従業員を雇用する場合には、主要な労働条件を明示した労働条件通知書を交付することが労働基準法で義務付けられています。実務上は、労働条件通知書に労使の署名押印欄を追記して雇用契約書という形で書面を取り交わすことも多いと思います。
今回は、労働条件通知書や雇用契約書の中で、後々に従業員とのトラブルを防ぐために、とくにしっかりと決めておかねばならない労働条件についてつ4つピックアップして解説します。
1.雇用契約期間
雇用契約期間が「有期」か「無期」かを明確に定めることは非常に重要です。採用した人を実際に働かせてみて、能力が期待値を大きく下回っていたり、経営者や同僚との相性が合わなかった場合は、雇用関係を解消したいと経営者は考えます。
この際、有期契約であれば、雇用契約期間が満了した時点で雇用関係を解消することが可能です。一方、無期契約の場合は、本人と話し合いで合意退職にするか、訴訟等のリスクをとって解雇扱いにせざるを得ません。
雇用期間を明確に定めなかった場合は、法的には無期契約扱いになってしまいますので、無期契約で採用した場合以外は、必ず雇用契約期間を明記するようにしてください。また、有期契約の「更新の有無」について、「更新する場合がある」のときには、更新基準も合わせて明記する必要があります。
2.みなし残業代
仕事が遅い人ほど残業代で稼いで給与額が逆転する現象を防ぐためや、時間で評価するわけではない賃金体系をつくるため、近年は「基本給には45時間分の時間外労働の対価を含む」とか「5万円のみなし残業手当を支払う」といったように、いくつかのパターンはありますが、みなし残業代の制度を導入する会社が増えています。
みなし残業代を導入する場合は、必ず労働条件通知書や雇用契約書に、みなし残業代の支給条件を明記するようにしてください。口約束だけの場合は、法的にはみなし残業代は無効となり、裁判になった場合は、莫大な残業代の精算を求められてしまいます。
3.フレックスタイム制・裁量労働制など
1日8時間、1週40時間の原則的な労働時間ではなく、フレックスタイム制、裁量労働制など、特殊な労働時間制度を適用する場合には、その旨を労働条件通知書や雇用契約書に記載する必要があります。
本人が知らないところで会社が勝手に特殊な労働時間制度を導入することはできません。労働トラブルで裁判になった場合は、フレックスタイム制や裁量労働制の適用が否定され、1日8時間、1週40時間で計算しなおした場合の残業代との差額の精算を求められることになります。
4.自然退職・懲戒解雇の事由
長期にわたり音信不通の場合、私傷病による休職から復職できない場合など、あらかじめ条件を定めておけば、労使の合意なく自然退職扱いにすることができます。また、懲戒解雇は、あらかじめ懲戒解雇事由が明示されていた場合にのみ行うことが可能です。
定年に関しても、自然退職の一種ですが、定めをしておかなければ、無期契約の場合は、自己都合退職や解雇をしない限り、何歳まででも在籍できることになってしまいます。意図的に定年を設けない場合以外は、必ず定めるようにしましょう。
就業規則を作成済みの会社の場合は、労働条件通知書や雇用契約書に「定年・解雇等については就業規則の定めによる」と一文を入れれば良いのですが、まだ就業規則を作成していない会社の場合は、自然退職や懲戒解雇の事由を、労働条件通知書や雇用契約書に網羅しなければなりません。
そうしなければ、従業員が行方不明になったり、犯罪行為や重大な社内秩序違反を行っても、全て普通解雇扱いで処理をしなければならなくなってしまいます(普通解雇は書面上の定めがなくても法律上当然に行うことが可能)。
雇用契約の解消は、最も労働トラブルに発展する場面ですから、労働条件通知書や雇用契約書にしっかりと定めるか、あるいは、この機会に就業規則を作ってしまうのが良いでしょう。
まとめ
労使関係がうまくいっているときは、労働条件通知書や雇用契約書を持ち出さなくても実務上、問題は起きません。しかし、どんな会社であっても、何かのきっかけで労働トラブルが発生する可能性は0%ではありませんので、「お守り」として、労働条件通知書や雇用契約書はしっかりと作成しておくことをお勧めします。