今回は、種類株式の中の「議決権制限付株式」について解説したいと思います。
でもその前に、そもそも種類株式とはなんでしょうか。
種類株式とは?
会社法の第109条では、『株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。』と定められており、これは、株主平等の原則と呼ばれています。
これはどういうことかと言いますと、会社は株主のことを、「株式の内容」や「数」に応じて、平等に扱わなければならない、ということです。
ここでのポイントは、どんな株主も平等、ということではなく、「株式の内容」や「数」に応じて平等だ、ということです。つまり逆に言えば、異なる内容の株の株主のことは、その株の内容ごとに異なる取扱いができる、ということです。
会社法の第108条第1項には、『株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。』とあり、これによって、いわゆる「種類株式」を発行できることが定められています。そして、9つの種類株式の内容が列挙されています。
- 剰余金の配当:配当に関して普通株式より優先したり劣後したりする
- 残余財産の分配:残余財産に関して普通株式より優先したり劣後したりする
- 議決権制限種類株式:株主総会での議決権が制限される
- 譲渡制限種類株式:譲渡が制限される
- 取得請求権付種類株式:株主が会社に対して、株式を買い取るよう請求できる
- 取得条項付種類株式:一定の事由が生じたら、会社が株主から株式を取得できる
- 全部取得条項付種類株式:株主総会の特別決議により会社が株主から株式の全部を取得できる
- 拒否権付種類株式:予め定款に定めた事項について、拒否権を持つ(黄金株とも呼ばれる)
- 選解任種類株式:取締役、監査役を選任する
これらの内容は、それぞれ1種類だけでなく、組み合わせて発行することも多くあります。詳しくは、議決権制限付株式の段でご説明いたします。
また、少し細かい話になりますが、「種類株式」というのは、ある意味、相対的な表現となっています。
例えば分かりやすいところでは、4番目の「譲渡制限株式」なのですが、いわゆるこれは、会社を公開会社にしたり非公開会社にしたりする株式で、上場していない会社のほぼ全ての会社が、発行する全ての株式に譲渡制限をかけており、この4番目の「譲渡制限株式」を発行している状態にあります。
この場合、その会社は、種類株式を発行している、という表現になるのかと言うと、そうではありません。その会社は、株式に譲渡制限は付けているものの、1種類しか株式を発行していないので、この会社は種類株式を発行しているということにはならないのです。
つまり、種類株式とは、その会社が2つ以上の異なる株式を発行して初めて、それらが種類株式、という概念になるのです。
議決権制限付株式とは?
さて、ではいよいよ本題の「議決権制限付株式」について解説いたします。
株式というのは、1株について1つの議決権を有する、というのが原則です。この例外として、「議決権制限付株式」とは、議決権に制限をつけた株式ということになります。この制限は、一部の決議事項だけにかけても構いませんし、すべての決議にかけて議決権無しにしても構いません。
この議決権制限付株式は、株主に余計な口を挟まれなくなるので、会社にとって便利な株だということは容易に想像がつきます。けれども、株主にとってはいったいどんなメリットがあるのでしょうか?
そもそも株主が株を持つメリット(権利)は2つあります。1つは配当を得る権利、もう1つは経営参加する権利です。議決権制限付株式では、この2つのうちの1つのメリット=権利が失われるのですから、株主にとってはとても大きな問題のはずです。
それではなぜ、株主は、議決権制限付株式を受け入れるのでしょうか?
どんなときに、議決権制限付株式を発行するの?
実は、議決権制限付株式を発行する場合、通常は、剰余金の配当を優先にする内容とセットにすることが多いのです。つまり、議決権を制限する代わりに配当を多くしますよ、ということです。
これは、先に説明した種類株式の番号で説明すれば、3番目の議決権制限付株式と1番目の剰余金配当(優先株)とを組み合わせた種類株式にする、といった感じです。
こうすることで、金銭面のメリットにだけ興味があり、経営参加には興味のない投資家からも資金集めがしやすくなしますし、会社にとっても、会社の経営に興味がない人にむやみに議決権を与えずに済みます。当然、従来の株主にとっても議決権の比率が脅かされる心配がないので受け入れやすくなります。
まとめ
資金調達を急ぎたいとき、金銭面のメリットにしか興味のない投資家がいる、経営に参加されることには懸念があるけれどお金を出して欲しい人がいる、カネは出して欲しいが口は出されたくない人がいる、そのようなときには、この議決権制限付株式の発行を検討しても良いのではないでしょうか?