起業する際、行う事業によっては株式会社や合同会社よりも一般社団法人の方が適している場合もあります。
けれども株式会社や合同会社に比べると一般社団法人についてはまだまだ情報が少なく、設立方法や運営方法が良く分からない、という人も多いかもしれません。
実際には、一般社団法人の設立においては、必要書類や手続の流れは株式会社にとても似ており、手に負えないほど難しいということはありません。
ただ、ひとつひとつの内容を良く知らないままに設立してしまい、設立はできたものの、望んでいたものとは違う組織になってしまった、この項目にこんな意味があるとは思わなかった、と、後悔している方をたまに見かけます。
そこで、一般社団法人を設立する上で特に気をつけておきたいポイントを3つほどご紹介します。
「社員」選びは慎重に
「社員」は「従業員」ではない
一般社団法人の設立で「社員が2名必要」というのは、設立要件を調べると真っ先に出てくる情報だと思います。しかしこの「社員」、多くの方が「従業員」と勘違いされています。
ここでいう「社員」とは法人の「オーナー」のことを指しています。株式会社で言うならば「株主」にあたる人たちです。出資はしませんが法人の最高意思決定機関である社員総会で議決権を持つ人、ということになります。
例えば、株式会社において、株式を悪意ある人たちに買収されてしまうと、会社を乗っ取られて自分のものではなくなってしまいますが、一般社団法人では「社員」に悪意ある人や、悪意はなくとも、あまりに方向性の違う人が加わってしまうことで、同様のことが起こり得るのです。
むしろ、株の買収とは違い、一般社団法人のオーナーになるためにはお金が必要にならない分、簡単にオーナーになれるので、メンバー選びは十分に気をつける必要があります。
理事選びは慎重なのに・・・
よく、理事選びには慎重になるのに、社員は適当に決めてしまっている方がいますが、むしろ逆です。なぜなら理事を選ぶ権利は「社員」にありますので、理事がイマイチだったら、あとから社員みんなで理事を変えれば良いですが、社員の中にあまりに方向性が違う方がいると、良い理事を選ぶこともできなくなってしまう可能性もあるのです。
ですので、社員には信頼できる人を選ぶようにしましょう。
そして定款にも、社員になるための要件や、社員になるには社員総会や代表理事の承認が必要、といった文言をいれておくと良いでしょう。
公告の方法で気をつけるべきこと
公告とは?
そもそも公告とは、何でしょうか?簡単に言えば法人からの「お知らせ」です。
法律ではこのお知らせの方法と、どんなときに何をお知らせする必要があるのか、が決められています。
例えば、解散、合併などのときのほか、毎年の決算内容(貸借対照表)をお知らせすることが一般社団法人の義務とされています。実際には、解散や合併はそうそう起きることではないので、毎年の決算をどのように「お知らせ」しようか、というのが考えるべき内容と言えます。
公告の方法
この公告の方法は登記事項ですので、「うちはこの方法で公告(お知らせ)を行います」というのを、予め決めて、登記する必要があります。
公告の方法は法律で4種類決められており、「官報(国が発行する新聞のようなもの)」、「日刊新聞(いわゆる普通の新聞のこと)」、「電子(自社などのウェブサイトのこと)」、「掲示板(主たる事務所に掲示板を設置して、その掲示板に情報を掲示すること)」から選びます。
ただ、日刊新聞に載せる場合は、一回あたり数十万円〜数百万円の掲載費がかかりますので大規模法人でない限りは現実的ではありません。 そのため「官報」か「電子」か「掲示板」の3択になります。
「掲示板」には要注意
そこでこの「掲示板」という方法が問題になるのですが、これは一見、事務所の掲示板に掲示するだけなので、費用もかからず楽なようですが、実は、注意が必要です。
この「掲示板」には、「不特定多数の者が公告すべき内容である情報を認識することができる状態にあること」が求められています。つまり、公衆の目に触れるような場所に設置しないといけないということです。
これはなかなか難しい注文です。そのような場所にどーんと決算内容を貼り出している法人は、今のところ見かけたことはありません。
それにも関わらずなぜかときどき、この「掲示板」の方法を選択されている法人を見かけます。ダメではありませんが、ぜひ、内容をしっかり理解して選択して欲しいと思います。
非営利型になりたい場合は定款から
「普通型」と「非営利型」
一般社団法人の中には、法人税法上の区分において「非営利型」というものがあり、この「非営利型」になると、税制の優遇を受けることができます。
特に会費や寄付金が収入源として大きな割合を占める場合は、非営利型になることで課税対象額を抑えることができます。
ただ非営利型になるためには、あなたは非営利型にしますか、というチェックボックスにチェックを入れるような分かりやすい方法ではなく、まずは、定款にその要件にあわせた内容をしっかりと記載しておく必要があるのです。
このことを知らずに、設立をした後に非営利型にするにはどうしたら良いですか?と相談にいらっしゃる方がいます。後からでも変更は可能ですが、できることなら設立時に、しっかりと非営利型としての定款にしておくほうがスムーズです。
「非営利型」になるための要件
非営利型になるための要件は以下です。
- 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること。
- 番号解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めていること。
- 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。
1つめと2つめは大きな問題は無いかと思いますが、3つめの意味するところは、最低でも理事が3人以上必要で、3人なら全員が赤の他人(非親族)、2人親族がいるなら赤の他人を4人入れて6人にする必要がある、ということです。
もともと1人で事業を始める予定だった場合や、親子や兄弟で事業を行う予定であった場合などは、この親族規程がひとつのハードルとなってしまいます。ですから、人を増やすか、まずは非営利型ではない普通型でスタートするかを、判断する必要があります。
そして非営利型になると決めたなら、非営利型の要件を満たす定款にする必要がありますので、定款作成の際には注意しましょう。
まとめ
一般社団法人の設立はそれほど難しい手続ではありません。ですが、しっかりと全体を把握した上で行わないと、ご自身が望んだ形とは違う法人になっていた、ということがあり得ますので、ぜひ気をつけていただきたいなと思います。
また、2年の任期ごとに必ず役員の変更手続きをしましょう。同じ人がずっと変わらずに理事をしている場合であってもです。この変更登記を怠ると過料といういわゆる罰金のようなものを請求される場合がありますので、十分に注意しましょう。