模倣から生まれる創意工夫
存続の条件は、創業当初から顧客から選ばれて売上をつくっていくことです。
そのためには同業である競争相手と同等以上の商品やサービスの魅力を備えることが必要ですから、競争相手を研究しながら模倣することがあるはずです。模倣する過程で、必然的に自社の特徴が加味されるため、模倣は創意工夫の出発点でもあります。
模倣からの創意工夫によって成功した事例にセブンイレブンがあります。
もともとはアメリカのサウスランド社が持つノウハウを導入して、日本でコンビニエンスストアの展開を始めましたが、アメリカでのハンバーガーやサンドイッチをそのまま模倣するのではなく、日本に合わせて、おにぎりや弁当を陳列することで成功しました。なお、2017年中には、国内店舗数が2万店に到達する計画であるとのことです。
創意工夫がより重要になるのは、同業ではなく異業種からの模倣です。異業種をヒントにして、自社に合わせて具体的に展開する過程では創意工夫が欠かせません。実例としてトヨタのカンバン方式はスーパーマーケットから、ヤマトの宅急便は吉野家の牛丼単品での成功から、ヒントを得ました。
顧客ニーズを満たすための「デザイン思考」
顧客から選ばれ、売上を増やしていくには、自社の商品やサービスの魅力を理解してもらうことが必要です。顧客に理解してもらうための情報発信には3つのレベルがあります。
最も基礎的な情報発信のレベルは特徴(Feature)です。具体的には、商品やサービスの案内やパンフレットなどが該当します。しかし、これだけではなかなか顧客から選んでもらうことにはつながりません。
2つ目は優位性(Advantage)です。同業他社よりも優れている点を発信することです。顧客に選ばれる可能性は高まりますが、顧客の特徴や好みによって不確実性が存在します。例えば価格で優位性を打ち出しても、価格よりも品質を重視する顧客が多い場合には、売上はあまり増えません。
3つ目、最も高いレベルの情報発信が便益(Benefit)です。便益とは顧客に貢献できることです。したがって、顧客に貢献するために、顧客のニーズを把握することが必要となります。顧客のニーズを把握して、これを満たすための方法として、現在「デザイン思考」が注目を集めています。
「デザイン思考」の特徴と成果
「デザイン思考」はアメリカのデザインコンサルタント会社アイディオ(IDEO)が、ワイヤレスのマウスを開発する過程で開発した手法です。
「デザイン思考」は顧客の観察、課題の発見、解決策の準備、試行錯誤という流れで進めていきます。この流れの中での特徴は、顧客の観察と試行錯誤にあります。
顧客の観察では、顧客に対する共感を重視します。共感とは、先入観にとらわれることなく、顧客の行動を素直に見ることで、潜在的なニーズを見つけることです。任天堂はWiiを開発する過程で「デザイン思考」を活用して、社員の家族を観察することでニーズを把握することに成功しました。
ものづくりやソフトウェア開発での試行錯誤は試作と呼ばれます。
「デザイン思考」における試作は短い期間、例えば1週間で顧客にテストしてもらえるものを準備します。そしてテスト結果に基づく試作を繰り返すことで、顧客のニーズを満たすものを的確につくり上げます。アップルはiPodの開発で「デザイン思考」を活用して、試作を反復することによって8ヶ月間でヒット商品の開発に成功しました。
「デザイン思考」はものづくりやソフトウェア開発以外の分野でも幅広く使われています。日本における「デザイン思考」で目に見える成果を獲得した事例に、ヤフーがあります。ヤフーは2014年に「デザイン思考」を導入するためのワーキンググループを立ち上げて、全社的な取り組みを行っています。取り組み2年目の2015年には、グーグルに奪われていた日本国内のポータルサイト首位の座を奪還することができました。
「デザイン思考」は大企業だけが導入できる手法ではなく、むしろ小回りが利く中小企業に向いている手法です。是非、「デザイン思考」を導入して競争相手から一歩先行して下さい。