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食事と食べる人の”間”をデザインする。働くすべての人を対象にした(株)社員食堂の挑戦【起業インタビュー第48回】

公開日:2017.11.28

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「自分が本当に何を食べたいかを、ほとんどの人は理解していない」初めてお会いした時に、たかはしさんから言われた言葉の印象はとても強かった。コンビニ、ファーストフード、居酒屋、レストラン、インスタント・惣菜、、毎日食事に関するたくさんの選択肢が用意をされている中で、自分の”好きなもの”を選択出来る環境は、これ以上ないと言っても良いのでしょう。ただ一方で、自分が何を・どれくらい食べたらちょうど良いのか?といった自分と対峙する機会は、ほぼ皆無と言っても良いのではないでしょうか。今回は、年齢も性別も役職も所属先も一切関係ない、誰にでもオープンな社員食堂を切りもりする女性起業家にお話を聞きました。

 

たかはしかよこ氏

通信教育の会社で栄養士とカウンセラー、会員向けの栄養学のカリキュラムの制作を経て、99年からIT業界に転身、01年に当時300名規模の楽天(株)に入社し、サポートエンジニア(社内ヘルプデスク)、サービス企画・新規事業担当を経験し、07年同社のカフェテリア委員会を兼務。社員食堂のディレクターとして、本社および支社の社員食堂の構築、運営、改善に従事。14年同社を退社し、そこから数社を経て、17年に株式会社社員食堂の代表栄養士として就任。食堂を中心とした「日常の食環境」のデザイン・設計、コンサルティング業務を開始。

著作:「心と身体が生きるための栄養学」、「胎教食」

 

(株)社員食堂の事業内容について

>めずらしい社名ですが、どんな事を事業とされているのでしょうか?

 

企業の社員食堂の立ち上げコンサル、メニューや商品開発の依頼を受けたり、食を絡めたイベントの企画出しを一部しながら、おとな食堂という「はたらく人の日常の食」をテーマにしたワークショップをコミュニティキッチン社員食堂Lab.で運営しています。去年から活動を開始して、これまでに14回ほど開催をしてきました。

今後は、おとな食堂のプログラムを軸に社員食堂を作りたい企業のファシリテーション「社員食堂を作ろうハッカソン(仮)」を事業の核にしていきたいです。

 

>ワークショップ?ただ、食事をするだけの食堂ではないのでしょうか?

 

はい。「はなす・つくる・たべる(片付ける)」をコンセプトに、日常の食事の言葉を手に入れる場所として運営をしています。参加費と自分が食べたい野菜を持ってくるのが参加条件です。

 

>ワークショップでは、どんな事をされるのですか?

※会場となる社員食堂Lab.は、古いビルをリノベーションして作られたコミュニティキッチンです。

 

まず「はなす」では、参加者が持ち寄ったテーマでその場を作っていくようなアンカンファレンス形式を取っており、日常の食に関して持ち寄った課題をその場で話す時間を設けています。例えば、最近はまってる食事のことや、気になる健康情報、普段の食生活の工夫などといった感じで、皆さんがそれぞれ考えている事を話してくれますが、そこで答えを出すのでなく、ここでは参加者が自分の声と言葉で話すことに重きを置きます。

次に「つくる」。ここでは、料理が出来る過程に携わることを大切にしています。なので参加者は、実際に料理はしなくても良く、ただ見ているだけでも良いし、野菜を洗うだけでも良いのです。「料理教室ではない」自分にとってちょうどいいところに自発的に参加していただくことが「つくる」の大切なところです。メニューは、それぞれが持ちよった野菜で一つの料理をつくる「一菜一品料理」をその場で決めていきます。肉など他の素材を混ぜないシンプルだけどおいしい料理です。最後に「たべる」です。十分な量を用意するので、それぞれおなかいっぱい野菜料理が食べられるようにしています。

 

>好きなだけ食べて良いんですか?

そうです!この”好きなだけ”というのがキモで。私たちが普段野菜を食べる機会の中で、生野菜だけでなく、火を通したり、手を加えたりする野菜をお腹いっぱい食べられる機会というのは実は少ないのです。参加者の大人たちも目を輝かせて、料理を食べてくれます(笑)

普段の食事を話す機会を設けて、実際に参加者を交えながら自分とも対話をしてもらう、そこから出てくる言葉に気づきを得たり、出てくる料理を食べながら「身体が喜ぶ食事とは?」を考えてもらいながら、自分の中の答えを見つけてもらうワークショップが、おとな食堂です。

 

※おとな食堂で食べられる料理の一例

 

栄養士からIT業界への転身という異色のキャリアを経て、現在へ。

> 栄養士のご経歴から楽天(株)に入社をされてますが、社員食堂を立ち上げる前提で入社されているのですか?

いえ、楽天にはサポートエンジニアとして入社しています。

 

>(笑)エンジニア採用なんですか?

はい、楽天に入社したのは2001年ですが、1999年に16年間続けた栄養士のキャリアからIT業界にキャリアチェンジをしています。最初は、カスタマーケア・ネットワークの保守運用から入りましたが、楽天にはサポートエンジニアとして入社しています。元々はエンジニアとして入社をしたわけですが、在籍時代、本当に様々な業務を経験させて貰いました。社内ヘルプデスク(社内開発したサービスのサポートデスク)、運用業務の構築や設計、最終的には、サービス企画・新規事業の提案と実行なども経験し、楽天で買い物をしたらTwitterで呟くプラットフォームを作ったり、社内連絡ツールの立ち上げをしたり、私の起案に社内を巻き込んで事業を立ち上げる、なんてことを繰り返していました。

 

>1度、栄養士としてのキャリアを離れた背景にはどんな背景があったのでしょうか?

16年間続けた「栄養士」という仕事に、どこか限界を感じはじめていました。

そのタイミングでバブルが弾けたのも重なり、自分自身のキャリアを見直し、思い切ってIT業界に転身したという背景です。

 

> そこから楽天の社員食堂立ち上げに携わるきっかけは、なんだったのでしょう?

楽天のオフィスが六本木から品川シーサイドに本社を移転するタイミングで手をあげました。実は六本木時代から社員食堂はありました。当時の社食は「しょっぱい・美味しくない・栄養のバランスが悪い」の3拍子が揃っていて、私自身もあまり利用していませんでした。ただ六本木という土地柄、食べる場所には困らなかったので、それでも何とかやっていけたのですが、飲食店の少ない品川シーサイドに移転すると聞いた瞬間、「このままだと皆んな病気になる!」と思い、自ら手をあげた感じですね。

 

利用率実質98%という驚異的な社員食堂を立ち上げた裏側

> 社員食堂の立ち上げというと、エプロン姿の給食のおばちゃんをイメージしてしまいますが、具体的にはどんな事をされたのでしょうか?

 

実際の食事を作る会社は委託先の運営会社が入っているので、私が厨房に立つことはなかったありませんでした。委託先と、実際に食事を食べる社員の”間”をディレクションする立場でした。まず初めに取り組んだのは、1日に三食を提供する立場として「なにをどのようにどれくらい提供するか?」のコンセプトメイクと設計からでした。かつての社員食堂は栄養のバランスは一切配慮されていなかったので、社員から身体を壊すという声もききました。

はじまった当初は、日本でも珍しい無料の社員食堂として話題になりました。当時はビュッフェ形式を取っていたのですが、ほとんどルールを決めてなかったので社員のプレートは狂乱状態。寿司にラーメン、揚げ物、デザートはどんぶり一杯とった光景もザラでした(笑)

実際の利用者数にたいして、提供数がはるかにオーバーすることと食糧の廃棄も増えてしまうので、まずは「1食分」という量の枠を決めた中で自由に食べてもらえるルールを決めて、「必要なものを必要分取ってもらい、過剰摂取になりがちなものは取らせない」という食事提供の構造からメニューを委託先と考えていきました。後は、味付けに化学調味料はつかわず、現場でダシをとることをお願いしていました。基本的なことを抑えて食事を提供するだけでも、人って満足して毎日食べたくなる食事が出来るんですよ。

 

> なるほど。立ち上がりは順調だったのでしょうか?

 

食堂の利用のルールづくりからはじまり、必要な食品を必要なだけ摂れるための提供については何度も調整を重ねました。「豆料理を毎日出してください」→「豆は人気がないので食数が出ません」→「人気あるとか関係ないですから、1日に必要な食品なので出してください」なんてやり取りをしょっちゅうしていました。委託側としては、(人気のある料理さえ出せば良いんでしょ?)という考えにどうしてもいきがちになってしまうので、そうすると揚げ物や味の濃いものにメニューが流れがちになってしまいます。

「人気のない豆料理の評価が上がれば、食堂の評価も上がりますよね?」なんて、やり取りを続けながら少しずつ改善をしていきました。

 

> 実際に、どんな成果に結びついたのでしょうか?

 

食堂利用率は、実質的には98%くらいを記録していました。無料の社員食堂といっても、100%に近い利用率はとても珍しいそうです。近隣にそれなりに飲食施設はありましたが、一定の品質と栄養がバランス良く摂れる食堂として、社員の日常に欠かせない場所としての機能を果たしていました。

後は、定量的な成果ではないものの、「六本木時代は体調が悪かったが、天王洲にきたら体調が良くなった」「お腹いっぱい食べても太らない」と言った声を貰いましたね。そこから派生して、他企業から社員食堂の立ち上げに関する相談を頂くことも幾つかありました。

 

 

たかはしさんが考える、現代日本人の食生活の課題と(株)社員食堂のこれから

食事と食べる人の”間”をデザインされてきた、たかはしさんに今の日本人の食生活における課題と(株)社員食堂のこれからを聞きました。

 

今の私たちの「日常の食」に、一番必要なのは「言葉」だと思っています。食事の時に「自分が何を食べたいか?」考える時間をほとんどの人が持てていないと思っています。そもそも食べるという行為自体は、本来身体が必要としているから発生する行為であって、「自分が何を食べたら、丁度良いのか?何を欲しているか?」身体は答えを持っているんですよ。

おとな食堂の活動にも繋がりますが、そういった事を通じて、”身体に問い合わせる”という機会を増やしてもらいたいんですね。そこで出した答えが間違っていても良いんですよ、大事なのは自分で自分に問い合わせをして、答えを出すというプロセスなんです。

実は、(株)社員食堂は決して”食”の活動だけをしたい訳ではないんですね。

“食”はあくまでも手段だと思っていて、その時間を通じて、自分に問い合わせをするっていう時間と機会を持ってもらいたいというのが裏ミッションなんです。

今ほとんどの人が忙しくて、昔自分が好きだったもの、やりたかった事を忘れてしまったり、考える事を後手に回したりすることって多いと思っていて、自分と向き合う時間を作れていないと考えています。

誰でも食事はするし、1日に1〜3回は、それを考える時間が必ず訪れるので、その時にちゃんと向かい合う時間と習慣を持ってもらいたいんです。

 

そこで大事になってくるのは「言葉」で、自分の感覚だったり、自分が求めているものっていうのを言語化していく、そのプロセスを繰り返していきながら、色々な機会において「自分と向き合う時間」を作っていって欲しいんですね。その中で、その人に合った答えを見つけて貰いたいんです。食事というのは、あくまでも入り口であって、そこからそれぞれの旅が見つかるきっかけを提供する(株)社員食堂でありたいですね。

 

編集後記

事業や会社を通じて、栄養士の社会的地位や見え方も変えていきたいと話す、たかはしさん。社員の健康管理を考える企業が福利厚生を充実させている現在。近い将来、たかはしさんの様な方が、CNO(Chief Nutrition Officer)= 代表栄養士として当たり前の様に企業にいる時代もそう遠くないかもしれません。そんなたかはしさんは、1月にTED × Fukuokaへの登壇が決定しています。講演内容はまだ未定とのことですが、どんな話が聞けるのか楽しみですね!

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