にぎやかな駅前を離れるように歩くこと5分、落ち着いた住宅街エリアに今回取材をしたHiO ICE CREAMはある。大きな一枚ガラスでほぼ店内を一望出来てしまう外観、白衣を着たパティシエが丁寧にアイスをつくる姿は見慣れなく、初見では(ここがアイスクリーム屋?)と目を疑ってしまう。「つくり手の顔が見えるものづくりを大事にしたい」と話す同社代表取締役の西尾さんの想いが店舗のデザインにまで感じることが出来る。人材・投資・スタートアップと、ゴリゴリなビジネスキャリアを積んだ彼に、取材前は、どんな秘策があってアイスクリーム工房をはじめたのか!?を期待した編集部だが、出てきたのは【正直なものづくりへの姿勢】だけだった。今回は、そんな起業家の話に耳を傾けたい。
プロフィール(株式会社HiOLI 代表取締役 西尾修平氏)
2003年に大手人材情報サービス企業に入社し、人材採用コンサルティングや子会社経営企画等を担当。その後、東証マザーズ上場IT企業の取締役等を経て、2016年に製菓のスタートアップ企業に参画。副社長・社長として新ブランドの立ち上げ、海外展開等を推進。2019年4月、クラフトアイスクリームブランド「HiO ICE CREAM」を創業。
株式会社HiOLI(ヒオリ)について
ー 事業内容について、教えて下さい。
株式会社HiOLIでは、クラフトスイーツの開発・製造・運営を行なっています。
その第一弾のブランドとして、クラフトアイスクリームの「HiO ICE CREAM」というブランドを2019年4月に立ち上げ、自由が丘に工房と店舗を構えながら、オンライン販売等の事業も展開しています。
ー 「HiO ICE CREAM(ヒオアイスクリーム)」とは、どんなブランドなのでしょうか?
HiO ICE CREAMがブランドとして大事にしているポイントは、3つです。
1.素材にこだわり、素材本来の良さを引き出したアイスクリームをつくること
2.手間を惜しまないモノづくりをすること
3.顔が見えるモノづくりをすること
使用する素材にこだわるのは勿論ですが、アイスクリームを製造する過程においても、素材の味を最大限に引き出す為に少量ずつ、かつ、より丁寧な形態であるスモールバッチを選択してつくっています。3つ目の「顔が見える」に関しては、店舗を見てもらうと分かる通り、現場で製造をしている私たちのこともそうですが、素材を提供してくれている生産者に関しても顔や、現場の物語がスタッフやSNSを通じて、お客様に届けられる様に工夫をしています。
※自由が丘にある工房では、同社のパティシエがアイスをつくる姿が直に見れる。
ー 原料で使用する素材に関しては、どの様に調達しているのでしょうか?
現在は、私が直接生産者さんにお会いして確かめたモノを仕入れて、メニューとして提供しています。
※取材時、青森県弘前市の赤石農園がつくった弘前ふじという品種を使った、林檎ミルクを頂いた。
ー 製造現場もそうですが、本当につくり手全員の顔が見えているんですね!ブランド名にある「HiO(ヒオ)」には、どんな意味が込められているのでしょうか?
Hiは、【太陽の陽・お日様の恵み】を意味しており、使用している素材の良さを象徴する一つのイメージとして入れています。Oは、アルファベットの「O」から連想される【円・輪っか】という形に、1人より2人、2人より3人、4人と、皆んなでシェアして食べてもらうシーンをイメージしており、皆んなで食べることでそのお菓子がより美味しくなって欲しい、という願いを込めています。
HiO ICE CREAMでは「Pint Club」という、毎月2種の季節限定フレーバーのアイスが楽しめるサブスクリプションサービスもやっていますが、サイズをパイント(約500ml)にしているのも「アイスを中心とした大切な人との時間をシェアして欲しい」という願いを込めて、あえて大容量のサイズにした定期便でお届けをしています。
何かを競合視するのではなく、大切なことは「どんな価値を創造出来るか?」
ー 個人的にもアイスクリームは大好きですが、昔の様に大家族も少なくなっている中で、現在の市場はどうなっているのでしょうか?
10年前は、3,000億円後半と言われていた市場ですが、現在は5,000億円を超える市場にまで成長しています。
ー あ、伸びているんですね!
そうですね。
ー 確かに、チェーン店ではないアイスクリーム屋をここ最近見る機会は増えましたね。そういった店舗との差別化は、どんなところに置いているのでしょうか?
市場の成長トレンドもある中で意識しているのは、何かを競合視するのではなく、「(HiO ICE CREAMでは)どんな価値を創造出来るか?」に焦点を当てています。
既存の流れでいうと、
・高い素材を使っていたり、つくり手のタレント性によって価値が上がる高級商品
・大手を中心として展開しているコストパフォーマンスの良い大衆商品
の2つがあると思っており、私たちはそこに「商品背景」や「買う意味」にも焦点を当てていきたいと考えています。私達は、スタートアップなので大手企業と競争したところでコスパ重視の大量消費される商品をつくれる訳ではないですし、プレミアムギフト的な位置付けで特別な日だけに消費される商品をつくりたい訳でもありません。
自分へのちょっとしたご褒美や、大切な時間につかってもらえるカジュアルギフト・ライトな手土産に、それを買う意味やブランドの持つ物語も一緒に買って頂けたらと思っています。
既存プレイヤーを否定するのではなく、シーンを使い分ける中で「こういったモノもあるよ!」というのが、現在の差別化ポイントであり、新たな選択肢として世の中に提起していきたいという考えですね。
ー なるほど!納得です。
冷たいアイスの心温まる話。なぜ、アイスクリームを選んだのか?
ー そもそも、なんでアイスクリームを最初の事業ドメインとして選んだのですか?
今の世の中の大きな流れの中で、「クラフトの文化」が伸びていると考えています。例えば、ビールであったり、チョコレートであったり、コーヒーであったりと。その流れは、スイーツにもきっとくると感じていましたし、それが成長産業であれば尚更ハマるだろう、と。
ビジネス観点の話をすれば、そんなところですが、、その中で最初の事業ドメインとしてアイスを選んだ最後の決定打は、私が小さい頃からアイスクリームが本当に大好きだったっていう、そこに尽きますね(笑)
ー 事業にしちゃうくらいですから、本当にアイスが好きだったんですね。
これは私の幼少期に遡る話ですが、田舎の中小企業で働いていた私の父親は仕事人間で、家庭の中で会話をする機会が本当に少なかったんです。そんな中、唯一お父さんと会話が出来る時間は、週末の夜にアイスを買いにいき、一緒に食べる時間でした。
当時も大きいアイスを買って、家族皆んなでシェアをしていたのですが、そういう時間も含めて、アイスには特別な思い出を持っています。
ー なるほどー・・そう言われてみると、小さい頃は大きいアイスを買って、家族皆んなで食べていた記憶がありますね。
昔は、よくありましたよね。そういう時間が自分の中では(幸せだったなあ)という原体験と、コミュニケーションが希薄になっていると思われがちな現代の中でも、アイスを通して、もう一度、人の輪がひろがってくれたら良いなという想いはありますね。
ー 小さい頃の記憶がよみがえってきます。。また家族でアイスを食べたくなります(笑)
自社でオールコントロールすることで、世の中に価値を問う。
ー 元々、西尾さんは起業前はどんな仕事をされていたのでしょうか?
新卒ではリクルートに入社をし、そこから投資やIT関連の仕事を約10年。その後、お菓子のスタートアップの経営を経て、現在に至ります。
ー 起業をされた経緯についても教えて下さい。
HiOLIを起業する際に、自分達の子供の世代やその子供の世代にどういった食環境を残していけるだろうか、と改めて考える機会がありました。そして、日本各地にで無農薬・減農薬といったチャレンジをしながら安心と味づくりを追求される生産者さんとの繋がりを大切に、素材本来の良さを引き出すことに焦点を当てたお菓子づくりに焦点を当てたモノづくりをしたい、と考えはじめたのがひとつのキッカケとなりました。
ー でもアイスって、工場も必要だし、パティシエも必要だし、店舗必要だし、ネットサービスを始めることに比べると・・
初期投資は重たいですよね。
ー その辺りの不安や懸念はありましたか?
やりたいことを実現していく為、無いものを創造していく手段として、その先行投資が必要であることは分かっていたんですよね。OEMで外注して始めれば初期投資としてはコストが下がることは理解していたのですが、やはり自分達で可能な限りオールコントロールをして、最初から自分のイメージするクオリティのモノで世に問うことが出来るのは、リスクとの対価になると考えていたので、始めからそのリスクだけは背負わないと、と考えました。
そういった意味でも、自由が丘の工房は単に販売する場所というよりも、生産者さんとの繋がりの背景やストーリー的なものをお伝えさせて頂きつつ、手間暇がかかる工程を目で見ながら素材そのままの香りや味のプロダクトを楽しんで頂く『HiOLIのモノづくり』を体験頂く場にしたくて作りました。
『自分が歩き回って出会った素材を使い、この工房で新しい商品を考えたり既存商品のブラッシュアップし、この工房で手間をおしまずマイクロバッチで少量ずつ丁寧に作り、この工房に訪れて来ていただいた方やECなどのチャネルを通じてお客様に届ける』まだまだ小さなサイクルですが、HiOLIが考えるクラフトのカタチでお客様に新たな選択肢のひとつとなれるよう目指していきたいです。
今後について
ー 中長期的な展開についてお教え下さい。
クラフトスイーツとHiOLIが大事にしている価値観を中軸に3つの発展を考えています。
一つ目が、既存のアイスクリームを引き立てる新しいプロダクトの開発。
既に何度かチャレンジしていることでもありますが、例でいうと、アイス×焼きリンゴや焼き芋のようにアイスと一緒に食べる、ペアリングすることでより美味しくアイスを食べることが出来る商品の開発を考えています。また、場合によっては、そこからスピンアウトをさせて、事業化する可能性もあるかもしれないですね。
二つ目は、グローバル展開。
まずはアジア圏への展開を早い段階でやりたいとは考えています。ことアイスクリームに関していえば、アジアの方が年間通じて気温が高いので、すごく相性が良いだろうと思っています。
最後は、生産者との取組強化。
より美味しい素材をつくっていこうとなった時、ちゃんと生産者に還元できるスキームと継続性を持たせる仕組みづくりが大切になってくると思っています。将来的には、生産者の協力もいただきながら、自分たちでも(素材を)つくっていくなど、1次産業に深く関与していく可能性も含め、より美味しいお菓子をハンドクラフトしていくオプションを考えています。
現在は、効率を度外視しているがゆえに沢山つくることが出来ないという状況下の中で、届けられる幅を広げたいと考えた時には、「素材調達」は必ず経営課題になってくると考えています。その時に、自分たちでもつくっていける環境を中長期的には整備していきたいですね。
ー 最後に、記事内でお伝えしたいPR事項などあれば教えて下さい。
興味をもって頂けた方は、まずは一度、HiO ICE CREAMを食べて頂けると、とても嬉しいです。店舗は、自由が丘にありますし、遠方の方であればオンラインでの販売もしています。
自宅で過ごす機会も多くなるこれからの季節、美味しいアイスを食べることで、気持ちの面で日々の生活が少しでも豊かになってくれたらなと思っています。
ー 味もそうですが、おしゃれなデザインは差し入れやギフトにもぴったりですね!今日は有難うございました。
こちらこそ、ありがとうございます。