会社設立をお手伝いしている中で、「会社で一番偉い人って社長ですよね?」といった素朴な質問を受けることがあります。
あまりに素朴な質問に一瞬戸惑ってしまいそうですが、皆さんは会社で一番偉い人は誰だと思われますでしょうか?
この質問に答えるには、その前提として、「社長」とはどんな人なのか、「偉い」とはどういうことなのか、というのが問題になりますね。まずはこの点を考えてみたいと思います。
そもそも社長とは?
さて、そもそも社長とはどんな人なのでしょうか?
「社長」と言えば誰もが、会社の代表者だね、ということは分かりますが、実はこの「社長」という肩書き、法律では規定されていないのです。では法律で、会社の代表者を表す肩書きとして規定されている言葉は何かと言えば、「代表取締役(持分会社では代表社員)」です。
はいはい代表取締役ですね、知っていますよ、と思われた方も多いと思います。すると今度はこの「社長」と「代表取締役」はどう違うのか?が気になることでしょう。
この違いを理路整然と説明できる人は案外少ないと思うのですが、簡単に言いますと、
代表取締役=法律的に会社を代表する人
社長=商習慣的に会社を代表する人
という感じでしょうか。
社長=代表取締役?
「社長」は、法律にはない用語ですので、必ずしも「社長とはこう言うものです」と普遍的に決まったものはないのですが、商習慣的に、会社の代表者を呼ぶ名称として普及しています。
そして実際、多くの会社が会社の定款(各会社のルールブックのようなもの)において、会社の代表者に「社長」と言う肩書きを与えています。
では、社長=代表取締役なのか、というと実はこれはこれで微妙なのです。
確かに通常は、社長=代表取締役で、会社の代表者が「代表取締役社長」という2つの用語をセットにした肩書きを付けている場合も多いと思いますが、必ずしもそうではありません。
例えば、代表取締役というのは、意外かもしれませんが、ひとつの会社に複数人おくことができます。ですので、「うちの会社には代表取締役が3人います」という会社も実は結構あります。
一方、習慣的にではありますが、「社長」というのは、多くの場合、一人しかおきません。そのため、代表取締役が複数人いる場合でも、その中から社長をひとり選び、ひとりが代表取締役社長でそのほかの人は代表取締役のみ、とすることがあったりします。
ただ、「社長」という肩書きが法律で規定されていない以上、社長は一人しかおかない、というのはあくまでも習慣的なものであり、そう決められているわけではないので、社長が3人存在する会社も理屈上はあり得るのです。
というわけで、「社長とは何者か」という問いは、案外難しい問題なのですが、ここではいったん、「代表取締役社長」として考えてみたいと思います。
「偉い」とは?
次に「偉い」について考えてみたいと思います。
偉いとは何か。これを考え始めると哲学的になってしまいそうですね。。。
というわけで、手早く結論を導くため、「会社において最も強い権利をもっているのは誰か?」ということをポイントに考えてみたいと思います。
代表取締役は、互選や取締役会によって、「取締役の中から」選ばれるわけですが、この「取締役」はどうやって選ばれるのでしょうか?
取締役は、「会社」から「取締役になってください」と委任されて初めてなれる役職です。では、この「会社」とはナニモノでしょうか?それはずばり「株主」です。
つまり、「取締役を誰にするかを選ぶ権利」は「株主」にあるのです。
取締役は、株主に選んでもらえないと取締役にはなれず、当然、代表取締役にもなれません。さらに解任も同じで、株主は、取締役を解任する権利も持っています。
このように考えると、自ずとどちらの方が「偉い(強い)」のか、結論は出てくるのかなと思います。
結論
さて、結局「代表取締役社長」と「株主」どちらが偉いのでしょうか?
一般的には、「会社で一番偉い人」=代表取締役社長、というイメージがあるかもしれませんが、法律的には、株主の方が「偉い(強い)」と言えるかなと思います。
ときどき、2名で会社を設立するにあたって、Aさんに権力を持たせたいのでAさんを社長にして、Bさんにはあまり権力を持たせたくないのでお金だけ出してはもらうけど(=株主にはするけど)取締役にはしません、というようなことを考える方がいらっしゃるのですが、これは全くもって逆です。
その会社は、株主となったBさんのものであり、取締役を誰にするかを決める権利はBさんにあるのです。そのため、AさんはBさん次第でいつでも辞めさせられてしまう可能性があるのです。
会社を設立する際は、そのあたりのことに注意して、お金を出す人(株主になってもらう人)を決めるようにしましょう。