みなさんは「起業家」というと、どんな人をイメージするでしょうか。
野心に燃えるチャレンジャー?自分のポリシーは絶対曲げない切れ者?それとも最新ツールとITサービスを駆使するデジタルネイティブ世代の代表?
今回ご紹介するのは、これらイメージからはちょっと違うキャラクターの廣瀬大輔さん。株式会社BHFの代表取締役を務め、ブライダルのパーティープランナーであり司会者でもあります。
2017年に、BHFは7期目を迎えました。しかし廣瀬さんは「会社を拡大させることを一番に考えているわけではない」と話します。その真意とは?そして彼の経営者としてのポリシーはどんなものなのでしょうか。
(プロフィール)
廣瀬大輔氏
株式会社BHF代表取締役。
1981年大阪市生まれ。神戸大学を卒業後、俳優を目指し上京するも、25歳のときに方向転換し、再び大阪へ。その後、29歳のときに高校時代の友人と結婚式の二次会をプロデュースする事業「FOR U」をスタートさせる。
さらにウエディングドレスショップ「BLANC CHOUETTE」、フォトスタジオ「Studio LDK」など、結婚にまつわるあらゆるニーズに応える新規事業を次々に展開している。
事業の展開は意図したものではなかった
30歳までにはなにかしたい、と思っていた廣瀬さん。東京に住んでいた20代前半の頃に目をつけたのはなんと「パンツ屋さん」だったそう。
「女性向けの下着屋はあるのになぜメンズはないんだと。そのときに調べたら原宿に1軒あったから行ってみて、店主に「なんでパンツ屋やろうと思ったんですか」とか聞きまくったら「君おもしろいね」と。
でも、現実的にどうやるかなんてもちろん教えてくれない。「目の付け所はいいんじゃない、何かあったら連絡してきて」って名刺貰っただけでした。
で、そのことを、大阪に戻って後に一緒に起業を目指すことになる高校の同級生2人に話すと「在庫持たなあかん」とか、マイナスの要因が最初にきて賛同を得られなかったので、パンツ屋は諦めましたけど(笑)。
その後、大阪でサラリーマンになるのですが、その頃から友人の結婚式の二次会をたびたび頼まれるようになって。幹事や司会者を任されて、感謝してもらえて、さらにお金をもらえるようになって、お小遣い稼ぎみたいになってきたんです。
そのときに「これって仕事になるんじゃないか」って思って、友達2人に言うと、いままでの反応と違って「それいいやん!」って言われたので、それを事業としてやっていくことにしました。そのときはみんな違う仕事をしてたから、月3件くらい二次会やればある程度の稼ぎになって仕事辞められるんじゃない?じゃあまず3件とるためにHP作ろう、なんていうノリのスタートでした。」
そして2010年に結婚式の二次会プロデュース事業「FOR U」が始動します。
「友達だから、幹事は頼まない。だって一番楽しんで欲しいから。」というコンセプトのもと、かなりの労力を必要とする結婚式の二次会のプロデュースや当日の司会、撮影などを一手に引き受けてしまおうという事業です。
その2年後にはレンタルドレスショップの「BLANC CHOUETTE」、さらにその2年後にはアニバーサリーフォトスタジオ「Studio LDK」がスタート。
次々に新規事業を展開していくBHFですが、実は廣瀬さんが仕掛けたことではないというのには驚きです。
「これらの事業は、自分がやりたいって思ったわけではもなく、やりたいっていうスタッフがいたから、僕は「じゃあやってみれば」とその土台を作ってきただけ。
多くの場合は逆で、たとえば飲食店なら新店舗オープンするから、店長を誰にするかっていう順で決めるけど、僕はそれが嫌なんですよ。やりたいっていう人がいたらやる。人ありきでいきたい。事業を先行したくないんです。」
でもそれってすごく難しいことでもあるはず。うまくいくかどうかもわからないし、もちろん投資も必要。しかし、それでも事業を拡大することよりも大事なことがあると廣瀬さんは言います。
「スタッフにやらせてみることで不安や心配もあるけど、そこは心配しだすとキリがないのでまずはやらせてみる。
本当はもっと僕が指示を出せば、もうちょっと会社は大きくなると思うんですが、それはしない。それをやると、僕だけ楽しくてみんな楽しくないやろなって思うから。それよりは、会社の成長は2倍じゃなくて1.1倍くらいでいいから、みんなが楽しいです、やりがいありますって言ってる方が、結果としていいんじゃないかって思う。スタッフみんながやりたいことやってお金もらえて最高、っていうところを追求したいですね。」
当たり前のことをしているだけ
一見、他力本願のようにも見える廣瀬さんの事業戦略。次々に新しい事業を展開してはいるけれど、そもそも最初に結婚式の二次会をプロデュースしたのも人からの頼まれごとだったことを考えれば、ご自身が0から生み出した事業はほぼないといってもいい状態。強い野心や願望はないという廣瀬さんだからこそ、そこにいい意味で「人が入り込む隙」があるのかもしれません。
「なんのために仕事してるのって経営者仲間からは聞かれるんですけど、自分がやったことが認められて、それで喜んでくれる人がいて、生きていけるだけのお金がもらえて、っていうのがゲームみたいな感覚で、楽しいんですよね。
結婚式の二次会で、今でも自分が司会者として現場に立つことはあるけど、僕は、そんなに突出した能力ははないと思ってるから、最強のジェネラリストを目指したい。人の話をきくとか、悩み事に早くこたえるとか、そういう当たり前のことをして、目の前の人に喜んでもらった結果が今になってて、どんな仕事でもお客さんに喜んでもらうっていう本質はいっしょだなと思うと、この先どんなことでもできるなと思えてきた。だからいまは、自分が社長であることにもこだわりはないです。」
なんとも潔い言葉ですよね。ゲーム感覚で仕事ができるって理想的ですが、不安になることはなかったんでしょうか?
「もちろん不安しかないときはありましたよ。借り入れしたのに赤字が続いて青ざめたこともある。けど、もういまはあまり不安になることはない。
それは、自分にようやくある程度自信がついてきたということかもしれないですね。
いろんな人に会いますが、人によって態度を変えることがあるときから嫌になってきた。昔は、大きな企業の社長さんとかに萎縮してたこともあるけど、でも取り繕ってもいつかばれるし、素の自分を気に入ってくれる人とだけ仕事すれば、嘘をついたり対等でない関係に苦しむ必要もない。会社も拡大路線に走ってるわけじゃないから売上目的で嫌な仕事をする必要もないし、結果的に自分も気分よくいられます。
そうやって嘘をつかずにあたりまえのことをきちんとしていると、お客さんも事業提携の相談も、次々と向こうから来るようになったんですよね。」
BHFでは、現在はすべての事業において営業や広告はしていません。それでも、
年間100組を超えるパーティープロデュース、250組を越えるドレスレンタルのお客さまがご相談に来られるそう。
しかしそれも、窓口であるwebサイトのユーザビリティチェックやSEO対策、対応にあたったスタッフのきめ細やかなフォローなど「当たり前のこと」をしているだけと廣瀬さんは言うのです。
でも、その「当たり前のこと」に気づけなかったり、できていなかったりすることは往々にしてあることかもしれませんね。
自分よりスタッフが喜ばれることのほうがずっと嬉しい
マイペースを崩さない廣瀬さんの今後の展望ですが、またしても新規事業が控えています。しかしそれも、ご自身がやりたかったことではなく、相談を受けてのこと。仕事にはいろいろなしがらみや問題がつきものですが、なるべく妥協したり惰性で受注することなく、みんなが心から楽しく取り組めるためにはどうしたらいいかを考え続けています。
同時に、代表である廣瀬さんへいまだ二次会の司会やプロデュースなどの依頼がご指名でくることもしばしば。そんなときは、それには応えるけれど、自分がやって喜ばれるよりもスタッフがやって喜ばれるほうが嬉しい、と廣瀬さんは言います。
「もっと自分を売っていくこともありかなとは思うけど、でも自分がやってお客さんが喜んでくれるのは当たり前で、スタッフが司会やプロデュースをやって喜ばれるほうがずっと嬉しいことに気づいてしまってるので…。だから、最強のプレイングマネージャーとしていられるのが一番いいですね。」
「起業家」としては少し異色なマイペースさを発揮している廣瀬さん。それが彼の持ち味であり、魅力です。
「最近、ほんとに仕事が楽しくなってきたんですよ。だから、次どうするかですよね。
それでいうと、実はあんまり目標とかってないんですよね…(笑)。2018年の目標を決めないといけないんですけど、どうしよう、「頑張る」って書こうかな(笑)」
(編集後記)
廣瀬さんを一言で表すなら「素直」。それは、人に対しても、そしてなによりご自身に対してとても素直で正直なのです。だから、その言葉にも裏がありません。かといって、決してなにかやだれかに依存するわけではなく、自分のなかにあるルールを守っているだけ。それが彼の言葉を借りるなら「当たり前のこと」。仕事をする上でも「楽しいか楽しくないか」が基準になっている廣瀬さんは、ある意味では少年のような側面を持ち合わせています。でも、仕事がうまくいく秘訣って実はそこにあるのかもしれない、と感じます。無理せず楽しく仕事している廣瀬さんを見ていると、こういう生き方っていいなぁ、と、こちらも幸せな気持ちになれるのでした。