―旅が仕事になる―そんな世界があったら、みなさんは旅に出ますか。
今回お話を伺ったのは、旅を仕事として紹介する旅人求人サイト「SAGOJO(サゴジョー)」の代表の新拓也さんです。旅が好きという方にとっては夢のような世界を見せてくれるSAGOJOさん。起業のきっかけから、これから目指す世界について語っていただきました。
新 拓也氏
学生時代にアジアを旅して以来その魅力にハマり、旅のWebマガジン『Travelers Box』を立ち上げる。その後編集者になり、株式会社LIGにて企業のオウンドメディア運営やコンテンツ制作に従事。2015年12月、SAGOJOを創業。
バックパックで見た世界が起業の原体験
起業のきっかけを教えてください
僕のバックパッカーとしての経験が大きいです。僕が大学生の頃は、就職活動終わると、ものすごく時間があるんですよね。だからなにかしようと決意しまして。そのときに、バックパッカーとして旅をしていた友達に勧められるかたちで、東南アジアとインドを5ヶ月ほど訪問したんです。
そうしたら、みんなが言うとおり人生観が変わりました。(笑)
まず、旅をしてみて感じたことが、「自分はなんて幸せな環境にいるんだろう」と。
現地の方たちが、さまざまなところに案内をしてくれたこともあって、感謝を込めて「君たちが日本を訪れた際には、僕が案内するよ」と言ったんです。ところが、彼らからの返事は「いや、僕らは日本に行けない。新は幸せ者だよ。旅ができてうらやましい」というものでした。彼らの生活の延長線上では、海外を自由に行き来できないんです。彼らの生活水準が上がり、海外を行き来できるようになればなと、そのとき思いました。
また、隣国同士の仲が悪いことはよくある話だと思います。僕がある国の国境に行った際にも、軍隊の方がいて警備しているんですよ。そんな状況を目の当たりにして、「あなたは隣の国に行ったことがあるのか」、「隣の国の人たちとコミュニケーションをとったことはあるのか」って街の人々に聞いてみると、みんな無いって言うんです。
そのときに、もっと個人同士のコミュニケーションが増えたら世界は平和になるな、と思いました。なぜなら、僕が知っている方たちは、みんな温かい方たちだったからです。
そういった旅の経験から、世界中でもっと人が国境を越えて交流できたら(=旅人が増えたら)いいな、と考えていました。
大学卒業後は商社に就職したんですが、旅の魅力にはまってしまった僕は「Travelers Box」という旅人がテーマのWebメディアを立ちあげたんですね。旅の魅力を伝えるツールとして少しずつ読者も増えていきました。
でも見てくれるユーザーは、もともと旅が好きという方ばかりなんですよ。「旅人が増えたらいいな」という想いで運営していたので、旅の経験が無い人にも興味を持ってもらいたかったんです。
いったいどうすれば、旅をしてこなかった人に旅の魅力を知るきっかけを作れるかと悩んで、「彼らには、彼らの言語で旅の価値を伝えないといけないな」と考えるようになりました。
例えば、アメリカ人に物を売るなら英語で話しかけるように、旅を選択しない人には、彼らが興味を持つ切り口で話しかけようと。その言語がシゴトでした。
旅がシゴトになる、シゴトが旅になる、そういったサービスだったら、旅の魅力をみんなに伝えられる。しかも学生時代に感じた、「生活水準の壁」や「国境の壁」を払拭できる力もある。これはもうやるしかないなと思い立ってからは早かったですね。
―新さんがバックパックで訪れたバングラデシュでの一枚―
それで、今のSAGOJOがあるんですね
そうです。その後は会社を退社して、メディアについて勉強しようとLIGという会社に入りました。LIGでは企画・編集職を経験し、様々なコンテンツに触れてきました。今のSAGOJOで活かせているモノばかりですね。
SAGOJOは僕含め3名でつくりました。「Travelers Box」で知り合い、みんな旅が大好きです!(笑)
旅×仕事。対価を得ながら旅をする
すごい旅人求人サイト「SAGOJO」とはどういったサイトでしょうか
仕事を依頼したい企業と、スキルのある旅人のマッチングを行うサイトです。企業から請け負う仕事は、「だれでもできる仕事」ではなく、「旅人だからこそできる仕事」にこだわっています。例えば、テープ音声の文字起しは在宅でもできますから、そういった仕事ではなく、その土地を訪れて取材をすることなどが「旅人だからこそできる仕事」だと考えています。
そして、旅人は仕事を請けることで、お金やアイテムや特殊な旅の体験といった「リターン」を受けることができます。
「旅をしながら仕事をする」というと、仕事そっちのけで遊んでしまいそうです
実は、最初は企業からも「そもそも旅人って仕事できるの?」とよく言われていました。ですから、起業したばかりの頃は、コンテンツ制作の経験のある僕らが編集して納品することで、質を担保するということも考えていました。
しかし蓋を開けてみると、そんな懸念を吹き飛ばすくらい旅人は熱量が高く、素晴らしいものを納品してくれるんです。「旅」という切り口は優秀な人を集めるんですよね。僕の肌感ですが、旅人は「何かしたい」というモチベーションが高くて、フリーランスや起業家気質の方が多い気がします。
そうなんですね。旅人がやる気にあふれているということですね。
そうです。また、旅自体に付加価値を生み出しているという側面もあります。例えば、美術館を回ったとき、いつもなら絵の下にある小さな説明書きって読み飛ばしませんか。取材をするとなると、あれをじっくり読むようになったりして、もっとそのスポットが面白くなる。旅に深みが増すんです。
さらに、いつもの旅では触れ合わない現地の人たちと出会うことができる。SAGOJOを通すからこそできる貴重なコミュニケーションもあるんです。
そういった経験ができるから、わざわざSAGOJOを選んで旅をしてくれる方もいらっしゃいます。
掲載してある仕事はコンテンツ制作系がメインですが他にお勧めの仕事とかありますか
最近のものだと、インスタグラムを使ったPR系の仕事はおもしろいですよ。旅人インスタグラマーが旅をしながらインスタグラムでPRして地方の魅力を発信していきます。自治体のニーズが高い地域活性化の一役買うような仕事です。移住を直接支援するとなると、ハードルが高いですが、その前段階の地方に感心を持ってもらうということであれば、旅人はうってつけです。
また、少し先の話になりますが、現地調査系の仕事を提供したいと思います。例えば、企業が海外進出するとなると、視察、現地調査、テストマーケティングと段階があり、そうすると、それなりの費用がかかります。そこで、企業の視察前に旅人が現地の反応を調査すれば、気軽にかつ、低コストで済み、企業の海外進出を後押しできます。
旅人のコミュニケーション能力は素晴らしいと思っています。なかなか聞き出せない現地の本音をキャッチしてくれると期待しています。
旅人だと、どうしてもバックパッカーのイメージが強いんですが、ユーザーはどういった方が多いんですか
よく言われるイメージですね。(笑)ただ、実際は3種類の旅人(ユーザー)がいます。
・バックパッカータイプ(国内海外問わず飛び回っていて、今は仕事をしていない旅人)
・旅行好きな会社員タイプ(企業に勤めていて、休日を活用した旅人)
・フリーランスタイプ(働く場所を選ばず、移動を求めた旅人)
その中でもSAGOJOの利用者で多いのは、旅行好きな会社員タイプなんです。会社員なのに、「えっ、こんなに旅行しているんだ」と思いますよ。彼らは長期休暇や旅行シーズンだけでなく、休みがあったらすぐ旅行します。在宅ではなくどんどん外に出てアクションを起こしてくれるのは、他のクラウドソーシングとは違う点だと思います。
意外でした。ちなみに今の旅人の登録数はどれくらいですか
6,000名以上程度の方に登録いただいています(2017年8月時点)。実は、ユーザーに対して特にプロモーション活動をしていないにもかかわらず毎月400名ずつ増えているんです。「このサービス、あなたにピッタリだと思うから利用してみて」という感じで、口コミで広がりをみせていますね。
―旅好きが集まったというSAGOJOは渋谷のコワーキングスペースを拠点に活動中―
考えただけでワクワクする。そんな世界にしたい。
SAGOJOは今後どういったサービスの広がりをみせてくれるのでしょうか
まず、直近の目標ですと、企業からの案件数を増やすことです。おかげさまで旅人の登録者が増えているんですが、一方で、1つの案件に対して旅人からの応募倍率が7〜8倍という数字になっており、十分な案件数があるとはいえない状況です。ですから、企業に対して、旅人を使うメリットや、旅人を使ったサービスでできることを訴え、掲載数の増加を目指しています。
また、中期的な目標ですと、SAGOJOを通して成長できる機会を旅人に提供したいと思います。具体的にいうと、まだまだ仕事を任せるには未熟な方向けの教育システム作りが挙げられます。例えば、記事執筆スキルがない方でも仕事を受注できるように、SAGOJOやスキルを持った方がノウハウを教えるといったものですね。そうして、旅を通して成長していただくんです。
旅に出るというと、休暇、ドロップアウト、遊びというイメージが世の中の一般的な認識です。でも旅にはキャリアアップできる側面もあるんです。僕も旅に出て成長できたと思っています。これを世の中の常識にしていきたいですね。
最終的な目標は、「旅をしながら仕事をする」ということを当たり前の世の中にすることです。例えば、世界中のゲストハウスを拠点に旅をしながら仕事をして、納品したらまた旅に出て仕事をする。ポケモンセンターみたいに、リアルな拠点ともリンクしながらSAGOJOを使って旅できることが僕らの目指す世界観です。そんな世の中ができたら、考えるだけでワクワクしませんか。
編集後記
「SAGOJOのユーザーと僕ら運営側が一緒になって、サービスを大きくしようとする一体感が生まれています。それだけ、旅人の方から期待をいただいています。」とお話しする場面がありました。確かに、魅力的なサービスだからユーザーが応援したくなるのも分かるなと思うのと同時に、楽しそうに語る新さんには他者を引き込む魅力があって、ユーザーが応援しているのはサービスだけではないな、と感じるインタビューでした。