本稿を読んで下さっている方は、スタートアップ企業の経営者や人事担当者の方が多いと思いますが、いよいよ、2020年4月から、大企業だけでなく、全ての企業の対し、36協定の罰則付き上限が適用されることになります。
具体的には、原則的な時間外労働の上限は、1月45時間以内、1年360時間以内です。
特別条項を用いれば、1月100時間未満(休日労働含む・年6回まで)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)、1年720時間以内まで拡大をすることができますが、これが絶対的な上限となります。
スタートアップ企業でも従業員の健康管理は重要
スタートアップ企業では、ゼロから新しいビジネスを生み出していくので、色々な試行錯誤をしたり、仕事のルーティーン化がしにくかったりなど、どうしても労働時間は長くなってしまいがちです。
ブラック企業的な長時間労働は問題外ですが、仕事にやりがいや楽しさがあり、本人が苦痛を感じていない長時間労働であったとしても、医学的な意味においては、心身に疲労が蓄積してしまいます。
36協定の罰則付き上限は、過労死などの労災を判定するときに使われる残業時間数(いわゆる「過労死ライン」)を参考にしながら定められているものです。スタートアップ企業であっても、従業員の健康を管理していかなければなりませんから、「やりがい」や「楽しさ」にかかわらず、法改正による36協定の上限ラインは守っていく必要があるということになります。
企業側のリスク
36協定の上限を守らなければ、企業には様々なリスクが発生します。
まず、直接的なリスクとしては、36協定の上限違反として、罰則の適用を受けることです。罰則の重さとしては「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が適用されることとされています。
次に、損害賠償のリスクです。従業員が過労死をした場合、遺族から損害賠償を受けるというリスクです。たとえ本人が納得して長時間働いていたとしても、遺族との関係においては、法的問題に発展する可能性は充分に想定されます。36協定の上限を上回る時間数働いていたという事実が認定された場合、会社の責任は重いとして、遺失利益の大部分について支払を命じる判決が出て、会社には数千万円単位での賠償責任が生じる可能性があります。
加えて、風評被害のリスクも懸念されます。過労死の事実がニュースで報道されたり、インターネット上で拡散されることで、取引停止など売上への影響や、採用が困難になるなどのリスクが懸念されます。
最後に、事業運営上のリスクです。長時間労働を前提としたオペレーションが当たり前になってしまうと、ワークライフバランスの実現が非常に困難になります。そのため、結婚や子育てといったライフステージの変化を機に、「この会社で働いていては、ワークライフバランスの両立ができない」として、従業員が退職し、さらに人手不足に陥るという悪循環が発生してしまいます。
まとめ
36協定の上限を守るということは、単に、労働基準法上の罰則を回避するということだけではありません。適正な労働時間を守ることで、従業員の健康の維持や、会社に発生する様々なリスクの回避、そして、会社自身の健全な事業運営にもつながっていくのです。