今回は、種類株式の中の「拒否権付株式」について解説したいと思います。
でもその前に、種類株式を発行するにはどうしたら良いのでしょうか?
※種類株式とは?
種類株式を発行する!カネは出して欲しいが口は出されたくない。議決権制限付株式
種類株式の発行方法
会社法第108条には
株式会社は…(中略)…内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、各号(各種類株式ごと)に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
とあり、種類株式を発行するには、定款で定める必要があるとされています。
定款を変更するには株主総会の特別決議が必要ですので、種類株式を発行するには、まずは株主総会を開く必要がある、ということになります。
定款で定めるべき内容は、種類株式ごとに定められており、例えば、剰余金の配当(優先株・劣後株)の種類株式の場合には、「配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件、その他剰余金の配当に関する取扱いの内容」を決めて定款に掲載する必要があります。
仮に、「余剰金の配当を優先する代わりに議決権を制限する株」という種類株式を発行したい場合には、以下のような条文を、定款に盛り込むことになります。
(発行可能株式総数及び発行可能種類株式総数)
第●条 当会社の発行可能株式総数は、●●株とし、このうち●●株は普通株式、●●株は甲種類株式とする。(剰余金の優先配当)
第●条 甲種類株式は、剰余金の配当について普通株式に優先し、当会社が剰余金を配当する場合には、甲種類株式1株に対して普通株式1株に対する配当額の●●倍の配当をするものとする。なお、1株につき1円に達しない端数が生ずる場合には、その端数は切り捨てる。(議決権制限条項)
第●条 甲種類株式の株主は、剰余金の配当に係る株主総会の決議についてのみ議決権を有する。
これはあくまでも一例ですし、当然、どんな種類株式を発行するかによって定めるべき項目やその内容は異なりますので、希望に合わせて定款を変更することになります。
さらに種類株式は登記事項でもありますので、法務局において、変更登記をする必要もあります。
拒否権付株式とは?
さて、ではいよいよ本題の「拒否権付株式」について解説いたします。
拒否権付株式とは何でしょうか?
そもそも法律上は、「拒否権付株式」というタイトルは付けられていません。会社法第108条では以下のように書かれています。
株主総会(又は取締役会※一部省略)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
分かりやすい言葉になおしますと、「株主総会(や取締役会)で決議をする必要がある内容のうち、予め決めておいたものについては、株主総会(や取締役会)で決議をした後にさらに、拒否権付株式を持っている人だけで集まった拒否権付株式の株主総会で決議をしないと決議したことになりませんよ」ということです。
本来なら、株主総会(や取締役会)で決議すべきものは、そこで決議すれば終了のハズです。
しかし、「拒否権付株主総会が必要」と決めておいたものについては、いったん株主総会で決議がなされても、この「拒否権付株主総会」で拒否されると、株主総会(や取締役会)の決議が覆ってしまうのです。株主総会の決定を拒否できる株式、という意味で、拒否権付株式という名称が付されているわけです。
ではどんなときに、この拒否権付株式が必要なのでしょうか。
最もイメージしやすい例としては、敵対的買収などによって株の多くを買収されてしまったようなケースです。
TOBなどによって株の多くを握られて株主総会を制されてしまい、あわや、吸収合併の決議がされてしまう!(合併するかどうかは、株主総会の決議が必要)というようなときに、この拒否権付株式が発行されていれば、そこで拒否=合併を阻止できる、というわけなのです。もちろん敵対的買収の前に発行していないと、使えませんけれども。
なぜ黄金株というのか?
ちなみに「黄金株」という表現は、拒否権付株式とほぼ同義でも使われますが、厳密には、買収関連の決議事項について拒否権を設定した拒否権付株式を、特にそう呼ぶことが多いです。
黄金株があれば、どんなにたくさんの株を取得されて株主総会を制されても、それを拒否して会社を守ることができるのです。
さらに、この黄金株には、譲渡制限が付けられることがほとんど(というより、むしろ譲渡制限をつけておかないと意味がないでしょう)です。なぜなら、その拒否権付株式をあっさり敵対的買収をしかけた人たちに売り渡されてしまっては元も子もありませんからね。その株を信頼できる人に持っておいてもらえば安心、というわけです。
さらにさらに、拒否権付株主総会と言いつつも、その株主は1人だけでも良いのです。
拒否権付株式の所有者が1人しかいなければ、その人が決めた内容が、拒否権付株式の株主総会決議、ということになるので、拒否権付株主が1人しかいない場合は、そのたった1人が賛成するか反対するかにかかってくるわけです。
敵対的買収をしかけた人が、どんなに多くの株を買収しても、その人が拒否したら終わり、というものすごい強力な株になりますね。だからこその黄金株、なのです。
うちの会社で、黄金株を発行する必要はあるの?
黄金株はいったいどんな時に使えるのでしょうか。ひとつの例としては、事業承継時などもあるかもしれません。
先代社長から息子などへ経営権を譲る際、しばらくは様子を見るために、先代が拒否権付株式を所有しておく、なんていうこともあるかもしれませんね。
法律はあくまでも基本ルールが定めてあるだけです。
黄金株も、拒否権付株式の活用方法のひとつとも言えますし、そこにある法律をどう活用するかは、それぞれの企業のニーズ次第、ということになります。