近年、従業員一人ひとりのパフォーマンスの最大化や新たな人材獲得としての採用面でも、企業が従業員の「健康」へ投資することの重要性は高まっています。その指標として注目を浴びる「健康経営」という言葉を皆さんはご存知でしょうか?健康経営の研究と普及の第一人者でもある新井卓二さんにお話を伺いました。
プロフィール(新井卓二氏)
学術博士、MBA。山野美容芸術短期大学教授、新井研究室主宰、日本ヘルスケア協会健康経営推進副部会長、社会的健康戦略研究所 運営委員特別研究員。証券会社勤務を経て株式会社を起業し売却。その間明治大学ビジネススクールTA、昭和女子大学研究員、山野美容芸術短期大学講師を経て現職。著書「最強戦略としての健康経営」、「ヘルスケア・イノベーション」、「経営戦略としての健康経営」、他論文多数。
健康経営について
※経済産業省HPより引用
元はアメリカから持ち込まれた概念。USでは「ヘルシー・カンパニー」という著書がきっかけで国内では2000年代前半から注目をされていたものの、当時は全く流行らなかったと新井氏は語る。再度見直されるきっかけとなったのは、2010年に健康会計が提唱され、現在の「健康経営」に呼称を変え、2014年に経産省が健康経営をうたいはじめたタイミングで見直され始めた。現在では、「健康経営優良法人認定制度」として、企業の取り組みとしても対外的に評価をされている健康経営について、まずは話を伺います。
ー まず「健康経営優良法人認定制度」について、改めて教えて下さい。
健康経営優良法人認定制度は、企業の健康課題に即した取組を,日本健康会議が優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度です。国が定めた健康経営度調査のガイドラインに従った組織経営を行うことで、健康経営認定企業として認められます。
ー 元々、国内では2000年代前半に入ってきた概念とのことですが、今それらが注目されつつある背景についても教えて下さい。
流れが変わったなと感じたのは、2015年に大手広告代理店で起きた長時間労働による社員の自殺事件からです。私がやっているプロジェクトの一つに、大学生と共に健康経営実践企業を訪問するというプロジェクトがあるのですが、ニュース発表前の参加者はたった2名でしたが、そのニュースが世間に大々的にでた翌年から参加者は10倍以上に増えました。皆さんも覚えがあるかと思いますが、ブラック企業という言葉が再び流行ったのもそのタイミングです。そして、2017年から経済産業省が「ホワイト500」という呼称で認定制度をスタートしたあたりから、企業が従業員の働き方やひとり一人の健康についても経営に取り入れていく様な流れが出来ています。
ー 会社が従業員の働き方により配慮してくれる流れ自体はとてもいいことかと思いますが、それによって企業はどんな効果を狙えるのでしょう?
シンプルに2つあると思います。一つ目は、「既存従業員のパフォーマンス向上」。長時間労働が生産性を上げないこと自体、様々な研究やデータで立証されているかと思いますが、より社員の健康に意識を向けた働き方に変わることで従業員のパフォーマンス・生産性の向上が狙えます。そして、二つ目は「採用力の向上」。組織がそれに取り組んでいるか・いないかは、社員に対しての捉え方とも見える一つの指標でもあります。対外的にも、「この企業は、健康経営優良法人認定を受けている」という見え方は、入社を考える方に向けてプラスな見え方になるハズです。
「健康で長く働けることがこれからあるべき社会の姿では?」新井さんと健康経営の出会い
ー 新井さん自身が「健康経営」という取り組みと出会った経緯について教えて下さい。
元々、私は証券会社に勤めており、そこで人事部として採用や社員のメンタルヘルスに関連する業務に携わっていました。古い体質の会社だったので、「生き残れる人材だけ残ればいい」といった風土が少なからず存在しており、入社後3年で4〜5割の社員が退職する様な環境でした。採用を担当していたので、面接から入社までフォローした優秀な学生たちもすぐに退職してしまう様な環境を目の当たりにしながら、「こんな社会でいいのか?」とは感じていました。また人事という立場から見ても、毎年200人採用しても、3年で半分が辞めてしまうのであれば、とても非効率なことをしているなとも思っていたんです。 その時から「健康で長く働けることが、これからの社会や組織のあるべき姿なのでは?」と根底に持つ様になりました。そこからアメリカのトレンドを見て、企業内リラクゼーションの会社を立ち上げたりしたのですが、2010年に「健康経営」について書かれた一冊の書籍と出会ってはじめてその概念を知り、この概念こそ、これからの日本社会にとって必要なことなのでは?と強く感じました。そして、2014年に経済産業省の健康経営を含むヘルスケア全般を研究・推進するプレーヤーを育てる地域ヘルスケアビジネス創出アクセラレーションプログラムに参加をし、健康経営の研究の道をスタートさせました。
今後について
ー 「健康経営」の普及によって変えていきたい社会像などあればお教えください。
企業が社員の健康に配慮した職場環境を整えることが社会にとって必須であり、今の子どもたちが大人になるときにそれが当たり前の社会になっていることを目標にしています。
メンタルの不調や結婚や出産によって退職せざるを得ない人たちが社会から無くなる未来は、社会の在り方として、とても好ましい状態にあると思うのです。「健康で誰もが元気に働ける社会」に自分が少しでも寄与出来たらと思って、今はこの「健康経営」の普及に努めています。
現在、私は国や自治体の仕事、本の著作料などに一切の報酬を貰わないスタイルを貫いて、来たるべき社会の推進に邁進しています。補足として、企業様からは頂戴していますのであしからず。
ー 最後に新井さんの覚悟が伝わる、お言葉ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございます。