《目 次》
1.遺言とは
「遺言」とは、自身の死後、遺産をどのように相続させるかについて自身の意思を反映させるためのものです。
法的効力を持たない「遺書」とは異なり、きちんと定められた方式で遺言を残すことで、法的効力が発生します。
15歳以上であれば、いつでも自由に遺言を残すことができるため、
死亡の直前である必要はありません。
2.遺言を残すことのメリット
①死後も自分の意思を反映することができる
遺言を残すことの最大のメリットは、「死後も遺産に関して自身の意思を反映させられる」という点です。
人はだれしも、生きている間は自己決定する権利を持っています。
しかしながら、死後になっても確実に自身の意思を反映させる方法というのは、遺言以外にはありません。
②遺族の負担を減らすことができる
また、遺族の負担を減らすことができる点もメリットの一つです。
「うちは円満な家族だから必要ない」
「そもそも遺言を残すほどの遺産はない」
そうおっしゃる方でも、実際に死後になってから相続人間でトラブルになるケースが、往々にしてあるのです。
きちんと法的な効力を持つ遺言をのこしておくことによって、のこされた遺族間での相続争いを最小限に抑えることができるのです。
3.遺言に関するよくある誤解
①遺言をしてしまったら、自分の好きに財産が使用できなくなるのでは?
「遺言をのこしてしまったら、その後財産を自由に処分できなくなるのでは?」
そのような心配は不要です。
遺言というのは相手方のいない単独行為であり、死後にはじめて効力を発揮するものです。
そのため、生きている間は好きなように自身の財産を処分できます。
(処分した財産に関する部分の文言は、遺言を撤回したものとみなされます。)
②今はまだ元気だから、遺言はまだのこさなくてよい
「遺言は体の調子が悪くなってから考える。今はまだ元気だからまだいい。」
このように、亡くなる直前にのこす「遺書」のイメージから、「遺言」も元気な時に残すものではないと考える方もいるかもしれません。
しかし、遺書とは異なり、遺言をのこすことは立派な法律行為です。
その手続きは厳格にさだめられているため、認知症や病気が進行して判断能力が低下している状態では、満足のいく遺言がのこせない可能性があります。
一般的には、大体70歳以降が遺言を作成する適齢期といわれています。
まだまだ元気な方でも、いつ病気にかかるかは誰にもわからないことです。
いきなり公正証書遺言を作成するのが負担に感じるのであれば、
「とりあえず」という形で、自筆証書遺言だけでも作成しておくことをおすすめします。
③紙に自書さえすれば、それで遺言になるだろう
遺言は、法律で定められた形式でないと無効となってしまいます。
自筆したものが形式を守っていれば問題ありませんが、一つでも要素が欠けていれば有効ではなくなってしまいます。
ご自身の意思を正しく反映させるために、一度きちんとしたものを作成しなおすことをおすすめします。
④一度遺言を作成してしまったら、変更できないのでは?
遺言はいつでも、内容を変更したり撤回したりすることができます。
むしろ、ご自身の財産や、その時々の心境は常に変動するものですので、
そういったことも反映しつつ、定期的に最新の遺言をのこしていくことが望ましいでしょう。
4.遺言の残し方3つ
遺言の残し方には3つの方法があります。
①自筆証書遺言
特徴
自筆で作成する。
費用がかからず手軽に作成できる。
しかし、紛失や偽造・変造の他、隠されたり破棄されたりする危険がある。
作成方法
遺言者が下記を全て自筆し、押印する。
・全文
・日付
・氏名
※財産目録を添付する場合、自書ではなくワープロ等で作成したものでも可。(2019年1月より)
その場合は、全てのページに署名・押印が必要。
作成費用
かからない
保管方法
⑴遺言者本人で保管
⑵遺言者が死亡したことをすぐに知ることができる人物で、信頼できる者に預ける
(例)・遺言により、多くの遺産を取得する予定の者
・遺言書において遺言執行者に指定した者
家庭裁判所への検認
必要。遺言者の死後、遺族が家庭裁判所へ提出して検認を受けることとなります。
※遺言保管所に保管している場合は、すでに検認を受けているため不要。
②公正証書遺言
特徴
公証人と承認2名以上の立ち合いのもと作成。
公証役場で行うことが一般的だが、出張費を払えば自宅や病院でも可能。
遺言が実行される可能性が非常に高い。
自筆証書遺言と異なり、自筆は署名部分だけでよい。
作成に手間がかかるため手数料が発生する。
作成方法
⑴まず公証役場と打ち合わせの上、内容を決定する。
⑵当日は証人2名以上立会いのもと、公証人が遺言の内容を読み上げる。
⑶内容を確認し、間違いがなければ遺言者・公証人・承認がそれぞれ署名する。
作成費用
財産の額や相続人の数に応じて変動する。
事前に公証役場が手数料を提示する。
保管方法
「原本」は公証役場に保管され、「正本」「謄本」は遺言者に交付される。
「原本」「正本」「謄本」のどれでも遺言の執行が可能。
一般的には、「謄本」を遺言者自身で保管し、「正本」は遺言者が死亡したことをすぐに知ることができる人物で、信頼できる者に預ける。
(例)・遺言により、多くの遺産を取得する予定の者
・遺言書において遺言執行者に指定した者
家庭裁判所への検認
不要。
③秘密証書遺言
特徴
公証人と承認2名以上の立ち合いのもと作成。
遺言の内容を誰にも知られることなく、公証を受けることができる。
自筆証書遺言と異なり、自筆は署名部分だけでよい。
手数料が財産額によって変動せず公正証書遺言に比べて安価なため、頻繁に遺言を修正する可能性がある方にとっては良い方法。
ただし公正証書遺言と異なり、公証役場で遺言書の保管をしないため、紛失したり、未発見のままになったりするという可能性もある。
※現在は、判断能力が鈍った高齢者に周囲が都合のよい遺言を押し付けるといった可能性もあることから廃止が検討されている。
作成方法
⑴まず、遺言者が証書を作成し、署名・押印する。
⑵遺言者が証書を封じ、封印をする。
⑶遺言者が封を公証役場に持ち込み、「自身の遺言であること」「自身の氏名・住所」を申し出る。
⑷公証人が封書に必要事項を記入する。
⑸遺言者・公証人・承認がそれぞれ署名する。
作成費用
財産の額や相続人の数に関わらず、一律で1万1千円。
保管方法
公正証書遺言とは異なり、公証役場は保管しない。
そのため、自筆証書遺言と同じように下記のいずれかの方法で保管する。
⑴遺言者本人で保管
⑵遺言者が死亡したことをすぐに知ることができる人物で、信頼できる者に預ける
(例)・遺言により、多くの遺産を取得する予定の者
・遺言書において遺言執行者に指定した者
家庭裁判所への検認
必要。
どの方式がおすすめ?
遺言のゴールは、「のこすこと」ではなく「死後効力を発揮すること」です。
そのため、最も大切なことは、「きちんと遺言が保管され、発見される可能性が高い方法を選ぶ」ことなのです。
そのためにもっとも確実な方法は、公正証書遺言でしょう。
公証人が遺言の内容を確かめたうえ、公証役場で保管されているので、
破棄、偽造される危険が非常に低いです。
しかしながら、公正証書遺言を行うためには、公証役場とのやり取りが必須となり、
ある程度の費用や時間がかかります。
手っ取り早く遺言を作成したい方は、まず自筆証書遺言を作成後、
ゆとりを持って公正証書遺言の方も作成する、という形が望ましいでしょう。
5.まずはなにから始めるべきか?
ここまで読んで、
「さて、私も遺言をのこそうかな。でも、なにから始めたらいいのだろう?」
と思った方もいらっしゃるでしょう。
遺言をのこそうと思い立ったら、下記の流れで手続きを進めると効率的です。
①財産の確認
遺言書を作成するにあたり、まずはご自身の財産を確認しましょう。
財産にはプラスの財産とマイナスの財産があり、そのどちらも明らかにしておく必要があります。
【プラスの財産】
不動産(土地・建物)
銀行への預貯金
株式などの有価証券等
【マイナスの財産】
借金等
②相続人の確認
ご自身の財産を相続する「法定相続人」が誰になるのか、確認します。
法定相続人には順位が付けられています。
もしご自身の判断に自信を持てない方は、
戸籍謄本を取得し、行政書士なとの専門家に相談してアドバイスをもらうことをおすすめします。
③遺言書の作成方法を選ぶ
遺言書には、3つの作成方法があります。
それぞれ、かかる労力や費用が異なるため、ご自身の状態にあった方法を選択しましょう。
④遺言書を作成する
実際に遺言書を作成します。
⑤遺言書を保管する
自筆証書遺言の場合
遺言保管所に預ける場合を除き、自身で保管するか、または信頼のおける方に管理を依頼しなければなりません。
※2020年7月10日以降、法務局で自筆証書遺言を預けることができる制度が開始します。
公正証書遺言の場合
「原本」を公証役場が保管し、自身にも「正本」「謄本」が渡されます。
万が一「正本」や「謄本」を紛失しても、公証役場が保管しているため問題ありません。
秘密証書遺言の場合
公証役場は遺言を保管しないため、自身で保管するか、または信頼のおける方に管理を依頼しなければなりません。
遺言は発見されなければ意味がない
遺言は、発見されなければ全く意味がありません。
そのため、ご自身で管理する場合は特に保管場所に気をつけましょう。
わかりにくい場所に保管してしまうと、最終的に遺言書を見つけてもらえない可能性が高いです。
信頼できる方に管理を依頼したり、遺言保管所に預けたりする方法をおすすめします。
おわりに
上述のとおり、遺言書は厳格な形式が定められており、立派な法律行為です。
そんな遺言書の作成を一からやろうとすると、不動産登記の取得や財産目録の作成等から始めることになるため、「予想以上に労力がかかる」と断念される方も多いといいます。
そういった際は、行政書士のような専門家の力を借りるのも一つの手です。
ほとんどの書類作成を代行してもらえる他、役所での証明書取得も委任することができるため、
かなりご自身の負担を減らすことができるはずです。
一度相談してみることで、自身の不安や疑問も解消され、すっきりすることでしょう。