今年の8月に約4億円の資金調達を発表したクラウドRPAサービス「BizteX cobit」を運営する同社代表取締役の嶋田氏の起業は40歳を節目にスタートする。今の流れ的には決して早くない起業にも嶋田氏は「おっさんには”おっさんの強み”がありますから」と笑いながら答えてくれた。これからの私たちの働き方を劇的に変えてくれるであろう同社のサービスと、同氏が語る経験値を積んでからの起業ならではの「おっさん力」たるものに触れてみたい。
プロフィール(BizteX株式会社 代表取締役 Founder/CEO 嶋田光敏氏)
ジェイフォン株式会社、ボーダフォン株式会社、ソフトバンク株式会社で通信商材を企業向けに提供する法人事業に約14年従事。営業時代は達成率No.1を獲得。2012-15年の3年間は法人事業の新規プロジェクト、新規事業開発の室長を歴任。法人向け電力小売りPJ、IBM Watson PJ、法人版Pepper PJなど数多くの事業立ち上げを実施。 2015年BizteXを創業。趣味はサッカー、フットサル。
BizteX株式会社について
> 事業内容について教えて下さい。
はい。現在、BizteXではクラウドRPA(※)「BizteX cobit」の開発とサービス提供を行っています。
※ Robotic Process Automationの略。人が行うデスクトップ画面上の操作を、ルールに基づいて自動的に再現する技術のことを指す。近年、ホワイトカラーの単純な間接業務を自動化する技術として注目が集まっている。
> クラウドRPAサービス「BizteX cobit」とは、一体どんなものなのでしょう?
BizteX cobitは、データ入力や集計などの、毎日行う定型業務を指示しておくことで、人の代わりにワンクリックで代行してくれるデジタルロボットです。
RPAの製品自体は既に海外・国内を含めて出ていますが、BizteX cobitの特徴は主に3つです。
1.クラウドで提供しているソフトウエア(SaaS=Software as a Service)である
従来の製品はPCなどにインストールする「インストール型」が多かったものから、「クラウド」を通じて提供されるソフトウエアとして展開しています。
2.中小企業でも導入しやすい「価格帯」
これまでのRPAは大手企業向けの製品になっていた為、価格もそれ相応な金額で展開されていたものを中小企業でも導入しやすい価格帯で展開しています。
3.「誰でも使えるRPA」をコンセプトに自社開発したUI
現在、市場に出ているサービスは海外製品が多く、日本の企業にとっては言葉の問題(英語仕様)であったり、システム部門の方しか使えない様な専門用語の理解が必要だったり、使えるメンバーを限定してしまう要素が幾つかあります。そういった従来のRPAと比べ、私たちは国内で自社開発していますので「言葉の問題」や、どの部門の方でも簡単に操作が出来るといった「使い易さ」にこだわり、実際にユーザー様からも好評を頂いております。
> なるほど。どのような層の顧客がサービスの対象なのでしょうか?
クライアント規模で言うと、10数名規模から〜大手企業まで様々ですが、
業界的に親和性の高い業界は、広告代理店やIT系、人材といった業界になります。
採用難により、人が取りづらい時代となっている現在。そうは言っても人が必要だ、という企業の課題に対して「テクノロジーによって、一人あたりの生産性を上げる」という我々のサービスを受け入れて頂いており、ローンチから一年弱ですが、PoC含め約400社の企業様に導入を頂いております。
> 市場では海外製品が多いとの事ですが、国内でこういったクラウドのRPAサービスが少ない理由として、どんな事があるのでしょうか?
そうですね、大きくは2つの理由があります。
一つ目は、海外製品が先に市場を取っていたので自分たちでは作らなかった点が挙げられると思います。そしてそれを、大手のコンサルやSIerと一緒に提供する形として販売経路をつくっていたので、どちらかと言うと、大手企業向けにしっかり儲けられるモデルとして、これまではRPAというサービスが(国内で)浸透してきました。
二つ目は、クラウドではなく従来の社内にインストールするタイプの方が、大企業を相手にした時、セキュリティー上の問題や、社内の機関システムとの相性を考えた時に相性が良かった点があります。なので、既存のサービスは、金融機関や自治体といった方々のご利用が多いですね。
BizteX cobitが目指すのは、「RPAの民主化」
>「BizteX cobit」は、構想としてずっとお持ちのアイデアだったのでしょうか?
実はサービス自体は後づけでして、まずは「起業をする」と決めてからビジネスアイデアを考えていきました。最初は、シェアリングエコノミーから考え始めていて、初めてつくったビジネスアイデアは、カーシェアのサービスでしたね。
ただ、そのアイデアを考えた経緯も投資家訪問をする中で投資家の方から勧められたアイデアだったので、言ってしまえば「人から言われたビジネス」だし、ずっと法人向け(toB)のビジネスをやってきた自分にとっては、個人向け(toC)の動き方に正直ピンときていなかったんです。
結果的にも、別の投資家からは「嶋田さんのバックグランドと違うから投資出来ないね」なんて言われたりもして、もう一度事業案から練り直しましたね。
> そこから、どうRPAサービスに着目されたのでしょうか?
ビジネスプランを練り直す中で、企業に対してヒアリングを行うのですが、その中でデータの取得や入力といった「定型業務」に一定数の課題を感じている企業のニーズが存在していることを知りました。加えて、私が在籍していたIT企業のソフトバンクでさえ、そういった業務をメンバーに依頼して行っているという事実があったり、と。(ここを解決したい企業のニーズが一定数存在するのではないか?)と思ったのをきっかけにRPAの存在を知ります。
調べていくと【大企業向けで海外製品が多い・価格帯も比較的高単価で導入しづらい】といったRPA製品自体にも課題があることが分かり、これをクラウドにして簡単に使える様になれば、もっともっと皆んなの役に立つのではないか?と思い、サービスの構想に入りました。
> これまで大企業が受けていたRPAの恩恵を、クラウド化することで中小企業まで解放するような感じですかね?
そうですね。既存のRPAサービスを再定義して「民主化」していくようなことを考えたのがBizteX cobitのスタートです。
「自分の登る山を決めろ」「志を語れ」。起業家精神を養ってくれた2つのビジネススクール
> そもそもの「起業をしたい!」という想いは、いつ頃からお持ちだったのでしょうか?
2006年のジェイフォン四国に在籍していた時、営業成績で全国一位を取った時から、ぼんやりと意識し始めました。
そこから翌年上京し、会社もボーダフォン→ソフトバンクへと変わっていくのですが、営業をするだけでなく、もっと企画をしたり、組織をつくったりすることを学ぶ為、2~3年のスパンで他部署に異動させて貰う様、会社の中では手を挙げ続けていました。
> なるほど。
将来的に起業したい!という志向は持っていたので、孫さんの後継者育成プロジェクトでもある「ソフトバンクアカデミア」にも参画をし、孫さんの帝王学も学びました。
その中で(もっと経営の知識を学ばないとダメだな)と思うようになり、今度はグロービス経営大学院に国内MBAを取得しにいった流れになりますね。
グロービスを卒業をしたのが2015年で、私も丁度40歳になり、一通り事業のつくり方も学んだし、経営知識を学んだので、「エイヤッ!」で辞めましたね。
> 一同:(笑)
とは言いつつ、家族がいて、家のローンもあるし、ソフトバンクという大きな会社で役職も頂いていたので(本当にこれを捨てて良いのか?)という葛藤は正直ありました(笑)
>よく踏み切れましたね。
起業をしたいとぼんやり考え始めた2006年とは、また違った状況ではありましたが、
ソフトバンクアカデミアの孫さんとグロービス経営大学院時代の堀さんの言葉には背中を推して貰いました。
アカデミアの中で、孫さんは「自分の登る山を決めろ。自分が命をかけてやるべき事を見つけられたなら、半分成功したようなものだ」と仰られていて、自分の登るべき山は何か?を真剣に考えるようになりました。もう一つは「この中でスネに一番傷をつくっているのは俺だ」とも仰られていて、彼は自分がやってきたことを成功とは決して言わないですが、その分の失敗をして今があるんだ、お前たちもどんどんチャレンジをしろ!ということを伝えてくれました。その時、私の中では、会社という枠を外れ、自分の持っている課題感を、自分の力で解決していくことが自分の「登る山」なのではないか?と強く思う様になりました。
グロービスでは学長の堀さんが「志を語れ」と仰ってくれる中で、
学んだ経営知識をどう活かしていくのか?ということを教えてくれました。
そしてある時、孫さんと堀さんが話す言葉は、言葉こそ違えど、
自分が何をやりたいか?という使命感に向き合った原体験から出てきていて、そして、それを見つけたのであれば、それに突き進むべきだ、と言っているんだな、と気づきました。
>そこで学んだ知識や経験が、ある種の自信にもなったし、背中を押してくれる機会にもなったんですかね?
そうですね。
40歳をむかえての起業。「おっさんになっても、おっさんの強みもある!」
> 少し話題は変わりますが、40歳をむかえてからの起業は、今の流れ的には「遅め」と周囲からは見られるかもしれません。振り返えられて、その辺りで感じていることも伺って良いでしょうか。
うーん・・そうですね。
もし、過去に戻れるならもっと早く起業していたかな・・と思うこともあります。
それは、若ければ状況的にも身軽だし、行動力や突破力といった「フットワークの軽さ」は若くして起業をする利点でもあると思います。スタートアップでは、特に重宝する部分でもありますよね!
ただ、僕は現在42歳、CTOの袖山も現在40歳と。年齢的には「おっさん」なのかもしれないですが、おっさんになってこその人脈や積み上げてきた経験値の高さなどは逆に武器になるなと感じています。組織づくりの観点から話をすれば、僕も彼もマネジメントを経験していたので、スタートアップがつまづくであろう苦労も最小限で回避が出来たり、など、おっさんの“味”を活かした立ち上がりが出来ていると思います。
> おっさんの“味”ですか(笑)
しかも、我々の様なBtoBのビジネスにおける法人営業の場合、先方の役員陣と会話が出来るといった良い意味の「おっさん力」も必要になってきますよね。今回の資金調達では、グロービス経営大学院からも資金を入れて頂いたりと、これまで経験してきたことや人脈も活かせるといったスタート時の利点も感じています。
なので、自身のケースに関しては、一概に(若い方が良かった)と言えないとも思っています。
「おっさんになっても、おっさんの強みもある!」と今は感じています(笑)
今後について
> 中長期的な展開についてお教え下さい。
我々の「テクノロジーで新しいワークスタイルをつくる」というミッションを如何にして達成していくか?を考えているので、サービスで出来ることの機能とその利便性をどんどん高めて、お客様のワークスタイルを変えていける様になりたいと思っています。結果的には、この分野でのシェアNo.1を目指しています。
我々の様なサービスが拡まった世界観として、これまで8時間働いていた時間が4時間になり、余った時間を家族と過ごす時間に充てたり、副業をして、より豊かな収入を得るでも良い。そんな世界を創りたいと思っています。
そして、それを世界規模でやっていきたと考えているので、国内のみならずグローバルにも展開をしていきます。
> 最後に、記事内でお伝え出来る告知事項などもあれば教えて下さい。
エンジニアの採用は積極的に行っているので、興味を持った方はオフィスに遊びにきてください!あわせて、定型業務に社員の時間を割いている企業様も「ちょっと試してみようかな・・」くらいで結構ですので、是非お気軽に弊社までお問合せ下さい。