新居日南恵(におりひなえ)氏
株式会社manma 代表取締役、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科在学。2014年に「manma」を設立。2015年1月より学生が子育て家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデルに出会う体験プログラム「家族留学」を開始。家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取り組みに関する検討会」構成員。日本国政府主催WAW!(国際女性会議)2016/2017 アドバイザー。NewsPicksプロピッカー。
結婚や家庭を持つということにおいては、誰もが初心者から始まり、それぞれの理想を持ちながらも、常にそこに向かうには不安や心配というものがつきものな気がしています。そんなプレママ・プレパパと実際の子育て家庭とを繋ぎ、リアルな「家族体験」を共有することで理想の家庭像を描く機会を提供する新しい取り組みを行う若手女性起業家の話を聞きました。
他人の家庭に入って結婚や子育てのリアルを学ぶ「家族留学」という新しい試み
> (株)manmaの事業内容を教えてください。
はい、株式会社manma(以下、manma)の現在の事業は2つです。
1つ目は、学生や社会人が子育て家庭の日常生活に同行し、生き方のロールモデルに出会う「家族留学」という体験プログラムの提供。2つ目は、家族留学に参加をする世代(F1層)に向けたキャリア研修や採用などの各種イベント企画などを行うライフキャリアサポート事業があります。
> 「家族留学」とはどんな取り組みなのでしょうか?
学生や若手社会人が子育て中の家庭を訪問し、ロールモデルとなる方の暮らしを体験することで「多様な生き方のサンプルに出会う」取り組みです。結婚・出産後も働き続けるお母さん、出産を機に転職や退職をしたお母さんなど様々な女性の生き方に触れることで、自身のライフイベント(結婚・出産・子育て)に合わせた、自分のキャリアをイメージできる機会を作るべく始まった活動です。
> 参加者は、実際の家庭にお邪魔するのですか?
はい。一時期はカフェで会って、話をするという形態も取っていましたが、言葉の信憑性やリアリティさが全く変わってくるので、今は参加者が受け入れ先である家庭に直接お邪魔しています。
> 見ず知らずの家庭に行くのは参加者側も、受け入れる側も不安な部分があるかと思いますが、その辺りはどう解決していらっしゃるのでしょうか?
まず、参加者(学生・社会人)・受け入れ(家庭)側共に、事前面談をし、それぞれに問題がないかの審査を必ずしています。家族留学前には、参加の目的と今自分が抱えている悩みを整理し、事前に受け入れ側の家庭にどんな事を聞きたいかをメールで送るなどして、当日過ごす時間がお互い有意義になるような工夫をしています。
受け入れ側である家庭にも、manmaがどんな想いで家族留学を行なっているのか?といった趣旨を理解して頂いた上で受け入れを行なって頂いているので、単なる家事を手伝って1日が終わる等にならない様な配慮を最大限にしています。結果論ではありますが、家族留学を終えてお互いが「仲良くなれなかった」という話は、ほとんど聞かないですね。
> 皆さん、どんな想いを持って参加してくださっているのでしょうか?
参加者側は、将来訪れる結婚や子育てに関する不安や悩みを持って参加してきます。加えて、自身の長期キャリアのロールモデルを見つける・イメージするといった機会としての参加。仕事だけではない、その後の生活までも踏まえた、ある種のOG訪問的な位置づけで参加する方もいます。受け入れ側は、自分の経験を次の世代に伝えたいといった想いや、自分がライフイベントを迎える前にこういった取り組みがあったら、参加したかった!といった取り組みに共感して頂いて参加してくださっている方がほとんどです。
未婚の大学生が「家族」をテーマに創業した経緯
> manmaの活動は、大学1年生の時からスタートされてますが、どんな経緯からスタートされたのでしょうか?
初めは、高校時代に参加したNPO法人カタリバのプログラムを通じて、”キャリア”について深く考える機会があったのがきっかけでした。当時、高校生ながら、活動を通じ数多くの大学生や社会人と接点を持ちました。そこでは「どうして大学にいくのか」「どんな勉強をしたいのか」「将来どんなキャリアを描きたいのか」といった事を考える機会がたくさんあり、私自身もキャリアに関して数多くの情報に触れてきました。当然その辺りについては、自分の考えや視野も広くなってきた一方で、「なぜ結婚・子育て系の情報は、こんなにないのだろう?」みたいなことを考える様になったのも当時からでした。
私自身、働き続けたいけどハッピーな家族を作りたいという夢もある、そうなった時に自分の親のイメージだけが、本当に幸せな家族の理想形なのか?という疑問もあり、もっと他の家族を見ながら、自分自身がどんな家族を作っていくのかを、「これまでどんなキャリアを作っていきたいのか?」を考えてきたスキームと同じやり方で出来るんじゃないか?と考え始め、最初は自分から子育て中のお母さんに話を聞きにいくという活動からスタートしました。
> 初めから起業を視野に入れた活動だったのでしょうか?
初めは、社会人になってから起業しようと思っていました。
よくある3年くらい大手で働いてから・・と。
> そこから起業に踏み切った経緯は何だったのでしょうか?
大学1年生の時、ある方に「今思うことがあるならやりなさい」という話を貰ったのと、同時に自分自身が学生であることのメリットも教えて貰いました。
・本気で事業をした結果が、仮に4年間でダメになっても大学生として就職活動は出来るので、そこで失うものは何もない。
・今から始めて、30歳を迎えた時に10年間その領域で続けてきた経験と実績は必ずアドバンテージになる(30歳を過ぎてから、女性キャリアや家族向けの事業を始められる方との差別化など)
そんな事をお話頂きながら「失敗するにしても、成功するにしても早くやりなさい」と言われて、決心がつきました。
> 失礼な話ですが、大学生での起業や、新居さん自身がご家庭を持っていないながらも家族向け事業を展開している上での優位性はありますでしょうか?
学生起業という点においては、チャンスを貰える機会の多さでしょうか。先日も内閣府の少子化系の委員会に参画をさせて頂いたりなど、この領域を学生からスタートしている部分もあるかとは思いますが、多くの機会をいただき、とても感謝しています。私自身の立場の話でいうと、結婚や出産を経験して、その実体験や課題感を事業にして展開していっている方や、その層(F2層)をユーザーとして抱えている企業は沢山あります。そうした企業と同じアプローチをするのではなく、これから多くのライフイベントを迎える層(F1層)に意見を聞いたり、リーチをしたいと思って活動しています。そうした実績の積み重ねで、「若手・学生といえばmanma」と想起して貰える様になったり、F1層の代表意見として、お声をかけて頂く機会が増えたのは一つ優位性になっているのかもしれません。
ミレニアル世代を生きる新居さんの価値観(就職・会社経営・これからの働き方について)
大学生と経営者、2つの顔を持つ新居さんにそれぞれの視点で感じている事を伺いしました。
> 就職活動や働くことについて、今の新居さんたちの世代はどんな事を考えていらっしゃるのでしょうか?
いわゆる超一般的な話をするのであれば、私たちの世代は高校時代に震災が起きたタイミングで社会的意義や社会貢献性を考える機会が増えたり、大企業に属する事=安定という仕組みが崩壊している事を理解しているのが、きちんと情報収集をしている大学生の傾向だと思います。今では上位国立大学からNPOに就職する学生もいますし、事業への共感や事業の社会貢献性を気にする傾向も上がっていますし、大手にいくにしても複業を前提とし自分のスキルを伸ばせる環境を選んだり、転職を視野に入れながら若い内から裁量権のある環境を希望して会社を選ぶ子が多いなあと感じています。
私自身の話をすれば、「家族をテーマにした研究と事業の両立をどうやって出来るかな?」とは常に考えています。もっと言うと、manmaの事業に絡む研究をしながら、それを事業に反映させていくことを理想としているので、これからの選択肢の中では、大学で非常勤講師をしながら、事業を継続させることなどを考えています。
> 勝手ながら(株)manmaを軸に全てを考えていらっしゃるのかと思っていました。その辺りも、もう少し詳しく教えて下さい。
やりたいことの軸は、manmaを続ける事ではなく、「幸せな家族に再現性を持たせる事が出来るのか?」といった事だったり、「家族」というものを探求していくという事が自分にとっても、世の中にとっても必要であると思っています。大学院に入ってみて改めて、事業一本で進めていくのではなく、ちゃんと研究し、得た学びを事業にアウトプットしていくサイクルが重要だと感じたので、その全体像をどう実現するか?を考えていますね。そのための手段として、manmaとして研究機関を持つという事も考えられるかな、と思っています。
> 新居さんが考えている、働く女性の未来やキャリアについて考えている事があれば教えて下さい。
今は、「働き方改革」といった言葉が先行していますが、まだまだそういう考えを理解してくれている企業はごく一部だと思っています。私自身も、自分の働き方に関する考えを就活生として企業に話せば「今どきの若者は!」と一蹴されてきた経験もあって、世代間の感覚の違いや、受け入れ側とのギャップがまだまだあるなあ、と感じています。
結局、平日・休日の概念や、9時始業・18時退社などの時間の縛りが、仕事と家庭の両立の難しさにあると思っていて、平日に仕事をするという時間の概念や、時間だけで評価されない社会の普及やワークスタイルへの共感が必要だと思っています。
例えば、空き時間で出した成果(パフォーマンス)で評価される世界や、自分が働きたいときに働ける環境の整備がそれに当たります。なので今のmanmaでは、平日も休日も関係なく、自分が働きたい時に働き、休みたい時に休むという様なワークスタイルにしています。何より私自身がそうしたいので(笑)
今後、事業に共感しながらも、家庭やボランティア、複業前提で、自分の実現したい事を叶えていきたいと思う人が増えていく中で、そういったワークスタイルの多様性の受け入れだったり、企業側の共感が、今は優秀な人材を惹きつける優位性にもなっている気がしています。
> manmaの今後についてもお教えください。
「仕事をどうしていくのか?」というキャリアを考えるタイミングに、結婚・子育ても合わせて考えていけるような環境や社会が出来たら良いなと思っています。仕事と家庭を両方とも大切にしていきながら自分の人生を考える機会や活動を、個人だけでなく企業も一緒に取り組んでいることが当たり前になるような世界を、家族留学を通して創っていきたいです。その次には、manmaが掲げる「家族の幸せ」をテーマに、もう少しダイレクトに家族のハッピーを支える様なサービスやアイデアを形にしていきたいですね。
> 新居さん、ご自身はどうですか?
研究の成果を自分の家庭に実装して、また更に探求していきたいです(笑)
編集後記
「幸せな家庭を(誰でも)再現出来るようにしたい」という、新居さんの真っ直ぐな言葉を聞いた時、”幸せ”や”幸福”という感情に、どこか偶発的な出会いを求めて、(結果的に)あの時が幸せだった、としか考えていない自分に今回の取材で気がつきました。幸せを因数分解して、それを再現するという考えが、とても現代的でありながらも、来たるその日の恩恵を受けるのを楽しみに待つ編集部でした(30歳手前・独身)