2018年6月29日に成立した働き方改革法案ですが、様々な法改正が盛り込まれたものの、改正事項が実際に適用開始されるまでには時間的猶予が与えられている項目も少なくありません。
たとえば、働き方改革法案の主要改正事項の1つとして、大きな話題となっている罰則付きの36協定の上限設定は、中小企業の場合、適用開始は2020年4月1日からです。月60時間超の残業割増賃金率(150%以上)が中小企業に適用されるのも2023年4月1日からとなっています。
このように、「実際の適用はまだ先」という制度があるものの、一方で、「待ったなし」で適用される制度もあります。
「年間5日以上の有給休暇取得義務化」は「待ったなし」
その中でも最重要なのは「年間5日以上の有給休暇取得義務化」です。「年間5日以上の有給休暇取得義務化」は、2019年4月から中小企業も含め適用開始となります。
業務の効率化を推進したり、適正な人数の人員を配置したりして、安心して5日以上の有給休暇を取得できるようにすることが事業主にとって最も重要なことは言うまでもありません。
それに加えて、各会社が、自社に合った有給休暇取得のルールを構築し、従業員の有給休暇取得を推進していく必要もあります。
この点、有給休暇は「1日単位」で取得するのが原則ですが、「半日単位」や「時間単位」で取得することが許されている職場もあると思います。
「従業員が半休や時間単位の休暇ばかりをとって、なかなか有給休暇の消化が進まないので、ドカンと1日休んでほしいものだ」と、細切れの有給休暇をネガティブに考える会社もあれば、逆に「従業員が半日単位で柔軟に有給休暇を取得してくれているので、少しずつだが順調に消化が進んでいる」と、ポジティブに捉えている会社もあります。
このように、有給休暇の取得を促進するためには、自社の社風や実態に合った制度を導入する必要があるのです。
そこで、本稿では自社にあった有給休暇取得制度を再構築するためのヒントになるよう、有給休暇の取得単位に関するルールについておさらいをしてみようと思います。
「半休」に法律上の根拠はない
「午前半休」「午後半休」など、半日単位の有給消化が認められている会社は少なくないと思いますが、実は、法律上には明確な根拠はありません。就業規則や雇用契約書で会社が認めた場合、はじめて従業員には半休を取得する権利が発生します。
ですから、就業規則や雇用契約書に定めがないならば、従業員から「半休」の申請があったとしても、会社が1日単位でどんどん有給を消化してもらうことが望ましいと考えるならば、「うちは半休制度が無いから、有給を申請するならば1日単位ですよ」と言うことができるということです。
会社として半休もウエルカムであるならば、仮に就業規則などに定めがない場合であっても、従業員にとって有利な取扱いなので、半休を与えることに問題はありません。
「時間単位の有給」も労使の合意がある場合のみ
「時間単位の有給」は法律上に定めがあります。平成22年4月の労働基準法改正で導入されました。この法改正で有給休暇が1時間単位で取得できることが法律上に定められました。
そうすると、従業員から「4時間」の有給休暇の申請があったら、会社は必ず「半休」を認めなければならないのでしょうか?
実は、この点も拒むことが可能です。といいますのも、時間単位の有給休暇を会社が認めなければならないのは、従業員代表と使用者の間で合意が成立し、労使協定が結ばれた場合に限られるという条件が付いているのです。したがいまして、時間単位の有給休暇に関する労使協定を結んでいなければ、先ほどの「4時間」の有給休暇の申請も認めなくて良いということです。
5分とか10分遅刻をした場合に、遅刻を帳消しにするため有給休暇を申請するという場合も、当然、時間単位での有給申請を認める必要はありません。「1日有給を使うか、遅刻扱いにするか」のどちらかを従業員の方に選択してもらえば足ります。といいますか、そもそも有給休暇の事後申請自体、事業主は認める必要は無いのですから「遅刻したから有給を使う」という考え方自体を認めないということも合法です。
最終的には経営判断になりますが、社内の規律を引き締めるために遅刻時の有給申請は認めないという考え方、年間5日以上の有給休暇取得義務をクリアするために積極的に遅刻時に有給を使ってもらうようにする考え方、どちらも一理あると思います。
なお、あくまでも遅刻時に有給休暇を使うかどうかは、従業員が自らの意思で決めるものであり、会社が強制的に有給消化扱いにすることは違法ですので気を付けて下さい。
また、遅刻をした従業員に対し、本人の意思に基づいて有給休暇を認めた場合であっても、その日は「休暇」ということになるわけですから、原則としては従業員には帰宅してもらうことになりますので、この点も注意が必要です。10分の遅刻に対し1日分の有給を当てはめても構わないので業務をさせてほしいと本人が自主的に希望した場合についても、法律上は明確な定めはありませんが、会社の立場としては帰宅を求めることが無難でしょう。
まとめ
2019年からの有給休暇義務化に備え、自社に合った有給休暇の取得ルールを整備し、会社も従業員も無理なく、安心して有給休暇を消化していける職場環境を整えていきたいものです。