監査法人の経験を経て、24歳で公認会計士として独立後、自身でスタートアップを立ち上げるという珍しいキャリアの起業家が手がけるサービスは、車中泊ならぬ「VANLIFE(バンライフ)」を通した、新しい宿泊と観光の体験提供!2018年には、3,119万人(出典:日本政府観光局「訪日外客数」)を記録した国内インバウンド需要に向けて、新しい切り口で走り出したCarstay株式会社 宮下氏にお話を伺いました。
プロフィール(Carstay株式会社 代表取締役 宮下晃樹氏)
Carstay株式会社 代表取締役 / NPO法人SAMURAI MEETUPS 代表理事 / 一般社団法人モバイルハウス協会 監事 / 公認会計士
1992年3月生まれ。ロシア出身。大学時代にアメリカへの留学経験を経て、“訪日外国人に忘れられない体験をプレゼントする”、 NPO法人SAMURAI MEETUPSを2014年に創業。外国人と地域を繋ぐ活動を80名のメンバーと共に推進。4年間で延べ1200人の訪日外国人を地域でガイドした経験から、外国人旅行者の車移動の課題と、地域の2次交通の課題を実感。そこで、2019年1月に、“快適な移動と感動体験を創出するプラットフォーム”、Carstay(カーステイ)をリリース。“VANLIFE(バンライフ)”という新しい旅のカタチを提唱する。2019年は自製モバイルハウスを製作予定。
Carstay株式会社について
> 事業内容について教えて下さい。
『Carstayを通じて、快適な移動と感動体験を創出する』というミッションの元、
全国各地に点在する駐車場や空き地を車中泊・テント泊スポットとして旅行者に貸し出すシェアリングサービス「Carstay」というサービスの企画と運営をしています。
> 「Carstay」とは、どんなサービスなのでしょう?
Carstayは、【車旅をもっと快適に楽しみたいゲスト】と【空き地・空き駐車場を活用して収益化したい地域のホスト】を繋ぐ、シェアリングサービスです。
既存のホテル泊・ゲストハウス泊・民泊に加えた新しい宿泊手段として、「車中泊」という領域に特化したサービスを展開しています。
> ビジネスモデルとしては、実際にゲストが使った空き地・空き駐車場の利用料が手数料として入ってくるのでしょうか?
はい。登録は無料で、実際にゲストが車中泊スポットを利用した際の金額の20~40%の手数料を頂くような形を取っています。
加えて、宿泊するという行為自体はあくまでも一つの手段でしかなく、『快適な移動と感動体験を創出する』という弊社のミッションの実現においては、その地域ならではの文化体験や、忘れられない地域・人との出会いもつくっていきたいと思っており、その地域ならではの【観光体験】もサービスから予約・申込みが出来るようになっており、そこからも手数料(15%)を頂く仕組みとなっています。
> 「場所」を提供するホスト側のメリットを伺っても良いでしょうか?
大きくは二つのメリットを提供出来ているかと思います。
一つは、「空き地の有効活用」を通じた一定金額の副収入の獲得が出来るという点。
そして、もう一つはその場所や施設への「集客」をサービスを通じて支援出来るという点です。
> 「集客」とは、どういったことなのでしょう?
ホテルと違い、出来る事が限定されている車中泊において、「ご飯を食べる・お風呂に入る」といった宿泊(滞在)をすることで発生する行為に関しては、基本的に外部で済ませる必要性が出て来ます。
その為、そういったサービスを提供出来る施設にとっては、Carstayを使って宿泊をするユーザーに向けた、店舗のPRや集客の導線にサービスを活用することが可能になっています。
> なるほど!都心というより地域にとってメリットを多く提供出来るサービスだと思いますが、地域側の反応は、実際どうなのでしょうか?
やはり、地域によって新しいサービスへの反応は様々で、「アプリで簡単に登録が出来て・・」というだけでも、渋い表情をする様な地域もありますし(笑)そこの温度差は、正直かなり感じています。
その中でも、車でないとアクセスが出来ない様な地域や、絶景や秘境などの隠れた観光資源を持つエリアの観光協会さんは、かなり前のめりに耳を傾けて下さっている様な状況です。
後は、瞬間的に地域に人が集まる、お祭りやスポーツイベントといった催事ごとで溢れてしまう地域の宿泊キャパシティの増加にも対応が出来るので、そういった課題や大規模な集客をするイベントを抱えている地域からの反応は良いです。
実際に地方で開催される花火大会などでは、開催エリアでの宿泊場所が満杯になってしまい、結果隣町へお客さんが流れてしまい、滞在に関連するサービスのお金が全て隣町に落ちてしまう、といった課題もよくある話なんです。
> 確かにイベントを主催する地域としても、それは勿体無い事案ですね。そういった「地域」をキーにした、サービス拡大に向けての課題などはあるのでしょうか?
地域でCarstayを拡げるに当たっては、大きく2つの壁があると感じています。
① 自治体との連携
② 受け入れ側の心理的ハードルの高さ
一つ目の「自治体との連携」に関しては、「ウチはホテルが沢山あるから良い」といって入り口の段階で断られてしまうと、その地域での広がりに限りが見えてしまうので、自治体との連携は、Carstayを使うことでのメリットや世界観を共有しながら、訴求していきたいと考えています。
二つ目の「受け入れ側の心理的ハードルの高さ」に関しては、空いている場所とは言えども、(夜に知らない人を自分の敷地に泊めて大丈夫なのか?)といった利用をするに当たっての心理的なハードルの高さをこれまでのヒアリングで感じていました。
そんな中、我々は三井住友海上と共同開発した「車中泊保険」に包括的に加入し、サービスに保険が自動付帯する形をとって、万が一にも備えています。
参照:「車中泊保険」に包括的に加入―安心して車中泊可能な場所を貸出できる環境を整備し、全国のホストを募集
「車中泊ではなく“VANLIFE”」Carstayは、これからの車中泊のイメージをアップデートしていく
> お話を伺っていて少し勘違いしていた部分もあったのですが、Carstayは「車中泊」という言葉から連想される(どうしても車で寝なければいけない)みたいなシーンではなく、あくまでも観光や宿泊の手段として「車中泊」を選択する人向けのサービスなんですね。
言葉が持つイメージは、正に仰る通りです。今Googleでワードを検索をするとネガティブなニュースや情報しか出てこないんですよ、、【車中泊 トラブル】【車中泊 寒い】とか(笑)
「車中泊」という言葉の中でも幾つかレイヤーはあるかなと思っていて、
(夜通し運転をしなければいけない)といった環境的な要因で、どうしても車で泊まらなければいけないといった方を対象にしているというより、自らの旅における滞在の中で、車中泊を選択して、新しい出会いや体験を求める方に、是非使って欲しいサービスではあります。
ぼくらでは、それを「VANLIFE」や「カートラベル」といった言葉で、これからの車中泊のイメージをアップデートしていこうと考えています。
> 「VANLIFE」って良い響きですね!ちなみに、類似しているサービスや競合といった会社は存在しているのでしょうか?
車中泊に特化したサービスは無いですが、空いている駐車場やスペースのシェアリングという観点では既に出ているサービスを含めて、競合に当たるのかと思います。
ただ実際は、エリア展開であったり、対象にしているユーザー層は異なりますので、競合というよりは、同じシェアリングサービスとして、共存出来る部分では連携を取っていきたいと考えています。
監査法人→公認会計士から起業!?スタートアップを支える側から自らスタートアップへと転身した宮下氏のこれまで
> 宮下さんのこれまでの経歴についても伺いたいのですが、Carstayを立ち上げるまでは、どんなことをされていたのでしょうか?
新卒では、有限責任監査法人トーマツという会社の中でIPOを目指す会社の上場支援をする部隊にいました。その後、公認会計士として独立し、現在に至ります。
> 会計バックグランドから、ご自身でも起業をされた形なんですね!これまであまりお会いしたことないタイプです。失礼なお話、見た目も全然それっぽくないと言いますか・・(笑)
元々、未上場の企業様の上場支援をメインの業務にしながら、スタートアップのコンサル業務にも関わることが出来たので、監査をしながらも、スタートアップの世界に憧れていたのが、もしかしたら影響しているのかもしれません。
(将来、自分も「起業」の世界にいきたいな・・)という想いを募らせながら、当時は仕事をしていました。そこからトーマツで2年半ほど勤めてから独立をしたという経緯ですね!
> これまで監査法人や公認会計士といった、スタートアップを支援する立場にいらして、現在は自身がプレイヤーとして、実行する側の立場に変化をされた中での変化や気づきってありますか?
とりあえず、見るのと、実行するのは全然違うなっと実感しています。
> 一同:(笑)
まあ、それらを肌で感じている日々ですが・・大企業にいた自分と比較する中で一番違うと感じるのは、「求められる役割」と「価値の出し方」の違いをよく感じています。
企業に所属していると、自分がどういう行動を取れば価値が出るか?って大体決まっていると思うんですね。なので、簡単に言ってしまうと、役割によって求められることをすれば、結果(価値)が出る構造になっているのかなと。
一方、自らスタートアップをやる場合は、最初に「何が自分たちの存在意義なのか?」「自分たちの価値とは?」を定義することから決めなければいけないので、そこを0ベースから考える機会は、とても増えました。プランニングの修正回数や頻度も、起業をしてから圧倒的に増えましたね。
> 役割と価値が定義されている世界なのか、それをつくる世界なのか、、って深いですね。。ちなみに、Carstayの構想を思いついたのは、いつ頃なのでしょうか?
サービスの構想を考えたのは、公認会計士として独立した後です。
当時、公認会計士の仕事と同時にNPO法人の立ち上げもしており、そこでは「地域の旅行者」と「地域のガイド」をマッチングする事業をしていました。現在もNPOは続いておりまして、千葉県成田市や神奈川のエリアを中心に活動を続けています。
4年間で累計1,200人を越える旅行者と接する機会の中で見えてきたのは、国内観光の「限界」でした。
> 限界とは、どういったことなのでしょう?
特に海外からの観光客の過半数がリピーターになってきているといった状況が国内で起きていると同時に、車を借りる海外観光客の人数も増えてきているんです。
何度も日本に来ている観光客は、東京や京都といった電車や飛行機で移動出来る場所には飽きていて、日本人と同じように車で移動をし始めているといった観光トレンドがここ数年で起きています。
> なるほど。
そういった海外観光客の変化に対して、車で移動をすることを前提に発信している観光サイトやメディア自体が少なく、実際に事業を通じて接した観光客からも同様の悩みや課題を受けていたことが一つのきっかけになりました。
それに加えて、観光地側の課題として、駅から歩いて30分以上かかる観光地域は、特に海外観光客の集客におけるハードルが極端に上がってしまい、地理的なビハインドによる観光課題も、NPOの事業を通じて見えてきました。
もっと案内したい日本が沢山あるのに、そこが物理的な交通手段によって見過ごされてしまう現実を、「旅行者」と「地域」の架け橋になる様なサービスによって解決したいと考え、Carstayの構想を思いつきました。
旅行者からも、Carstayの様なサービスはないのか?と聞かれ、自分でも調べたのですが、実際同様のサービスが見当たらなかったので、「Carstayを自分でやろう!」と思い、サービスの本格的な立ち上げに向けて動き出しました。
今後について
> 中長期的な展開についてお教え下さい。
「MaaSプラットフォーム」として、Carstayをより一層拡大していくことが今後のキーワードで、現在取得を目指している旅行業登録が完了すれば、新たな車中泊スタイルの展開が可能となります。合わせて、滞在を通じた「体験コンテンツの拡充」も図ることが出来ます。
数値としては、東京五輪も始まる来年までに1,000拠点の車中泊スポットの登録と、5年後の2024年までにはインバウンドと国内需要も含めて100万人の会員に使って貰えるサービスを目指しています。
> 最後に記事内でお伝えしたいPR事項などもあれば教えてください。
これまで、飛行機に乗って、電車で移動して、全国を観光するという移動が「線」だとするならば、モビリティによる滑らかな移動、「点と点で自由に移動できる旅や観光」をCarstayではつくっていきたいと考えています。
これからエンジニアを中心に採用を行う予定なので、新しい旅をハックしたいエンジニアの方がいれば、お気軽にご連絡下さい!
> 今年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピックと。この1-2年は御社にとって、エキサイティングな年になりそうですね!今日はありがとうございました。
こちらこそありがとうございました!