株式会社を設立する際には、役員の任期も決める必要があります。ではこの任期、いったい何年が良いのでしょうか?
役員の任期の決まり
そもそも株式会社の任期には決まりがあります。
公開会社の場合、取締役は原則2年、監査役は原則4年です。一方、非公開会社なら、10年まで伸ばすことができます。
ここでまずいくつか良く分からないポイントがあると思います。
ひとつは、公開会社とか非公開会社とは何なのか。もうひとつは、任期は実際にはどうやったら伸びるのか。
まずはその点を解説しておきます。
非公開会社とは何か?
そもそも株式会社には「公開会社」と「非公開会社」という区分があります。
公開とありますが、これは上場しているかどうかではなく、株式に譲渡制限をかけているかという会社法上の区分です。
細かい説明をすると長くなってしまいますのでここでは省きますが、世の中の大半の会社が非公開会社です。
そして創業の時点で公開会社から始めることはほぼありませんので、非公開会社を前提に考えて行きたいと思います。
任期はどうしたら伸ばせるの?
取締役の任期は、定款に2年と書くのか5年と書くのかはたまた10年と書くのか、によって決まります。
この任期は、定款を変えることによって伸ばすことができます。例えば、もともと2年だったものを5年にしたい場合には、株主総会を開いて、役員の任期の部分について定款を変更する決議をして、5年に変える、ということになります。
なお、この任期は登記事項ではありませんので、株主総会で決議するだけで良く、登記を変更する必要まではありません。
おススメの任期
さて、ここからがいよいよ本題です。
非公開会社である場合は、取締役の任期2年、監査役の任期4年を、それぞれ原則10年まで伸ばすことができます。では任期はいったい何年が最適なのでしょうか?
長めがおすすめの場合
まず、「役員がずっと自分一人だけ」という場合や、「信頼できるメンバーで固定して増やすことはない」といった場合には、「長め」がおススメです。
では、なぜメンバーが固定の場合は、長い方が良いのでしょうか?
それは、役員の任期がきた(満了した)とき、これまでと同じメンバーで変わらずに継続する場合でも、わざわざ法務局へ変更登記の申請をしなければならないからです。
変更登記の申請費用は1万円とそれほど高くはありませんが、忘れてしまった場合には、過料と言って罰金のようなものを請求されてしまう場合があり、うっかり何年も忘れてしまったときにはあとで痛い目に遭うことがあります。
また、法務局への役員変更登記(役員のメンバーが変わっていなくても「変更」登記です)の申請自体は難しくはありませんが、多少の手間がかかります。要するに面倒くさい、ということです。
ですので、役員がずっと同じメンバーで変わらないのであれば、任期を長めにして、2年や3年ごとにいちいち変更の手続に煩わされない方が楽だと思います。
短めがおすすめの場合
一方、役員が多い場合や、これから新しい役員を迎えようとしている場合には、「短め」がおススメです。
そもそも役員は、どのように就任したり、辞めたりするか、ご存知ですか?
役員は、株主総会で選ばれて就任します。そして辞める方法は主に3つあり、「辞任」、「解任」、「退任」です。簡単に言えば、「辞任」は任期の途中で本人の都合で辞めること、「解任」は任期の途中で会社の都合で辞めてもらうこと(いわゆるクビ)、「退任」は任期が満了して辞めること、です。
自主的に辞める「辞任」の場合は、株主総会も不要ですし問題もありません。問題は、本人は辞める気はないけれど何らかの事情で会社として辞めて欲しくなってしまった「解任」の場合です。
解任すると訴えられる?
「解任」は、株主総会で過半数が賛成することで行えます。しかし、もしその「解任」に「正当な理由」がなかった場合には、解任された取締役から損害賠償請求をされてしまう場合があり得るのです。
これは会社法で決められており、第339条に、「解任された者(取締役など)は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」と書かれています。
整理しますと、法律上、株主総会において「理由が何であれ」取締役を解任すること自体はできます。しかしそのあとで、その解任に正当な理由がなかった場合には、残っている任期の報酬額分などについて損害賠償の請求をされてしまう可能性があるということです。
リスクヘッジとして
これは怖いですよね。気が合わない、方向性が違っていた、といったことではそう簡単には辞めてもらえなくなってしまいます。
そこで、任期を短くしておくことがリスクヘッジになるのです。
つまり、いざ解任した場合でも、任期が短ければ残っている任期も短く、損害賠償額も大きくならずにすむ可能性があるのです。もちろん任期が満了して辞めてもらういわゆる「退任」は、任期が終わったわけですから、正当な理由など関係なく、辞めてもらえます。
ですので、役員が多い場合や、新しいメンバーを役員に迎える場合には、一度、定款を見直して、任期の長さを調整しておいた方が良いと思いますよ。
合同会社の場合
ちなみに、合同会社の役員(業務執行社員)には任期の決まりはありません。なぜなら、任期というのは簡単に言えば、「いつからいつまで、誰々さんに、経営を託します・お願いします」ということだからです。
株式会社の場合は、所有と経営が(法律上)分離していますから、会社の所有者である株主が、取締役に、会社の経営をお願いするわけですが、所有と経営が一致している合同会社では、オーナー自らが経営するため、「託す・お願いする」といった概念がないのです。そのため任期もない、ということになります。