お風呂はメディア。経営者の育成に力を入れる温泉道場とは。 【起業インタビュー第61回】|起業サプリジャーナル

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お風呂はメディア。経営者の育成に力を入れる温泉道場とは。 【起業インタビュー第61回】

公開日:2018.02.23

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今回お話を伺ったのはコンサルティング会社にて温浴業界を盛り上げ、今では自ら5つの温浴施設を経営するまでに至った株式会社温泉道場代表の山﨑寿樹さんです。2025年までに会社から5人の社長を輩出するというミッションを掲げ、人材育成にも力を入れている山﨑さんに起業のきっかけなどを聞いてみました。

山﨑 寿樹
2006年4月株式会社船井総合研究所入社。温浴ビジネスチームに所属し、日帰り温泉に特化したコンサルティングを行う。特に小商圏 (人口20万人以下)、売上5億円以下の温浴施設の業績アップコンサルティングを得意とする。株式会社船井総合研究所在職時から、全国一斉ありがとう風呂や熱波甲子園などをプロデュースし業界の知名度向上にも貢献。
2011年3月より株式会社温泉道場代表取締役社長。徹底したマーケティングで温浴施設の事業再生を得意とし、埼玉県内で4店舗、三重県で1店舗の温浴施設を経営。静岡県静岡市にFC店舗が1店舗。
温浴業界では、2012年8月より一般社団法人ニッポンおふろ元気プロジェクト代表理事として『おふろ甲子園』を企画・運営。現在も年間の温浴施設訪問回数は200回を越え、トータルでは1,800以上もの温泉を制覇。温泉ソムリエ協会の温泉ソムリエ師範としても活躍中。

 

温浴を愛す起業家のバックグラウンド

――起業のきっかけを教えてください。

私の両親は経営者でした。ですから漠然と、自分もそうなるんだろうなという気持ちはありました。コンサルティング会社に入社した理由も、どの業界・業種で起業するか何も決めていなかった私にとって、多くの業界を知ることができると思ったからです。当時の会社は、入社から2年間、いろいろな業種に携わり、その後、自分でコンサルする業種を決める仕組みでした。

当初は起業することを念頭に将来性のあるIT業界にしようと思いました。しかし、人気のあるIT業界ではなく、まだまだ改善の余地のある温浴業界へ足を踏み入れることのほうが、自分にとって使命なんじゃないかと。私自身温泉や旅行は好きですし、いくつかやりたいこともありました。

その後、「全国一斉ありがとう風呂」や「熱波甲子園」などをプロデュースして温泉業界を盛り上げたことによって、少しは貢献できたかなと思っています。

そんなとき、経営が悪化したお風呂屋さんのオーナーからお店を継いで欲しいとお声掛けいただきました。それが今の「昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」です。

起業家志望でしたし、お声をいただいたときに、正直やってみたいという気持ちのほうが強かったです。温浴業界に身を置いてきて少しは勝算もあったので、できるだろうと。今となって思い返すと、実際に経営者になって経営するのと、知識を持っていて周りから意見するのとでは全然違って、大変でした。(笑)

 

――温泉道場という名前にしたわけは?

実は起業家志望であるのと同時に、教育業界に身を置くことも志望していました。大学でも教員免許を取得したくらいですから。

ただ、学校の先生は自分以外にもたくさんいます。自分だからこそできるもの、それは子どもを教育することではなく、大人を教育することだと思ったんです。しかもそれが、起業家というアプローチだったら、インパクトのある何かを残せるのではないかと。ですから社名は温泉道場にし、経営者を輩出するというミッションを掲げたのです。

 

メディアである「おふろ」の紹介

昭和レトロな温泉銭湯 「玉川温泉」

「3世代の家族が、楽しく一緒に利用できる」をコンセプトに、古き良き銭湯文化を伝承しつつ、季節ごとの行事やイベントを開催。

 

おふろcafé utatane

「友達の家に泊まる」をコンセプトに、暖炉やハンモック、1万冊以上のコミック・雑誌のある北米ゲストハウス風のお風呂屋さん。

 

おふろcafé bivouac

ボルダリングウォールやスノーピーク製のキャンプグッズを通じて、グランピング(グラマラス×キャンピング)という贅沢なキャンピング感覚、アウトドアの雰囲気を楽しむ温浴施設。

 

おふろcafé 白寿の湯

株式会社結えるによる監修、ヤマキ醸造株式会社の協力のもと、糀・地味噌・地醤油を活用し、美容と健康を意識した「食」へのこだわりを魅力的に発信する温浴施設。

 

四日市温泉 おふろcafé 湯守座

「現代の芝居小屋」をコンセプトに、温泉と大衆演劇の2つの要素を融合させた温浴施設。2017年11月に近畿地方第一号店としてオープン。

 

おふろcafé bijinyu(美肌湯)

京和風をテーマに、静岡と京都の2つの歴史・文化から題材を取ったメニューを提供するお風呂屋さん。

 

徹底的に深掘りした結果、地域活性化へ

――「おふろcafé」とは?

おふろcaféとは、「お風呂屋さんで究極のダラダラをかっこよく、おしゃれに過ごす」をコンセプトに埼玉県を中心に展開している温浴施設です。

それぞれの施設には特徴があって、例えば大宮の「おふろcafé utatane」は、北米風ゲストハウスを意識した作りになっています。10~30代の若いお客様、特に女子大学生の方の来店が多いですね。

一方、熊谷の「おふろcafé bivouac」はアウトドアテイストとなっています。実は、埼玉県はアウトドアやサイクリングに力を入れていて、特に熊谷はラグビーや野球などのスポーツが盛んな土地なんです。

「アウトドアは好きだけど、虫や暑いところが苦手」という方に、「屋内にいながらアウトドアを味わってもらえる施設」のニーズがあるのではないか、という着想です。

 

――それぞれのコンセプトやアイデアはどのように生まれるのでしょうか。

私たちは「お風呂から文化を発信する」という理念のもと、その地域に根付いた文化などを発信するお店づくりを意識しています。その土地柄を江戸時代まで遡って調査しつつ、地域とコミュニケーションを図るため、町歩きをしたり、地域の行事に参加したり、飲み歩いたりと、その地域の文化・衣食住を見つけるようにしています。

同じ埼玉県でも地域によって特色は全く異なり、人の流れ、エリアの嗜好性などはお店作りに大きく影響しています。

 

――地域活性化に一役買っているということですね。

はい。もっとも、現在こそ周りからそのような好評価を得て地域活性化と呼ばれていますが、お風呂屋さんを始めた6~7年前は地域活性化を狙っていたわけでもありません。

そもそも日帰り温泉の場合、温泉だけを目当てに来るお客様は少ないのです。何か別の目的でその地域に足を運び、ついでに立ち寄るものが日帰り温泉です。ですから、日帰り温泉に来るお客様を増やそうとすると、別の何かに人が集まるように努める必要があります。そこで、その地域の観光をPRしたり、観光施設のお手伝い、サポート、企画立案などを行ったり、地域の文化を発信したりした結果、地域活性化に繋がったというのが実状です。

 

経営者を輩出する人材育成論

――人材育成に力を入れているとのことですが、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか。

まず、温泉道場は、「日帰り温泉の運営を通じて温浴事業及び地域活性化に役立つような人材育成の場とする」をミッションの1つとし、現在、2025年までに5名の社長を輩出するという目標を掲げています。

ですから、うちに入社する人は、経営者を志望する割合が高く、社員には「生の経営」を見せてあげるように心がけています。

具体的には、経営に関するありとあらゆる数字を開示しており、例えば、売上原価、販売管理費はもちろん、希望すれば起業した当時の私の給料も見てもらうこともしています。

ほかにも、金融機関から融資を受ける商談の場に同席してもらうなど、耳で聞くだけでなく実際に体験してもらうことで、「生の経営」に触れてもらっています。

また、「広範な裁量を持たせること」を会社の特徴としていますね。ある程度早い時期に業務を任せてしまいます。

私の持論ですが、失敗を経験しないと成長は見込めません。大きな会社では、多数の決裁者の回覧を必要とする稟議があり、リスクの高い案件には挑戦できないような仕組みになっています。つまり無難なものしかできず、力がつかない。反対に、うちでは、多少危うそうなものでもどんどんOKを出して失敗してもらい、なにが悪かったかを反省し改善する、を繰り返すようにしています。

私自身も、会社経営をしていくなかで多くの失敗をしてきました。もっとも失敗は悪ではなく、あくまでも成長の一材料として捉えています。その個人が成長するのであれば失敗は大いに認めています。

 

――面白そうなイベントやアイデアがたくさんありますが、現場から生まれたものも多いのでしょうか。

そうですね。私が舵を取るのはコンセプトだけで、あとはメンバー(従業員)が自分たちでやってくれます。

お客様の想像を超えるものをやろう、既成概念を壊そう、お風呂屋さんがやらないことをやろう、を掛け声に、まずは僕自身が少し変わったことをやってみるんです。それを見た部下が「社長がやっているのだから私たちもやってもいいよね」となれば、あとは自走してくれます。そのときには、つきっきりで指導するのではなく、離れたところで見守ります。相談があればいつでも乗れるように待機しておくのです。

例えば、玉川温泉で20回以上開催している60歳以上限定の合コンイベントがあります。60歳以上の方をターゲットにしていますから、Webでは集客できません。当初はアプローチ方法に苦戦しましたが、やり方を少し助言したのみで、あとは現場がうまくやってくれて、今では名物企画とまでなっています。

 

――反対に、失敗してしまうときはどういったときなのでしょうか。

実行力が伴わないときが一番の問題だと思います。時間を言い訳に「忙しくてやりきれなかった」、「準備が間に合わなかった」というのは、終わった後にあまりにも多くの課題を残してしまいます。初めから完璧なものを要求していませんから、実行してみて、改善点を修正し、次に活かすことができればいいと思っています。しかし、PDCAをまわすとしても、課題が多すぎて本質的な課題にたどり着くまで時間がかかるかもしれません。

反対に、やりきったときには大体うまくいく事が多いですね。もちろん、いくつかの課題は見つかるかもしれませんが、それは次に繋げることができるでしょう。

 

――研修内容も充実していますよね。

財務、デザイン、マーケティングなど、実務的な内容の研修を行っています。前職の関係から、私自身が研修のプログラム作成やコーディネートすることには慣れていますので、インプットしやすい研修作りを心がけています。

ほかにも、他社の社長さんを招いての講演会や、社内ベンチャーピッチ、サバゲー大会を開催しています。社内ベンチャーピッチから生まれたアイデアを元に事業化に向けた動きもあるくらいの活発なイベントですし、サバゲーもリーダーシップを養う合理的なイベントだと考えています。

日本の学校では教えてくれませんが、リーダーシップは経営者にとって必須の能力です。私も大学生のときに、まさか自分がリーダーになるとは思いもしませんでした。会社を経営していき、自分が必要とされるなか、自然と身についたものです。

サバゲーは攻めや守りの役割振りや正確な指示出し、チームを纏め上げる力などリーダーとしての素養を鍛えられる重要な場です。もっとも、部下からすると上司を撃てる絶好の機会ですから、和気あいあいと楽しみつつ、学び、遊びます。(笑)

 

温泉「道場」らしさ

――今後の展望について教えてください。

経営者の育成に注力したいですね。

メンバーの多くは地方出身者であり、そのメンバーが地元に帰ったときに、それぞれ事業を興す、もしくはうちのグループとして興すことができるよう、温泉道場がサポートしたいと思っています。出資なのか、グループとして興して事業リスクを引き受けるかなど、様々なやり方はあるかと思いますが、どんな形であれ起業を応援したいですね。

私たちがお風呂を通して目指す未来は、「おふろ」を媒体に様々な産業を結びつけ、その地域全体を盛り上げるということです。

その結びつけた産業がなんであれ、温泉道場出身の経営者が経営する会社だったらいいなと思います。

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投稿者について
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竹澤 駿

2017年に行政書士登録と同時に、行政書士法人jinjerの立ち上げに参画し、現在に至る。 外国籍の方の就労ビザの取得支援に特化し、サービス業を中心に一部上場企業から中小企業までの幅広い顧客を持つ。年間約300件の申請を手がけ、昨今は法改正のあった「特定技能」へも対応し、人材会社の新規事業の立ち上げ支援も実施。

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