良い「物」や「サービス」を提供すること
起業をするということは、自分なりに考えた、新しい「物」や「サービス」を世の中に送り出すことですが、私は、良いもの、良いサービスを提供することが、成功の第1歩であると思います。
「良い」というのは必ずしも「一流」とか「高価」という意味ではありません。
確かに、「星野リゾート」とか「リッツカールトン・ホテル」というのは、洗練されたサービスで顧客の心を掴みました。あるいは、「レクサス」や「メルセデスベンツ」のような高級車は、見た目も美しく、高い走行性能があるからこそ顧客の信頼を得ています。
しかし、吉野家や松屋だって、「日本全国どこでも同じ味や品質で、早く、安く、そこそこ美味しい食事を食べられる」という手軽さや安心感において、学生やビジネスマンから高い支持を得ています。ダイソーやキャンドゥといった100円ショップについても、手軽さや豊富な品数という意味で、世の中から必要とされているビジネスモデルです。
つまり、良い物・良いサービスというのは、それが高級かどうかに関わらず、世の中のニーズにしっかりと答え、お客様に払ったお金以上の満足度を感じてもらえる物やサービスということになるのではないでしょうか。
起業をするきっかけとして、「自分の好きなことで食べていきたい」というのはとても立派なことだと思います。ですが、その好きなことを、何も考えずに自分が思ったままに提供するのでは失敗の危険性は高いです。
「自分の好きなこと」を世の中の人が必要としている「物」や「サービス」の形に加工して、ビジネスモデルを作ることで、成功の確率はぐっと高まります。
自分のビジネスに適正な値付けができること
自分でビジネスを行う場合、自分が売ろうとしている「物」や「サービス」に適正な値段を付けなければなりません。
適正な値段というのは、目に見える経費、目に見えない経費、全てを含んでいて、なおかつ適正な利益が得られるものでなければなりません。
たとえば、古着屋を経営するということであれば、古着の仕入れ価格のみが原価ではありません。店員さんの給与、店舗の家賃、光水熱費、広告宣伝費、税理士報酬、社会保険や火災保険など公的保険や民間保険の保険料など、あらゆる経費を加味した上で、売価を決める必要があります。
売価設定が安すぎたため赤字になってしまっては早かれ遅かれ倒産ですし、赤字を免れるため、店員さんを社会保険に加入させないとか、サービス残業をさせてしまうというように人件費で調整して、店員さんへしわ寄せが行くというのはもってのほかです。
社会保険未加入やサービス残業は、経営者として恥ずべきことですし、昨今は年金事務所や労働基準監督署の取り締まりも厳しくなり、また、働く人の権利意識も高まっていますので、大きな経営リスクにもなってしまいます。
かといって、高すぎる値段をつけてしまうと、「お客様に払ったお金以上の満足度を感じてもらえる物やサービス」という第一原則が崩れてしまいますので、そもそも「商品が売れない」という状態に陥ってしまうでしょう。
ですから、「適正な値段を付ける」というバランス感覚は、経営者にとって非常に重要な資質であると思います。これが苦手な場合は、経営コンサルタントや中小企業診断士など専門家のアドバイスを受けることも一手かもしれません。
その値段で買ってもらえる販売戦略があること
「これが自分の商品やサービスの適正価格だ」ということを決めたら、安易に値引きをしてはなりません。
大口で注文してくれるので値引きしても充分ペイできるとか、商品をいちど体験してもらえば次からは定価で買ってもらえる自信があるので初回は半額で提供する、といったような明確な理由や戦略があれば良いのですが、根拠のない値引きは自分の首を絞めることになります。
あるお客様に値引きをすると、そのお客様から紹介されるお客様は全員を値引きしなければならなくなりますし、定価で買ってくれたお客様は裏切られた気持ちになってしまいます。
また、適正と考えて付けた価格から値引くということは、どこかにしわ寄せがいくわけですから、それが社員のサービス残業や社会保険料未加入につながっているとしたら、ゆゆしき問題です。
経営者は、自分が適正と思って付けた価格を守り、お客様に自社の商品がその価格に見合ったものであることを納得して頂くための販売戦略を考えなければなりません。
先に述べた「世の中のニーズにしっかりと答え、お客様に払ったお金以上の満足度を感じてもらえる物やサービス」の提供ができていれば、必ずその商品を適正価格で買ってくれるお客様は見つかるはずですから、無理な値引きには応じず、「値引きをしないと買ってくれないお客様には無理に売る必要は無い」という、良い意味での割り切りを持つことも必要だと思います。
常に値引きをして売っていては、会社も社員も疲弊してしまいますので、自分が付けた価格を守ることに対する勇気を持つことが大切です。そして、その値段が適正であることをお客様に伝える戦略を持つことが合わせて重要です。
まとめ
自分の会社を倒産させたいという経営者はいません。また、確信犯的に社員をこき使ってやろうという悪徳な経営者は別ですが、好き好んで自分の会社をブラック企業にしたいという経営者はほとんどいないと思います。
高度なビジネスのテクニックや、その業界特有のアプローチというのは色々あると思いますが、会社を維持発展させ、社員にも無理をさせないためには、「良い商品やサービスを適正価格で提供する」という商売の原理原則を大切にし、折に触れ、そこに立ち返ってみるということが必要なのではないかと私は思います。