友人や元同僚といった身近な人がベンチャーを起業をした際、取締役としてのジョインを打診された経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
取締役というポジションは、やりがいがある半面、大きな責任を伴います。一般従業員と法的な立ち位置も全く異なるものになりますので、本稿では、取締役と従業員の違いについて説明をさせて頂きます。
会社との契約形態の違い
一般的な従業員の場合は、会社と労働契約を結んで業務に従事します。そのため、労働基準法で守られ、様々な法的保護を受けることができます。
具体的には、「1日8時間、1週40時間までの法定労働時間」「週1日または4週4日の法定休日」「時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金」「解雇規制」「最低賃金」などです。
これに対し、取締役は会社と委任契約を結んで業務に従事します。そのため、上記のような労働者としての法的保護を受けることはできません。
役員報酬には最低賃金も割増賃金もありませんので、基本的には実働時間に関わらず、株主総会や取締役会で決定された固定報酬を受け取ることになります。
また、解任についても、解雇規制のような制度はありませんので、30日前の解雇予告なども無く、株主総会でいつでも解任をされる可能性があります。
各種保険の適用
社会保険に関しては、取締役も従業員と同様に加入します。
これに対し、労災保険や雇用保険については、「使用人兼取締役」として従業員の立場も兼ねている場合を除き、取締役は加入をすることができません。
ですから、取締役が業務上や通勤による災害で病気や怪我をした場合の備えとしては、原則としては民間の保険で備えることになります。
ただし、労災保険には「特別加入」という制度があり、一定の要件を満たせば、取締役であっても労災保険に加入をすることができますので、この「特別加入」という制度を活用することも選択肢として検討をしてみてください。
いっぽう、雇用保険については、労災保険の「特別加入」のような制度は一切存在しませんので、前述した「使用人兼取締役」の場合を除き、取締役は雇用保険に加入することができません。
そのため、取締役は解任されたからといって基本手当(失業手当)を受け取ることはできませんし、育児休業や介護休業を取得したとしても、これに対する給付金を受け取ることもできません。
責任の重さ
会社に損害を与えた場合の責任の重さについても、従業員と取締役では大きく異なります。
従業員が故意や過失により会社に損害を与えた場合も、確かに、民法上の不法行為や債務不履行による損害賠償責任を負うことがあります。
しかし、過去の判例等を踏まえると、従業員の損害賠償責任は大きく制限される傾向にあります。故意や重大な過失により損害を与えた場合でなければ100%の損害賠償責任が認められるのは稀で、多くの場合は損害の20%~30%程度に制限されます。
これに対し、取締役の場合は、会社法上の「善管注意義務」や「忠実義務」といった、経営に対する広範な責任を負っています。
株主から株主代表訴訟を受けたり、借入金の債務を連帯保証している場合は、金融機関から責任を問われることもあります。
まとめ
このように、取締役は、従業員という立場に対して、労働法や雇用保険などで保護を受けることができないことに加え、大きな責任も背負っているということになります。
身近な人から声をかけられると、義理や人情という部分も少なからず影響しますし、それも決して無視をしてよいものではありません。
しかし、その一方で、冷静な視点も合わせ持ち、取締役として会社にジョインする場合には、役員報酬の額がそのリスクに見合ったものであるのかということや、ベンチャー企業で役員報酬の額に制約がある場合には、会社が成功した場合、ストックオプションなどで将来的にリターン得られるのかどうかなどを慎重に検討し、ジョインすべきかどうかを見極めて下さい。