会社設立の手続が完了した後、個人事業において使用あるいは発生した資産及び負債を引き継ぐことがあります。
特に個人の事業内容等が大きく変わらない場合には、そのまま会社に引き継ぐことが多いです。
ただし、個人と法人は別の人格ですので、引き継ぎがあった場合には税法上は個人から会社へ売却(譲渡)があったとみなされて、所得税がかかることになりますので注意が必要です。
棚卸資産の場合
商品や製品等の在庫は、会計上は棚卸資産に分類されます。
棚卸資産を個人から会社へ引き継ぐ場合は有償になります。販売した棚卸資産の売却価額は、個人の事業所得において売上高(収入金額)として計上する必要があり、申告が必要になります。
また、その価額については、仕入価額である帳簿価額とするケースが多いと思われますが、通常の販売価額の70%に満たない価額で引き継いでしまうと「著しく低い価額の対価による譲渡」に該当し、通常の販売価額の70%と譲渡対価との差額を収入金額に追加計上しなければなりません。
そのため、棚卸資産の場合には「帳簿価額」か「通常の販売価額×70%」のいずれか大きい価額で引き継ぐことになります。
なお、一括償却資産や少額減価償却資産の売却も事業所得に該当します。
固定資産の場合
個人事業の時に使用していた土地・建物・備品等の固定資産を引き継ぐ場合も有償になりますが、その価額は原則として時価(外部の第三者に対して売却する価額)となります。
この場合は個人の譲渡所得となり、申告が必要になります。
仮に時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合、時価で譲渡したものとみなされて収入金額に追加計上しなければなりませんので、注意が必要です。
土地や建物等の高額な資産については、上記の譲渡所得が大きくなり結果として所得税を多く払うことになるため、会社に引き継がずに個人所有のままとし、会社と個人で賃貸借契約を結んで会社から個人へ地代や家賃を支払う方法が多くとられます。
この場合には個人の不動産所得となり、申告が必要になります。
債権債務の場合
売掛金や買掛金等の債権債務は帳簿価額で引き継ぐことが一般的です。
ただし、債務のみの引き継ぎは、個人事業者に対して債務の弁済額相当の役員賞与を支給したとみなされる可能性があるため、注意が必要です。
退職金の場合
個人事業の期間の退職金を従業員に支給せず、会社に現金を支払って退職金相当額の未払金を引き継がせることができます。
引き継がれた未払金は、従業員が会社を退職する際に、個人事業からの期間分と合わせて会社が支払うことになります。
まとめ
棚卸資産や固定資産の場合には、その引き継ぐ価額によって発生する所得税の金額が大きく異なるため、専門家の助言等を基にその価額を決定することが重要であると思われます。