「営業、広告は一切してない・入居者は全て紹介」。17年10月にオープンしたばかりのコワーキングスペースBIRTH KANDAには、オープンして8ヶ月とは思えないほど場に活気がある。その熱量の根源は、オーナーである髙木氏の場に込めた想いにある。スタートアップの成長をビル管理会社という立場で支援をする。無機質なコンクリートビルに、体温のある血の通った取り組みをする成長型コワーキングスペース「BIRTH」代表 兼 (株)髙木ビルCOO髙木秀邦氏に話を伺いました。
運営会社の紹介(株式会社髙木ビル)
社名:株式会社髙木ビル
代表:代表取締役 髙木邦夫
設立年月日:昭和36年4月20日
資本金:9,600万円
従業員数:25名(※関連会社含む)
主な事業内容:オフィスビル・マンション・駐車所の開発・賃貸ならびにその管理運営業務
成長型コワーキングスペース「BIRTH KANDA」とは?
施設の紹介
日本初の「成長型フリーワーキングオフィス」として、企業の成長を促進するサポート・企業の成長に合わせたオフィス成長のロードマップを描く「次世代型出世ビルプロジェクト」といった。働く場所としてのハード面と、成長をサポートするソフト面の両面から入居者を支援するコワーキングスペース。スタートアップの規模感に応じ、1名のフリーワーキングスペースから最大8名のオフィススペースを施設内に完備。全てのプランで登記住所利用が可能となっているので、法人登記場所としても使える。
BIRTH KANDA( http://t-bldg.jp/birthkanda/ )
※7Fラウンジ。打ち合わせ場所や会員同士がコミュニケーションをはかるスペースとして活用されている
※6Fフリーワーキングスペース。イベントスペースとしての利用も可能で、30-40名規模の密なコミュニケーションをはかるイベント場所としては最適なスペースとなっている。
BIRTH KANDAの特徴について
> コワーキング・シェアオフィス自体は既に乱立していると思います、その中でのBIRTH KANDAの特徴についてお教え下さい。
最大の特徴は、運営をする我々の入居者に対する「姿勢」だと思っています。
我々は、入居者の支援者であり、パートナーとなりたい。単なる場所貸しではなく、企業成長に合わせた各種支援を含んだワーキングスペースでありたい、という想いを第一にこの場所を立ち上げています。
> どんな風に入居者や入居企業の成長を支援していくのでしょうか?
コワーキングスペースやシェアオフィスの利用タイミングは、あくまでも企業成長における一時期でしかありません。今、企業の成長は年度単位から、半年単位に。もっと言えば、こういったスペースに入居してくれるスタートアップは、月次単位で成長を続けており、その成長スピードは、どんどん上がっていると感じます。
実際、BIRTHの入居企業でも最初4名ではじめた会社が、半年で8名になり、更にこの2-3ヶ月後には12名に、そして年末には18名規模の会社になる予定です。
そういった風に、常に可変していくスタートアップに寄り添える形のオフィスって実は中々無いんです。実際に、コワーキングスペースやシェアオフィスが、次の移転先をマネジメントしてくれるか?って言ったらしないですよね。”出来ない”という表現の方が正しいかもしれませんが。それがBIRTHだと可能になります。なぜならば、我々は貸しビルオーナーであり、仲介会社でもあるからです。
都内を中心に様々なビルを所有しているし、ビルオーナー同士のネットワーキングもある、BIRTHからの移転であれば、通常かかる数ヶ月分の敷金を半分以下に削減して保証契約に切り替えましょう、といった移転コスト削減提案の融通まで効かすことが出来、支出にかかる余計なキャッシュを減らすことだって可能になります。実際にそうすると何が起こると思います?
> ・・本来オフィスにかけるハズだったお金を、他に投下出来る?
正に仰る通りです。先立つお金が不要になった分は、人材確保や事業投資に当てられるのです。そうすることで企業は、より成長に加速をつけることが可能になる。
我々はBIRTHを起点に事業をスタートさせる企業の、成長フェーズに合わせた長い支援パートナーとして、関係を築けていける強みと、その基盤を持っています。
※その他、BIRTHでは企業成長に必要な事業戦略・人事・マーケティングといった分野に専門のメンターを置いており、そういった分野においても入居者をサポート出来るようにしている。
老舗のビル会社がやってるの!?創業50年のビル管理会社がスタートアップ向けのコワーキングスペースをつくった理由
> そもそも、どうしてBIRTH KANDAを作ろうと思ったのでしょうか?
私自身、髙木ビルに入社して10年目になりますが、前職は不動産売買の仲介営業マンでした。お客さん一人一人と膝を突き合わせて一つの不動産を売り買いする営業マンからすると、入社当時の貸ビル会社は、(テナントさんと距離が遠いな)という印象でした。なんなら、貸主と借主は会わないほうが良いとも言われ、「髙木さん、前に出ないでくれ」とも言われていたくらいで(笑)
でも最初は、(オーナーとは、そういうものなんだ)と思ったんです。私も3代目として、(継承しながら会社を守っていくってそういうことか・・)とも思っていた時期があり、当時の経営状態も悪くはなかったので、そんな思考になっていました。
> そこから、どう変わったいったのでしょうか?
一番大きかったのは、東日本大震災のタイミングです。
全ての業界において相当なインパクトがあったかと思いますが、ビル業界にもそれは起きていて、業界の中がグチャグチャになった時期がありました。当時、満室だった西新宿の11F建てのビルが、一気に8フロア空室となってしまいました。背景には、近隣の大手ビルが価格を下げて、入居していた優良企業を引き抜くといった状況があったのですが、その時に初めて「お前は、今後どうビル経営をやっていくんだ?」という、これからの選択を突きつけられた感覚を覚えました。
そこからの一年は本当に地獄でした。余震の影響もあり、すぐにオフィス移転を考える企業など出るハズもなく、これまで殿様商売的に仲介業者からの紹介を待っていたという体制がたたり紹介数は減る一方でした。これまでいかに「駅前・立地が良い」というハードにばかり頼って、ビジネスをしてきたかということを痛感しました。
そこから私自身でトップ営業をするのですが、仲介業者からもこれまで溜まっていた髙木ビルに対しての不満の声を生で聞く事ができ、いかにアグラをかいた経営をしてきたかを現場の最前で体感しました。その時に思ったんです『これまで、なんてお客さんのことを見てきていなかったんだろう・・』って。
> なるほど。
結果、そこが気づきの原点となり、貸ビル会社として「お客さんが心地よく・安心して・負担なく出来る仕組み」つまり、ソフト面の重要性を感じたんです。
西新宿ビルの件もハードばかりに頼っていたので、引き留める術が「金」しか無かったんです。もし、仮に次同じ様な厳しい局面がきた時、「それでも髙木ビルに残りたい」と言ってもらえる為には、何が必要か?そういった当社ならではのバリューがつくれないのか?といった想いがフツフツと生まれてきたのがその時期でした。
そこから(株)日本商業不動産保証と出世ビルプロジェクトを動かし始め、改めて「ビルに入るまでのフェーズ企業(=スタートアップ)のサポートも必要だよね」ということでBIRTHの構想が生まれました。
まだ出世ビルプロジェクトは立ち上げて2年、BIRTHはOPENして9か月ですが、今の髙木ビルなら、あのタイミングで出ていこうとするテナント企業を引き留められると思っているんです!
BIRTH KANDAから始まる「次世代型出世ビルプロジェクト」とは?入居企業と二人三脚で成長していくビル
単なるスタートアップのスペース貸しにとどまらない髙木氏の想いは、他のビルオーナーを巻き込んだプロジェクトにまで発展している。そのプロジェクトについても伺いました。
> 「次世代型出世ビルプロジェクト」とは、どんなプロジェクトなのでしょうか?
我々の想いに賛同してくれたビルオーナーさんを有志で集めたプロジェクトになります。
事務局は、(株)髙木ビルと(株)日本商業不動産保証の2社が務めています。
現在、ビルとしては30棟弱ほどのネットワークを持っており、企業の成長フェーズに合わせたオフィスビルの迅速な紹介と、オフィス移転にかかるイニシャルコストを安くする様なサービスを展開しています。
>どんなサービスが受けられるのでしょうか?
一番大きいのが、敷金を減額する「保証金半額くん」というサービスです。例えば、通常1,000万円かかる敷金が、500万円になり、残りの分は保証契約に回すという仕組みで初期にかかるキャッシュを抑えるサービスを設計しています。特にスタートアップにおいて、オフィス移転に1,000万円のキャッシュが必要になるところを、500万円で良いよ!と言われるインパクトはかなり変わってくると思います。これは我々から企業に対する応援のメッセージでもあり、そうすることで我々は入居企業と「一緒に成長をしていこう」という共感と協働を生み、ビル自体の付加価値を上げていく取り組みをしています。
> 資金が潤沢でないフェーズの企業は、当然嬉しいでしょうね。
そうなんです。すごく嬉しかったエピソードがあって、あるベンチャー企業のオフィス移転をこのスキームで支援したのですが、実際1,600万円ほどかかる移転費を800万円まで抑えたんです。そしたら、契約の際にその若き経営者が僕に握手をしながら『この浮いた800万円は、内部ファイナンスをしてもらったのと一緒です、絶対このビルで出世します!』って言ってくれたんです。それまでの単なる「床貸し」の様な関係でしかなかった貸ビル会社の仕事としては得られなかった、胸の熱くなる何とも言えない高揚感を味わった瞬間でした。
そういった企業とのリレーションシップをつくれた結果、我々は入居企業と二人三脚の形になり、企業の成長フェーズにあった移転を支援し、また「次世代型出世ビルプロジェクト」のネットワークを通じて共に成長が出来る、という良い循環をつくっていけるのです。
これからのBIRTH KANDA
> 今後の展開や、髙木さん自身が場を通してつくっていきたい未来などあれば、お教え下さい。
今年の夏には、虎ノ門。年明けには、麻布十番にもBIRTHを創り、BIRTH会員が相互に利用出来る連携拠点と、その仕組みを創りたいと思っています。将来的には、地方(47都道府県)とBIRTHを繋げたいとも考えています。
BIRTHは、名前の通り、ここから沢山の企業が生まれていく場所でありたいし、ここに集う人たちからボーダレスなプロジェクトも生まれていく場になって貰いたいと思っています。私自身は、そんな生まれる瞬間に寄り添い・立ち会っていきたいんです。
「なぜ、寄り添いたいのか?」と聞かれたら、『だって、面白そうだから!』って答えています(笑)
> (笑)とってもシンプルですね!
BIRTHが出来て、スタートアップ企業の成長物語を常に最前列で観れる醍醐味を体感させて貰っています。ワクワクしながら楽しそうに働く彼らと、その成長を間近で見ることが出来、時にはその成長を支援する立場にも回れるって最高に楽しいですよ!だから、そういった物語をここからドンドン増やしていきたいですね。
編集後記
話を伺いながら、髙木さんの想いにとても心を動かされる感覚を覚えた今回の取材。そういった髙木さんの想いが無機質なコンクリートに血管として張り巡らせている様なBIRTH KANDAですが、普段はドロップインなど受付けておらず、利用は「メンバー制」となっております。ただ、定期的なイベントを開催しており、2018年6月26日(火)にIDOBATA BIRTH vol.4が開催されます。ご興味のある方は是非イベントにご参加を頂き、BIRTHと髙木さんの熱量を現場で感じて欲しいです。