スタートアップ企業では、雇用契約を結んで従業員として入社してもらうのではなく、業務委託契約でジョインしてもらう形を取ることも珍しくないと思います。
本稿では、業務委託契約の法的注意点について解説をさせて頂きます。
雇用契約と業務委託契約の違い
まずは、雇用契約と業務委託契約の違いについて全体像を把握しておきたいと思います。
下図に整理をしましたので、ご覧ください。
雇用契約 |
業務委託契約 |
|
会社と本人の関係 |
雇用主と労働者の関係 |
事業主同士の関係 |
提供するもの |
労働力 |
業務の遂行や成果物 |
会社から本人への指揮命令 |
可能 |
不可 |
勤務時間 |
雇用契約で定める |
原則として本人の自由 |
会社から本人への金銭の支払 |
賃金として支払う ⇒労働時間に応じて支払う ⇒残業代が支払われる ⇒最低賃金が適用される |
報酬として支払う ⇒原則として固定額 ⇒残業という概念自体無し ⇒最低賃金は適用されない |
総括すれば、雇用契約は、雇用主が残業代などを含め労働時間に応じた賃金を支払う義務がある反面、雇用主は業務内容について細かく指揮命令をしたり、始業時刻や終業時刻の指定したりすることが可能です。
これに対し、業務委託契約では、会社から本人へは原則として一定額の固定報酬を支払えば済む反面、業務の進め方などについて指揮命令をしたり、就労時間を指定することはできません。
すなわち、業務委託契約によってジョインしてもらうにあたっては、本人との信頼関係に基づいて、まとまった業務を「マルっと任せる」というイメージになるということです。
業務委託契約で指揮命令等をしてしまった場合
業務委託契約で会社にジョインしてもらったにもかかわらず、本人を指揮命令したり、業務時間を指定したりしてしまった場合は、「偽装請負」となり、会社には様々なリスクが発生します。
会社と本人の間で締結した契約書が、名目上は「業務委託契約書」であったとしても、実態としては労働者と変わらない処遇がなされていたとした場合、法的には会社と本人との間に雇用契約が成立していたとみなされます。
そうなった場合、まず、本人との関係においては、実働時間数に応じて残業代の精算が必要になります。
加えて、偽装請負を行っていたこと自体や、それに伴い、残業代の未払い、36協定未締結による残業の実施などについて、刑事罰や行政指導を受けるというリスクも生じます。
実務上の対応
実務上の対応としては、業務委託契約でジョインしてもらう以上、雇用契約で入社する場合とは異なるということを会社として自覚し、偽装請負とならないように細心の注意を払うことが肝要です。
ただ、本人が主体的に業務を進めたり、日程管理、タスク管理をするスキルが無ければ、業務が滞り、見るに見かねて、つい会社が具体的な指示を出すなど、指揮命令をしてしまいかねません。
そうならないようにするためには、契約締結の際に本人に主体性を持って業務を進めるべきことを入念に伝えたり、そもそも、そういったスキルが備わっていない人には業務委託契約でジョインをしてもらうべきではありません。
まとめ
現在は働き方が多様化し、ダブルワークをする人も増えています。そのような中、業務委託契約を活用して、スタートアップ企業が人材を確保すること自体は有益な選択肢です。
しかし、雇用契約と業務委託契約の境目が曖昧になり、法的トラブルにならないよう、入念に注意を払ってください。