に該当するような出来事が確認出来るの場合には、労働基準監督署や社会保険労務士等の専門家に相談されることをお勧めします。