試験合格者の9割が男性というデータそのままに、まだまだ男性が多い「行政書士」という仕事。普段の業務内容からしても、若い世代にはなかなか認知が届きづらく、学生の内から行政書士を目指す人は、ほぼ一部に限られてくるといった現実もある。今回はその中でも、20代という若さで資格を取得し、現場の第一線で活躍している2人の女性行政書士に色々とお話を伺いました。
プロフィール(行政書士法人jinjer 細田加苗氏、脊戸土井くるみ氏)
▶︎細田 加苗(写真:左)
埼玉県川越市出身。2018年 慶應義塾大学法学部政治学科卒。大学時代は国際社会学ゼミに所属し、外国につながる子どものための学習支援教室の運営に関わる。新卒で総合法律事務所に入所し、弁護士秘書として勤務しながらも、自ら直接的に社会に貢献できる行政書士の仕事に魅力を感じ、資格取得のための勉強を開始。2018年度行政書士試験に合格し、2019年行政書士法人jinjerに入職。東京都行政書士会新宿支部所属
▶︎脊戸土井くるみ(写真:右)
広島県出身。上智大学外国語学部卒。大学時代、在日ブラジル人の子ども達の日本語支援活動に参加。卒業後は、銀行にて資産運用相談デスクに従事。金融商品の提案、資産運用フォロー、退職後のマネープランや相続に関する相談業務を行う。かねてから興味があったビザ・国際業務に関わるべく、行政書士の資格を取得。行政書士法人jinjerへ入社。東京都行政書士会新宿支部所属。対応外国語:英語、ポルトガル語
行政書士法人jinjerについて
現在のお仕事内容について、教えて下さい。
細田氏(以下、細田):外国人のビザ申請が業務のメインになります。その中でも、行政書士法人jinjerは就労ビザに特化しており、外国人が日本で働く為のビザの取得・申請手続きをクライアントの代わりとなって担当しています。その他、永住申請や家族滞在の申請業務なども対応領域ですね。
クライアントは、どんな方々が多いのでしょう?
脊戸土井氏(以下、脊戸土井):一般企業でフルタイムで働く外国人、そういった企業の人事担当者や、人材会社が私たちのクライアントのメイン層です。
ビザの申請自体は、行政書士じゃなくても出来るんですか?
脊戸土井:できますよ。ただ、誰でもできるわけではないので注意が必要です。 海外から外国人を呼び寄せる場合は、企業の担当者か行政書士・弁護士が申請できます。すでに国内に在住している外国人の就労ビザへの変更申請の場合は、外国人本人か行政書士が申請する必要がありますので、企業の担当者が申請代理人となれないことは注意が必要です。
そういった業種のお客さんは、なぜ御社に取得の代行を依頼するのでしょう。
細田:やはり、手続きのノウハウが一般的に周知されていないことと、それを一から調べてやるとなると工数も時間もかかるので、それの手間を削減したいというのがクライアントの意図です。後は、書類の不備によって不許可となってしまうこともあります。専門家に依頼すればそういったミスを少なくすることができるため、再申請の手間やタイムロスを減らせることも魅力かと思います。
へえ!ただ書類を整えるだけではダメなんですね。実際、取得にはどれくらいの期間がかかってくるんですか?
脊戸土井:大体1ヶ月から3ヶ月と言われています。ただ、今は東京オリンピックの影響もあってか、東京入国管理局もパンク寸前くらい混んでいるので案件によっては、4〜5ヵ月かかるものもあります。
全体に占める女性の比率は10%以下!? 2人は、なぜ行政書士を目指したのか?
行政書士というと、男性かつ、比較的年齢の高い方々をイメージしていましたが、実際のところ女性は多くはないのでしょうか?
細田:昨年度の試験合格者比率をみても、女性は25%程度なので、業界全体として、まだまだ女性が少ないのが現状ですね。そこから更に20代に限定してしまえば、1%を切っている状態です。
脊戸土井:現場でお会いする行政書士の方は、私たちより年上の方が多いですね。中には、かなりご高齢になっても現役で活躍したりしている方もいらっしゃって、私たちも皆さんのように何歳になっても活躍していたいなと感じますね。
行政書士って言葉自体、学生時代の就活や資格選択であまり目にしないせいか、若い世代への認知は決して高くはないですもんね。そもそもお2人が、行政書士を目指したキッカケは何だったのでしょう?
脊戸土井:大学で外国語学部に入り、ポルトガル語を専攻していたのですが、その時に在日ブラジル人の子どもたちを支援する活動をしていました。その時から「日本はビザが降りにくい環境だ」という状況を知り、今やっていることに興味をもったのはそこからでした。ただ当時は行政書士の具体的な仕事までは想像できていませんでした。
そこから地方銀行に勤めるのですが、相続案件を対応する様になってから、行政書士という存在を知ったんです。私自身のキャリアとしても、組織や定年に捉われない働き方をしたいと考えていたのと、仕事を通じて、外国人の支援も出来るというのも分かって、そこから行政書士を目指すようになりました。
なるほど。学生時代と社会人の経験がリンクされて知るキッカケになったんですね!細田さんは、どうですか?
細田:私も少し似ているところがあって、大学では国際社会学を学んでおり、ゼミの活動で外国にルーツを持つ子どもの活動支援をしていました。言葉のことから、日々のことまで活動内容は様々でしたが、子どもの悩みの中には、専門家でなければ解決出来ないことも多く、そのコミュニティの中に行政書士が入っていたのが、仕事の認知としては初めてでした。
そこから新卒では、弁護士秘書としてのキャリアをスタートさせたんですが、仕事をしていく中で「もっと自分から主体的に動いていける仕事をしたい」と思う様になって、キャリアチェンジを考えた時に、もう一度行政書士を思い出して、そこから『行政書士になって、ビザ申請業務をやる!』と決めて動き出しましたね。
行政書士法人jinjerに入社を決めた理由
資格を取ってからの就職活動って、どうされたんですか?
細田:士業向けの転職サイトがあって、そこから紹介を受けたり、自分で探したりしながら会社を探しました。
最終的に、行政書士法人jinjerを選んだ理由はなんでしょう?
細田:当然ですが行政書士としてひよこだったので、まずは専門家として名乗れるくらいの実力を身につけたいと考えていました。そんな中、月何十件も担当することができる環境である行政書士法人jinjerは非常に魅力的に見えました。また、行政書士事務所としてはかなり年齢層が若かったため、これからの時代に合わせて新しい行政書士のあり方を追求できるんじゃないかとも考えましたね。最終的には、面接時には代表と直接話した際に、「個々人のキャリアビジョンに合わせた働き方を認めつつ、挑戦したいことにチャレンジさせてくれそう」と感じたのが決め手でした。
脊戸土井:行政書士法人jinjerは、早いうちから行政書士として多くの案件に携わらせてもらえる点が魅力だと感じました。 また、設立数年の法人であるため、事業拡大の時期に関わることができ、ビザ業務だけではなく幅広い経験ができるのではないかと感じたからです。 実際に入社してみても、ビザの申請手続きだけではなく、記事の作成や法人内部の業務等、日々たくさんのことを経験し学ばせてもらっています。
実際、入社してからの環境はどうですか?やはり女性が少ないということもありますし・・
細田:それが弊社に関しては、メンバー6名中4名が女性という、むしろ女性が多い環境なので、その点で肩身の狭い思いをすることはなかったです。代表者も30代ということもあり、私たちに近い目線で常にコミュニケーションが取れる環境だったのは、とても良かったですね。あとは、それぞれのライフスタイルや生活環境に合わせた働き方を認めてくれる寛容さがあるので、女性にとっては非常に働きやすい環境かと思います。
今後について
最後に行政書士として、これからどういったことをやりたい等、考えていることがあれば教えてください。
細田:現在は純粋なビザ申請の業務がメインですが、これからは外国人・企業・人材会社といったクライアントに対して幅広い支援が出来たらよいなと思っています。 いま日本では、政府の方針もあって急激に在留外国人が増えていますが、そのスピードと日本の社会や企業が追いつけていない状況かと思うんです。
例えば、知らず知らずのうちに外国人が日本の法に触れるようなことをしてしまって、泣く泣く帰国しなければならない、という問題が多々生まれていると思うんですね。そこで私たちが、日本語学校に出向いて日本の法令についての講義を始めれば、外国人が日本で正しく在留することにつながって、少しずつでも問題解決に貢献できると思うんです。
その他にも、人材会社が人材のマッチングを行いやすくなるよう、彼らに向けてビザの勉強会をもっとたくさん行ったり、外国人を雇用する企業に向けて外国人雇用理のマニュアルを提供したりと、各所と提携して動いていければいいなと思っています。価値提供の幅をもっと広げていきたいですね。 将来的には、独立をしたいとも考えています。ここで学んだノウハウを活かして、かつて大学時代に活動支援のプロボノをしていた行政書士さんの様に、仕事の枠を越えて活動する行政書士になりたいと思っています。
脊戸土井:日本で働きたいと望む外国人の支援を続けることで、ひいては日本の労働力不足問題の改善に尽力したいと考えています。 例えば、現在日本には、多くの外国人留学生がいますが、卒業後日本で就職できているのは3割程と言われています。 日本で就職したいと希望しても、就職先がない、ビザ取得の要件に該当しづらいことが原因で、帰国してしまう留学生が多数いるのが現状です。 国としても、外国人留学生の就職を促進するために動いており、特定活動(本邦大学卒業者)といった新しい在留資格も誕生しました。
このようにビザ周辺は流れが非常に早く、今後もその時々の情勢によって、新しい在留資格が生まれたり、要件が変わることはあり得ると思います。 その情報をいち早く発信し、外国人の方が日本で働くことのできるチャンスを少しでも広げてもらいたいと考えています。 外国人コミュニティに深く関わって直接情報発信したり、記事や勉強会をとおして、外国人を採用したいと考える企業にも情報提供していきたいですね。