起こりうる採用のミスマッチ
起業して業務を拡大させるためにはヒトを採用することが必要となります。
創業メンバーは,気心も知れた,同じ目標をもったヒトの集まりですから,それぞれの人柄や能力もある程度はわかっているはずです。
では,新規に従業員を募集する場合はどうでしょう。
まずは,履歴書の記載で一次選考し,その後に複数回の面接を行うことも考えられます。しかし,これらの過程によって得られる就職希望者の情報は限られています。
それでも,人手不足といわれる昨今,とにかく採用しなければ業務が回って行かない場面もあることでしょう。
そのため,一旦,採用した後,働いてもらったら,こんなはずではなかったというミスマッチの事態に至ることが考えられます。
もちろん,従業員も同様で,こんな会社だとは思わなかったということもありえます。
見込み違いで解雇はできる?
従業員は,期限の定めのない雇用契約の場合,事前に(時期は就業規則等によります)退職の申出をすれば,辞めることが可能です。
他方,使用者の側では,よほどの事情がない限り,単なる見込み違いで解雇することはできません。
労働契約法第16条では,労働者の保護の観点から解雇できる場合が限定されており,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする」とされています。
極めて抽象的ですが,一般的には簡単に解雇できないと考えておくべきです。
例えば,単に気に入らない,会社に合わないという漠然とした理由では合理的とはいえません。
解雇のリスクとその予防策
また,能力不足が理由であったとしても,その能力を客観的に図ることは可能でしょうか。
仮に,合理的な理由なしに解雇すると,場合によっては,辞めさせられた従業員が労働組合に加入の上で団体交渉の申し入れをしてくること,裁判所に労働審判,訴訟等の申立てがなされ,裁判所から呼出状が届くことが考えられます。これらに対応する使用者の負担は極めて大きいものとなります。
そこで,採用に際しては,応募の条件を明確にし,より慎重に人物評価をするほか,試用期間を設けること,就業規則を整備し,採用後は細かな就業規則違反があった場合にその都度,文書で注意するなど事前に労働紛争を防止する体制作りが必要です。
現在の議論
なお,現在,政府において,解雇規制の緩和が議論されています。解雇規制の緩和とは,解雇する際に一定の金銭を補償することで当該解雇を容認する制度です。
採用に慎重になればなるほど雇用の流動化は進まず,いい人材が集まってきません。
解雇規制の緩和が実現するか否かは不透明ですが,これからヒトを採用する場合には,こうした法制度の改正等の動向に留意しておく必要があります。