近時の新聞やニュースで話題になっていますが,現在,民法の改正作業が進んでいます。平成29年度の国会で成立すれば数年の周知期間を経て施行される見込みがあります。
民法は,ビジネスにおいて最も基礎となる法律であり,業種を問わず様々な分野で影響が及びます。ここでは,改正案のうち,売掛金の回収等の現場で影響が予想される消滅時効についてご紹介いたします。
消滅時効とは
消滅時効とは,「権利の上に眠るものは保護に値せず」との格言を具体化したものですが,一定の期間が経過し債務者が消滅時効の権利を行使すれば,債権者の権利が消滅してしまう債権者にとっては不利ともいえる制度です。現行法での主な売掛金の消滅時効期間は次のとおりです。
【1年】
・自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
・運送賃に係る債権
・旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
【2年】
・生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
・自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
・学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
【3年】
・医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
・工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
【5年】
・その他の商事債権
民法の条文を読むと難しい表現が並んでいますが,運送業や飲食店を経営されている方などの債権は,時効期間が最も短い1年となっています。
日々,業務に追われ,督促しても来月は払うからなどと支払いを先延ばしされていると,1年はあっという間に過ぎてしまいます。製造・卸・小売業の代金債権は2年,工事に関する債権は3年です。せっかく売り上げた代金を回収できない結果にならないよう十分ご注意ください。
今回の民法改正案について
次に今回の改正案のご説明です。
上記のとおり,現在は,債権の種類によって消滅時効期間が異なっています。しかし,多分野の業務を行っている企業の場合,それぞれの債権の種類によって時効にならないよう債権を管理する必要があり煩雑ですし,どの消滅時効期間が適用されるのかはっきりしない場合には,確実を期すためには早めに訴訟提起する必要があるなど債権者にとって負担となります。
そこで,改正案では,一律に消滅時効期間が5年とされました。5年とは,権利を行使することができることを知った時から5年という意味です。通常の取引であれば,約束の代金支払日に権利を行使することができることになります。
なお,時効になることを妨げるため,内容証明郵便等で督促を行うことは催促として有効ですが,6か月の猶予の効果があるだけであり,何度も同様に督促したとしても,6か月ずつ猶予期間が延びるわけではありません。時効期間が経過する前に,訴訟提起等の手段によって時効を中断させることが必要です。
ちなみに,労働基準法に規定されている労働者の賃金請求権は2年,退職金請求権は5年のままで、改正は予定されていません。
また,今回の民法改正では,その他,民事法定利率が年5%の固定から年3%の変動制になるなど大きな改正がなされています。この点も留意しておく必要があるでしょう。