2020年のオリンピックを控え、MICE産業(Meeting、Incentive tour、Conference、Exhibitionの頭文字をとった造語)で需要を増す、外国語対応人材。しかし、そのほとんどが人材の確保に苦労をしている。今回お話を伺った女性起業家久野氏は、そんな企業が人材確保に苦労しているバイリンガル・トリリンガル対応人材のスポット派遣に強みを持つ。世界を視野に、色んな人に働くチャンスを均等に提供したい!と話す同氏が目指す世界を伺いました。
プロフィール(株式会社トライフル 代表者 久野華子氏)
2010年株式会社ニッセンに入社。モバイルサイトのマーケッターを経験。退職後、約1年間をかけ40カ国を巡る世界旅行に出かけ、100を超える国籍の人々と交流。「世界中の人がもっと気軽に、必要な人と繋がれる社会を作りたい」との思いから帰国後、2017年1月に外国語対応人材のキャスティングサービスを行う株式会社トライフルを創業し、代表取締役を務める。
株式会社トライフルについて
> 株式会社トライフルについて教えて下さい。
はい、企業と人とのマッチングをメインにした事業を展開しています。
メインとしては、国内や海外で開催される展示会などで必要とされる外国語対応スタッフのイベントキャスティングです。弊社では、日本語+外国語を1つ以上話せる外国語対応人材を、世界中どこでも、最短1時間から手配可能です。
その他、登録スタッフの語学スキルを活用し、ブライダルスタッフとしての派遣や訪日外国人への接客研修事業まで幅広く手がけています。
> 対応可能なエリアは国内のみでしょうか?
いえ、世界30都市に登録スタッフ約1,000名を抱えているので国内のみならず、海外での展示会などにもスタッフの派遣が可能です。最近では、日本企業の海外展示会におけるキャストの派遣も多数支援をさせて頂いています。
現在は、スタッフを派遣するイベントの6割が国内、残りの3~4割が海外や外資系企業からの依頼となっております。
> 世界で30都市も!?そういった人材の確保はどうされているのでしょうか?
現在は、登録スタッフからの紹介が7割を占めていて、それ以外では、語学学校や大学からの紹介・自社ホームページからの登録となっております。実は、3年前まで私自身バックパッカーをしていまして、その時に世界45カ国を回ったのと同時に、現地在住の日本人を訪ねて関係性を築いていました。現在は、当時つくった繋がりから登録者の紹介を頂くことが増えています。
> 45カ国も!?それ以前に、久野さんがバックパッカーをしているイメージが全然湧かないです(笑)
、、よく言われます(笑)
> 業界の中での競合優位性や組織としての強みもあれば、お教え下さい。
はい、2つあります。1つ目が、先ほどもお話した現地の日本人学校や大学とのパイプを持っている点です。人材を紹介を頂く大学も、かなり学歴の高い大学と繋がりを持っていて、例えば、インドネシアであれば、現地の東大・京大レベルの修了生を登録スタッフとして紹介頂いております。そういった、ただ日本語+外国語が話せるだけではない派遣スタッフの”質”も弊社の特徴です。
2つ目が、私自身が元キャストである点。業界の構造も理解していますし、クライアントの要望にどんな人材が適切かなのか?を現場を熟知したからこそ、求められているニーズにきちんとお応え出来ているのも強みになっていると感じます。現に、クライアントの8割がリピーターとして弊社を継続利用して頂いています。
色んな人に働くチャンスを均等に提供したい!モラトリアム期間のバックパッカー経験が起業の転機をつくる。
> 起業のきっかけについても伺いたいのですが、ずっとこの業界にいたのでしょうか?
いえ、新卒ではカタログ通販の会社でWebマーケティングを担当していました。
キャストの仕事自体は、新卒で就職する前と海外から帰国した期間の中でしていました。
> そこから、どの様にして現在に至るのでしょうか?
新卒で入った会社を3年ほどで退職するのですが、次のキャリアに踏み切るまでに、若干モラトリアムな期間がありました。当時は、退職してからWebデザイナーを目指しておりスクールに通っていたのですが、いざデザイナーとして再就職!というタイミングで迷いがあって・・
> 迷いとは?
若い頃に海外を放浪していた父親の影響もあって、「いつか世界一周をしたみたい!」と思っていたのですが、それをずっと出来ずにいたんですね。正確には、「大学が忙しい」「仕事もあるのに、そんな長い期間休めない」と言い訳をしていて”やらずにいた”と言った方が適切かもしれません。そういった(やりたい!)とは思っているけど、何かに理由をつけて避けてきたことをやり切らずに、このまま頂いているオファーの中から、中途半端な気持ちで次の転職先を選んでしまったら、また同じ様なことを繰り返してしまうな、と思ったんです。
反対に、自分がやりたいと思ったことをやり切って、次のステージに立てれば、また新しいステージでもやりたいことに向き合って、それを貫けるんじゃないか?そう思って、世界一周することを決意しました。結果的には、約1年をかけて世界45ヶ国を周りました。
> なるほど。そこから、トライフルを起業されたきっかけについてもお教え下さい。
帰国をしてから起業をしようと思った理由は、2つあります。
1つ目は、世界一周を通して色んな人に働くチャンスを、均等に提供したいと思った点です。バックパッカーとして世界を旅した期間で、世界には生まれた国や身分によって、チャンスを貰えない人が沢山いることを知りました。例えば、日本はビザ不要で入国できる国の数が180ヶ国と世界一ある国なのですが、アフガニスタンは、24ヶ国しか入れません。その人の努力や才能関係なく、生まれた国によって、そういったチャンス自体が決まってしまうのです。私たち日本人は、チャンスがあって、頑張ってその対価を得る、というのが前提の元、働いたり、それに向かって努力をしたりすると思いますが、それを貰うことが出来ない人が世の中には沢山いるんだ、と気づき、もっとそういった人たちにチャンスを提供したい=人材のフェアトレードをしたい、と思いました。
2つ目は、この仕事を通して、業界の構造を変えたいと思った点です。
私自身キャストの仕事をしていて、最後の方では、大きなイベントにも呼んで頂く機会も増えたのですが、現場には「有名になりたい」「××な夢を持っている」という子が沢山いました。ただ、そういった子たちに対して、低いギャラで仕事をさせていたり、登録料やレッスン料という名目で高いお金を払わせていたり、セクハラをしたり、といった業界の良くない部分の話も沢山聞きました。そういった子たちからは「早くこの業界から、足を洗って、まともな仕事に就いた方がいいよ。若くてかわいい子が出て来たら、私たちは使い捨てだから」って言われたんです。彼女たちは親切心でソレを言ってくれていて、それでも努力している彼女たちに(何故、そんなことを言わせてしまうんだろう?)と素直に思いました。その時に、その内の一人から「私も語学が出来たらな・・」って言われたんです。その言葉がすごく刺さって、(この子たちも何か差別化する為のスキルがあれば、もう少し長く活躍をしたり、この仕事を辞めた後のキャリアも詰めるんじゃないかな)と感じました。
※キャスト時代の久野氏(左から二番目)
これからのトライフル
> 組織の中長期的な展開についてもお教えください。
今一番特化してやっていきたいのは、単発の派遣です。誰にでも1日から働くチャンスがあること自体にはとても意義があることだと思っていて、元々は日本語+αで言語が話せる需要が多かったのが、現在は、現地語+英語だけでもよいといった需要の変化もあり、そこに対応が出来ることで、もっと色んな国の色んな方々にフェアな雇用の機会を提供出来ると思っています。後は、日本に出展をした海外クライアントも同様に他国への進出の際に「語学」に関する課題を持っていて、「自分たちの国でも対応出来ないのか?」といった相談も頂いております。現時点では、全ての依頼に対応出来てはいないですが、登録人材の拡大や社内リソースの増加によって、今後対応出来していけたらと思っています。
それが徐々に出来ることによって、世界中で・必要な人材に仕事が依頼出来るという大きなプラットフォームをつくり、機会の不均等を無くしたいです。
> 最後に、事業を通じて実現したい世界などもあれば教えて下さい。
起業のきっかけでも話しましたが、事業を通じて業界の構造自体を変えたいと思っています。
私自身のキャストの経験を通じて、中間業者の介在や構造が複雑なことによって、現場のスタッフに起きている問題や、正当な対価や評価がされていない現状を沢山見てきました。トライフルでは、国内・海外を問わず、正当な対価をスタッフに支払っていますし、一般的に業者として頂く手数料も業界の水準としては低く、その分をスタッフに支払えるようにしています。そういった業界の構造自体を、会社や事業を通じて変えていきたいと思っています。
後は、「語学」の面で国内を始めとした企業の海外進出を支援したい、とも思っています。日本の海外進出が遅れている理由の一つとして「語学」という側面は、とても大きな課題です。なので、そういった「海外で挑戦したい」日本企業を語学の面と、人的リソースの面で支援していくことも事業を通じて、やっていきたいです。