「音楽の聴き方が変わっている」と言われてみれば、そんな気はしないでしょうか?CDを買わなくなったものの、手に入る音楽の量は、もはやCDを買っていた時の比にならない程。お気に入りのアーティストや曲を詰め込んだmixCDやmixMDを交換し合った日々は、おそらく今の10代や20代前半の層にとっては「?」なのかもしれません。そんな音楽の聴き方を変えてくれたのは、SpotifyやApple Musicが代表される”ストリーミングサービス”。今、そんなプラットフォームを利用して、新しい音楽の聴き方を提供してくれているスタートアップがあります。今年の9月に4,200万円の資金調達を発表し、サービスグロースに向けアクセルを踏んでいる(株)CotoLab. 西村氏にお話を伺いました。
プロフィール(株式会社CotoLab. 代表取締役CEO 西村謙大氏)
大学卒業後、外資系製薬会社でMR職(営業)を経験。退職後、音楽×ITで世の中をよりよくするサービスを展開したいと考え、2016年1月に株式会社CotoLab.(コトラボ)を創業。現在は代表取締役として、音楽プレイリストシェアサービス「DIGLE」、プレイリスト専門webマガジン「DIGLE MAGAZINE」を運用している。
株式会社CotoLab.について
> (株)CotoLab.の事業内容について、教えて下さい。
創業からお話をすれば、エンジニアの山田と出会い、元々はWebの受託制作から事業をスタートさせました。それと並行して、お互い「バンドをやっていた」という共通のバックグラウンドから、音楽に関連した自社プロダクトを始めました。最初はバンドメンバーのマッチングサイトをつくり、そこから、プロダクトを閉じたり、改めてサービス自体を見直しながら、現在は音楽プレイリストシェアサービス「DIGLE」と、プレイリスト専門のWebマガジン「DIGLE MAGAZINE」を運営しています。
>音楽プレイリストシェアサービス「DIGLE」とは、どんなサービスなのでしょうか?
DIGLEでは、誰でも簡単に音楽のプレイリストをシェアすることが出来、自分がつくった音楽のプレイリストをシェアすることで、それを色んなユーザーに聴いてもらったり、拡散やいいね!により、そのプレイリスト自体が影響力を持てる機能を付けるなど、プレイリストをベースとした気軽な音楽コミュニケーションが取れるサービスです。
サービス名は、音楽好きの間で「音楽を探す」という意味で使われる、「ディグ(dig)る」に由来して付けています。
> 実際にどんなことが出来るサービスなのでしょうか?
現在はSpotifyのオープンソースを利用する形で、【自身が作成したプレイリストをDIGLEに公開する・ユーザーが作成したプレイリストを聴く・そのプレイリストに対して、いいね!を推せて、ユーザーからの評価の高いプレイリストはランキングで表示される】といったことが出来ます。
今後は、DIGLEから「影響力のあるプレイリスト」から出てくることを期待しています。
「海外では一般人がつくったプレイリストに10万人のフォロワーがつく事例がある。プレイリストは既に立派な影響力を持つコンテンツになっている」
> 私個人の話をすれば、聴きたいアーティストを目的に音楽を聴いていますが、他人がつくったプレイリストを聴くというのは既に一般的なのでしょうか?
日本の話をすれば、ストリーミングが普及している最中なので、これから浸透してくる聴き方になると思います。
ただ、海外の事例を話すと、既に一般人が作成したプレイリストに10万人のフォロワーが付くといった事例もあり、プレイリストは立派なインフルエンス力を持つコンテンツとなっています。アーティストも、そこに自分たちの楽曲が入ることで一気に10万人のユーザーにリーチが出来ると考えれば、プレイリストが立派なPRコンテンツにもなり得ますよね?
> 確かに!
今後、日本でもそれが生まれるんじゃないかっていうのは考えていまして、先に話したDIGLE内での、いいね!やランキングは、そういった展開の可能性を示唆する指標です。
> インスタグラマーやユーチューバーに代表される様な、そんな仕事も生まれるかもしれないですね。
そうですね、日本でも影響力のあるプレイリストを作成する「プレイリスター」という仕事が生まれる可能性がありますね(笑)
ただ、それって新しい仕事なのか?って言われたら実はそうではないと思っています。
昔、ラジオDJが選曲でかけていたことにより広まっていた、知らなかった音楽が、こういったオープンプラットフォームを通じて、個々で出来るようになっている、という時代の変化だと個人的には感じています。
「プラットフォームを利用する」という逆張りの発想が生まれた背景
> そもそもDIGLEは、どの様にして生まれたのでしょうか?
音楽の聴き方が、CDからサブスクリプションサービスに移行し、それが先行して浸透していた海外では「ユーザーは”プレイリスト”で音楽を聴く時代になっている」と言われており、そういった情報を海外メディアから得ていました。2016年にSpotifyが日本に上陸するというタイミングで、「これを日本版にローカライズして出来ないかな」と思ったのが、きっかけです。
後は、元々、私自身がMDの世代で、TSUTAYAで大量に借りたCDをMDに焼いたり、そこで自分でMIXしたものを友達と交換しあったりといった経験をしていて、(これの現代版が”プレイリスト”を中心に広がっていくんだろうな)といったことも同時に思ったりしていて、DIGLEの構想に至りました。
> スタートアップって「プラットフォームをつくる」側の発想が多いイメージを持っていて、DIGLEの様な「(プラットフォームを)利用する側」の発想って斬新だなって感じました。
そうですね。
国内だとあまり多くないのかもしれないですが、実は海外だと、そういったサービスがめちゃくちゃあるんですよ。やはり、0からプラットフォームを作る労力って、とてつもないものがあって、既に既存の土台があるものに乗ることの恩恵って、立ち上げのスピード感だったり沢山あると思うんですね。
DIGLEの話をすれば、今はSpotifyのみですが、今後Apple MusicやLINE MUSICといった他プラットフォームとの連携が広がれば、ユーザーの獲得幅も一気に広がっていきますし、「音楽はそれぞれのストリーミングサービスで聴いているんだけれど、(実は)その情報はDIGLEから得ている」といった、プラットフォームを集約した新しい場所を作れるんじゃないかと思っています。利用させて貰っているとは言え、実はそれも一つのプラットフォームになっているんじゃないかなって(笑)
会社の中で将来のことを考えた時、その世界をおもしろいと思えなかったんです。
>ちなみに、どうして起業されようと思ったんですか?
元々、前職はMRをやっていて仕事自体も楽しくて、仕事としても自分に合っていると感じていました。きっかけになったのは、自分の将来のことを考えた時でした。会社の中で、成功している先輩と、少しつまずいている先輩を見ていて、そこに自分がいた時のことを想像しても、その世界にワクワクしなかったのが大きかったです。その時は、(これって転職してもあんまり変わらないんだろうな)って感じていて、自分で始めた方が幅も広がるし、起業した方がメリットが大きいんじゃないか?っていうのが決め手でした。
今後について
> 今後のマネタイズについては、どう考えているのでしょうか?
まず、現時点での話をすれば、マネタイズはしていません。という話になるのですが、今後考えているマネタイズの方法は、3つです。
1つ目は、広告をベースとしたアーティストのマーケティング支援です。
これからのアーティストが”音源で稼いでいく”という点においては、CDというコンテンツが斜陽化しているのは明白だと思います。となってくると、SpotifyやApple Musicから「どれだけ聴いてもらえるか?」を考えていくのはとても重要です。そうなった時に、DIGLEを使えば、プレイリストデータから、その音源に興味関心の高そうなユーザーをセグメントして、広告を打つことが可能になると考えています。
2つ目は、アーティストと影響力の高いプレイリストのマッチングです。
これからDIGLEで影響力のあるプレイリストをつくるユーザーが出てくれば、そこに新譜やアルバムのプロモーションをしたいアーティストニーズが必ず発生してくるので、そこを(ユーザーを抱えている)僕たちでマッチングをして、プレイリストを作成するユーザーさん「プレイリスター」にもフィーをお支払い出来る形を考えています。
最後は、事業のマネタイズモデルとしては二次的な形になりますが、ワーキングスペースや商業施設内における、BGMの選曲代行といったことも現在は始まっており、音楽を活用した空間のコンサルティングや、ブランディングやプロモーションにも音楽を添えた、他業界とのコラボレーションなども可能性として考えています。
参考リンク:
原宿の新複合型ショップ『ベースヤードトーキョー』の館内BGMをDIGLEが担当。
> サービスの中長期的な展開も教えて下さい。
目先の部分では、DIGLE MAGAZINEの強化をしたいと思っており、webマガジンとしてしっかり外部への影響力(数字)をつけて、マネタイズに向けた動きを考えていきたいと思っています。そして、そこで埋んだ収益をサービス機能の拡張や開発資金に当てていきます。
長期的には、アジア圏にサービスを拡大したいと思っています。アジアは、日本と違い、CDを通り越して、サブスクリプションから音楽を聴きはじめた国や世代も多くいて、サブスクリプションから音楽の情報を得ることに対して抵抗感がない地域があります。そういった国では、聴き方の抵抗感こそないものの、情報が整理されていないといった課題を同時に持っていて、そこをうまくまとめていけると、その国でも影響力のあるプラットフォームにはなれると思っています。アジアで影響力を持てた時は、国内外のアーティストのインバウンド・アウトバウンドの支援といった展開なども考えていますね。
>良いですね!最後にサービスを通じて、実現したい世界観などもあれば教えて下さい。
サブスクリプションやプレイリストといった聴き方が出てきたことで、「音楽の聴き方が変わった」って思うんですね。
昔は、特定アーティストや楽曲と密接に紐づいていた音楽が、今は「落ち着きたい時に聴く」や「ワークアウトの時に聴く」といった、その人のライフスタイルやシーンに沿う様な聴き方が広まってきて、音楽がより身近になったと感じています。
音楽って衣食住とは違って、根本的に何かを解決するものじゃないかもしれないけど、その人のライフスタイルをより良くするサポートは出来るんじゃないか?って信じています。
それをもっと僕たちから(身近に触れ合う)機会を提供することで、その人が音楽を通じて、もっと幸せな人生を送れる様な、そんな機会をDIGLEを通じて提供していきたいです。