増加傾向のIPO企業数と資金調達
2018年の新規株式公開(以下IPO)企業は90社であり、2017年の実績と同数でした。
IPO企業は金融危機の2009年には19社まで減少しました。その後は2010年から回復基調になり2015年まで増加し続けました。
2015年のIPO企業は92社であり、金融危機後の10年間では最も多くの企業がIPOを実現しました。2016年は83社と僅かに減少しましたが、その後は2年続けて90社がIPOに成功して、2019年のIPO企業も90社を超えることが予想されています。
経営者にとってのIPOの意義は資金調達にあります。2018年のIPOによる新株発行による資金調達は約2100億円であり、2014年の約3450億円以来の高い水準になりました。
昨年のIPO企業において最も多くの資金を調達したのは12月中旬に東京証券取引所第1部に上場したソフトバンクです。ソフトバンクは新株を発行することなく親会社が保有していた株式を売り出すことで2兆6460億円を調達しました。この2兆6460億円は1987年にIPOを実現したNTTの2兆3341億円を上回り、これまでの最大の金額を更新しました。
IPO企業にとっての業績と株価の重要性
IPO企業は好業績が期待されます。新株の発行や株の売り出しによって調達できた資金を海外展開や開発投資などに有効活用して業績を向上させることを通じて、利益を配当すること、株価を上げることで株主の期待に応えることができます。そして経営者には好業績を持続させることによって、株主のみならず多くの投資家に自社の魅力を訴える役割が求められます。
投資家は様々な要素を考慮して株を売買しますが、その判断基準の1つにPBR(株価純資産倍率)があります。PBRは株価を1株当たり純資産で割ることで算出できます。日本経済新聞は東証1部に上場している企業の半数がPBR1倍を下回っていることを昨年12月に報じました。
東証1部上場企業の半数がPBR1倍を下回ることは2016年8月以来です。PBRが1倍を下回っている状態は株価が割安であることを示しており、買い手が増えることが予想されます。PBRが1倍を下回るには1株当たり純資産が株価を上回ることが必要であり、利益を積み重ねることで純資産を増やすことによって実現されます。利益を積み重ねるには競争に勝ち続けることが条件になります。
持続的な競争優位を築くことに対する期待
持続的な競争優位を築くことの成功事例にGAFAがあります。GAFAとはグーグル、アマゾンドットコム、フェイスブック、アップルの4社のことです。
GAFAは検索サービス、ネット通販、ソーシャルネットワークサービス、スマートフォンのカテゴリーにおいて圧倒的な競争優位を築いています。アメリカのコンサルティング会社「プレイ・ビガー」は、あるカテゴリーで圧倒的な競争優位を築いている企業を「カテゴリーキング」と呼んでいます。GAFAの存在が「カテゴリーキング」という概念を生み出したといえます。
「カテゴリーキング」になるには新しいカテゴリーをつくること、つくり上げたカテゴリーでトップになり、トップの座を維持することが必要です。「プレイ・ビガー」はプロダクトデザイン、企業デザイン、カテゴリーデザインの3つを同時にバランス良く進めることが「カテゴリーキング」になる条件であると主張しています。
プロダクトデザインは、企業が新しい商品やサービスを開発することです。企業デザインは組織体制を整備して望ましい組織文化をつくり上げることです。そしてカテゴリーデザインが、持続的な競争優位の源泉です。新しい商品やサービスを育成することを通じて、1つのカテゴリーとして確立することがカテゴリーデザインです。
カテゴリーキング企業の多くはアメリカで誕生しており、該当する日本企業は見当たりません。今年も90社以上がIPOを実現することが予想されています。IPOで調達した資金を有効活用することを通じて、IPO企業の中から日本初のカテゴリーキングが誕生することが期待されます。