特定技能が始まり1年が経過しました。
法務省が四半期ごとに特定技能外国人の受入れ状況を公表するのですが、特定技能で在留する外国人数は、2020年3月末時点で3987名と少ないと言わざるを得ません。
考えられる理由としては、特定技能試験の実施が順延するなど受入れ環境が整っていないこと、複雑な手続きで敬遠されていること、の2点が挙げられます。
今回は、通常の特定技能でさえ複雑にも関わらず、追加して手続きが必要とされる特定技能の建設分野について解説します。
建設分野の特定技能は、通常の特定技能の申請手続きに加えて、「建設技能人材機構への加入」、「建設キャリアアップシステムへの登録」、「国交省による受入れ計画の認定」が必要です。
採用を検討されている場合、まずは全体像を掴み、事前の準備を心掛けてください。
※全体像
特定技能で働ける業種
まず初めに、建設分野といえども、広範な職種の全ての業務が認められているわけではありません。
技能実習と同様に対象となる職種があらかじめ決まっています。
2019年の開始当初は、「型枠施工」、「左官」、「コンクリート圧送」、「トンネル推進工」、「建設機械施工」、「土工」、「屋根ふき」、「電気通信」、「鉄筋施工」、「鉄筋継手」、「内装仕上げ/表装」の11職種でした。
現在は、上記に加えて、「とび」、「建築大工」、「配管」、「建築板金」、「保温保冷」、「吹付ウレタン断熱」、「海洋土木工」の7職種も対象職種となり、計18職種が対象です。
今後も、業界の特性に応じて、職種が追加されていく可能性もあります。
特定技能で働ける外国人
特定技能で認められる業務内容は、「産業上の分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務(特定技能1号)」、「熟練した技能を要する業務(特定技能2号)」です。
つまり、誰にでもできる仕事というわけではなく、雇用する外国人も一定程度の能力を持ち合わせている、ということになります。
そして、「能力を持ち合わせている」というのは、技能試験や技能実習の経験から判断します。
特定技能1号の場合、具体的には、「技能実習2号を良好に修了していること」、もしくは「特定技能試験、日本語能力試験に合格していること」が必要です。
建設分野の特定技能試験は、「一般社団法人建設技能人材機構(JAC:Japan Association for Construction Human Resources)」が実施しています。
建設技能人材機構への加入
特定技能の外国人を受け入れる場合、「(一社)建設技能人材機構(JAC:Japan Association for Construction Human Resources)」に加入しなければなりません。
建設分野では、業界全体で特定技能外国人の受入れを推進していきます。
そのため、業界を取りまとめるJACが、特定技能試験の実施、特定技能外国人に対する講習・訓練・研修の実施、就職のあっせん、行動規範の策定及び当該規範の適正な運用、受入企業が計画に従った受入れを行っていることを確保するための取組みなどを行うこととなり、特定技能を受け入れる企業も、JACに加入する必要があります。
JACへの加入は、建設業者団体から間接的に、もしくは直接することとなり、無事に加入されれば、会員証明書を取得することが可能です。
建設キャリアアップシステムへの登録
「建設キャリアアップシステム(CCUS:Construction Career Up System)」とは、技能者の資格、社会保険加入状況、現場の就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積する仕組みです。
建設業に従事する技能者は様々な事業者の現場で経験を積んでいくことから、個人の技能者の能力が正当に評価されづらく、現場管理や若手の育成など一定の経験を積んだ技能者が果たす役割や能力が処遇に反映されにくい環境にあるという課題があります。
そこで、建設業界で統一のシステム(CCUS)を導入し、技能者の現場における就業履歴や保有資格などを登録することで、技能者の処遇改善や技能の研鑽を図ることとしました。
つまり、特定技能外国人に対してもCCUSを活用することで、客観的なデータ(技能・経験)に基づいた賃金の支払いのほか、在留資格、社会保険加入状況の確認、不法就労の防止等を実現できるというものです。
CCUSへは、事業者としての登録、および特定技能外国人の登録の双方が求められます。
特定技能外国人の受入れにあたっては事前に事業者の登録を、実際の勤務開始前に外国人の登録が必要です。
キャリアアップシステムへの登録は、一般社団法人建設業振興基金にて可能です。
国交省による受入れ計画の認定
特定技能外国人を受け入れようとする場合、建設特定技能受入計画を作成し、国土交通省の認定を受ける必要があります。
この建設特定技能受入計画の認定証の写しを入管へ提出することで、在留申請の許可が受けられます。
なお、建設特定技能受入計画は、①低賃金や社会保険未加入といった処遇で労働者を雇用する等の劣悪な労働環境が確認される企業の建設市場への参入を認めず公正な競争環境を維持すること、②他産業・他国と比して有為な外国人材を確保すること、③雇用者・被雇用者双方が納得できる処遇により建設業における外国人技能者の失踪・不法就労を防止すること、④特定技能所属機関における受注環境の変化が起こった場合でも建設業界として特定技能外国人の雇用機会を確保することなどの狙いがあります。
建設特定技能受入計画の認定を受けるための要件は以下の通りです。
一 認定申請者が次に掲げる要件をいずれも満たしていること。
イ 建設業法第3条の許可を受けていること。
ロ 建設キャリアアップシステムに登録していること。
ハ 第10条の登録を受けた法人又は当該法人を構成する建設業者団体に所属し,同条第1号イに規定する行動規範を遵守すること。
ニ 建設特定技能受入計画の申請の日前5年以内又はその申請の日以後に,建設業法に基づく監督処分を受けていないこと。
ホ 職員の適切な処遇,適切な労働条件を提示した労働者の募集その他の国内人材確保の取組を行っていること。
二 1号特定技能外国人に対し,同等の技能を有する日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を安定的に支払い,技能習熟に応じて昇給を行うとともに,その旨を特定技能雇用契約に明記していること。
三 1号特定技能外国人に対し,特定技能雇用契約を締結するまでの間に,当該契約に係る重要事項について,様式第2により当該外国人が十分に理解することができる言語で説明していること。
四 1号特定技能外国人の受入れを開始し,若しくは終了したとき又は1号特定技能外国人が特定技能雇用契約に基づく活動を継続することが困難となったときは,国土交通大臣に報告を行うこと。
五 1号特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録すること。
六 1号特定技能外国人が従事する建設工事において,申請者が下請負人である場合には,発注者から直接当該工事を請け負った建設業者の指導に従うこと。
七 1号特定技能外国人の総数と外国人建設就労者の総数の合計が常勤の職員(1号特定技能外国人,技能実習生及び外国人建設就労者を含まない。)の総数を超えないこと。
八 1号特定技能外国人に対し,受け入れた後において,国土交通大臣が指定する講習又は研修を受講させること。
さいごに
特定技能の申請は、求められる要件や書類が多いのですが、建設分野はさらに手続きが求められます。
建設業界の事情によるところですが、これは一致団結して外国人雇用を推進していこうという表れであり、無事にビザが取得できたあとも、しっかりとした労務対応や入管対応が必要です。
外国人雇用する場合、法、書類等を確認し入念な事前準備をしてから臨むことをお薦めします。