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【起業インタビュー 第2回】「起業して良かったと思うことは、まだありません」 起業16年目の経営者の真意は?

公開日:2016.12.08

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「起業して良かったと思うことは、まだありません」

起業して16年目を迎える経営者から、まさかの答えが返ってきた。
その言葉の真意は――

 

落合 隆志(おちあい たかし)氏
株式会社SCICUS代表取締役。 株式会社メディカルエデュケーションオーナー。
1994年に早稲田大学第一文学部卒業後、就職活動をせず渡仏。フランスでの日本人医師との出会いから、帰国後医療系出版社に就職。
2003年、株式会社SCICUSを設立。「楽しい専門出版社」として、小説やマンガを織り交ぜたわかりやすい専門書を作り続けている。企業理念は「起承転結」。


医療英単語学習書トシシリーズは累計7万部を超える医療英単語ジャンル不動のベストセラー。

 

起業に至るまで

―起業に至るまでの経緯を聞かせて下さい。

落合氏
大学の文学部仏文科を卒業し、フランスへ留学しました。ですが、今思えば無計画な留学でして(笑)、資金が底をつき2年で帰国することになったのです。
帰国したものの、得意のフランス語が活かせる仕事なんてそうそう簡単に見つかりません。たまたま求人誌で目についた医療系出版社に縁合って、お世話になることにしました。

―どのような仕事をされていたのですか?

落合氏
製薬企業を主な顧客としたBtoBの営業職です。
その後、別の出版社に転職し、通算5年ほど営業の仕事をしました。社会人としてのイロハをはじめ、今の礎はこの5年間で培ったと言えると思います。

―どうして起業に踏み切ったのですか?

落合氏
仕事のマンネリ化もありましたが、根っこは文学部ですので、読者へ直接届けられる本を作りたいという気持ちがありました。BtoBの営業ではなかなか届いてこないエンドユーザーの読者の声を聞きたい、という欲求が大きかったと思います。
そこで、在職中に合資会社を設立しました。

とはいえ、最初から潤沢な開業資金があったわけではなかったので、まずは合資会社のまま、社員をひとり採用して独立しました。1年ぐらいは社員の給料を払うだけ、自分の給料はなしという「何とか凌ぐ」状況が続きました。

 

2WAY戦略の奏功

―ある時その状況が好転した、ということですよね?

落合氏
そもそも私の会社は、BtoBの営業経験を活かし、出版とITの2つの顔を持つ会社としてスタートしていました。まったく新しいことを経験や準備なしでいきなりはじめても、無理だろうとは思っていましたし、出版オンリーではうまくいかないとも考えていたからです。

ほどなくして、まずIT方面で結果が出ました。開発したMR(医薬情報担当者)向けのeラーニングシステムがヒットしたのです。このおかげで運転資金が貯まり、合資会社から株式会社へと組織変更しました。

そして、出版方面では、「小説を読みながら医療英単語が学習できるというシリーズ」が当たりました。文学部出身で医療系出版経営という異色の部分を活かせたと思っています。
このシリーズは、医療英単語学習本としては発行以来、ずっとベストセラーとして、幅広くご愛用いただいています。

 

無知ゆえの無借金スタート

―起業当時はまだ、株式会社の設立には資本金1,000万円が必要な時代ですよね?1,000万円を貯めたのですか?

落合氏
そうですね。ベンチャーキャピタルなんて当時は知りませんでしたから(笑)

経営についてはド素人、すべて自己流でした。当時は起業サプリのようなサイトもなく、起業家としての勉強もしていなかったせいで、そもそも出資していただくという発想がなかったのです。
起業支援としての補助金や助成金も今ほどは整備されていなかったように思いますが、とにかく「無知ゆえの無借金経営」がスタートしたのです。知らなかったことがプラスに働きました。

もっとも今思えば、専門出版業というレッドオーシャンへの新規立ち上げで、特に工夫もないビジネスプランでしたので、仮に何らかの支援制度を知っていたとしても、どなたにも出資いただけなかったかと思います(笑)

さらに言うと、当時は出版の流通の仕組みもよくわかっていませんでした(笑)
つてを辿り、作った書籍を持って、医療系の取次をやっている社長を訪ねて、「すいません、この本を流通させるにはどうしたらいいですか?」と訊きに行ったぐらいです。

 

「第2次創業期」へ

―株式会社SCICUSとしては14期目。今の御社はどういう時期なのですか?

落合氏
私は今を「第2次創業期」と位置づけています。

出版業界も変革期に入り、出版社のあり方を考え直す時期に来ています。
オウンドメディアも増え、ライターと呼ばれる職種も多い。総クリエイター時代とも言われます。そんな中、プロの編集という能力は個人に宿るもので、なかなかモデル化することができない職業です。

医療系の専門編集者のもつ正確な情報提供は大きな価値を持ちます。そこで、医療系の教育資材を中心に活躍する株式会社メディカルエデュケーションを買収しました。
ここは、医療系雑誌の編集長経験を持つベテランの3人の編集長を中心に、さまざまな医療のジャンルにワンストップで対応できる、医療のプロが揃った編集プロダクションです。BtoBの業務を、メディカルエデュケーションへと移管しながら、サイカスでは、医療者と患者の垣根をなくしていく新しい出版物を提供していきます。

出版業界が斜陽であるように言われて久しいですが、情報として残っていくものは「しっかりと編集されたもの」だと思います。そして編集という仕事はシステム化できるものではありません。だからこそ、医療系コンテンツについてキャリアとスキルを有する人材は今後評価されていくでしょう。

―既存事業を移管するとなると、株式会社SCICUSはどういう事業をされるのですか?

落合氏
原点回帰、つまり、「エンドユーザーに寄り添う」出版に回帰したいと考えています。
このエンドユーザーを私の事業に当てはめると、「医療機関を利用する患者さん」と「医療サービスの提供者」ということになります。

現在、医療はエビデンスの時代から、ナラティブの時代へと移行しています。ナラティブとは患者さんの声です。単なる闘病記ではない、患者さんの声を集め、医療者との壁をとりはらう「本」を作っていきます。
医療系雑誌の創刊を企画していますが、詳細はまだ秘密です(笑)

 

「起業して良かったと思うことは、まだありません」

―起業して16年、「起業してよかったと思うこと」はどういうことですか?

落合氏
(しばらく考えて)
起業して良かったと思うことは、まだありません。これから思えるようになるのかもしれません。
敢えて言えば、起業して失敗したと思ったことは一度もないことが、いいことでしょうか(笑)

 

これから起業される方へ向けて

―最後に、これから起業される方へメッセージをお願いします。

落合氏
経験上、一つだけ言えることは、「出したものしか戻ってこない」ということです。お金を払わなければお金は入ってこないし、情報を出さなければ情報は入ってきません。
Aさんに100万円出したから、後でAさんから100万円分の見返りがある、という意味ではありませんよ(笑)。いつ誰から入って来るかはわかりませんが、起業したなら「自分から出せ」が私の経験則からお伝えできるメッセージです。

―なるほど…深いですね。本日はお忙しいところありがとうございました。

 

編集部後記

「社員の採用を決めた時は、マンションを一室買った気分になるんですよ」
インタビューの途中で、落合氏はそう笑った。

都内のマンションを購入するには概ね数千万円以上かかる。氏の言葉の意味は「社員の職業人としての人生を背負う覚悟で人を雇っていますよ」ということだ。

おそらく氏は、起業してからのこれまでを回顧する暇もないほどに、顧客・従業員・仕事で関わる全ての人に真摯に向き合い、全力で走ってるのだろう。
「起業して良かったと思うことは、まだありません」は、決してネガティブな言葉では、ない。

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