インターネット広告事業を展開してきた株式会社オプトは、2024年4月に組織再編を実施し、グループ連結子会社複数を統合して、新生オプトとして再スタートしました。代表取締役社長 CEOとして新生オプトを率いる金澤さんに、組織再編の背景、これまでのご経歴、今後の展望などのお話を伺いました。
ーまずは今回の組織再編の背景を伺えればと思います。
今回、会社を統廃合した背景には二つの要因があります。一つに、「広告主の皆様の意思決定の変化」です。ここ3年ほど、当社は広告支援、デジタルシフト支援、新規事業開発支援の3つの領域で支援をさせていただくことが多くありました。広告主の皆様の組織でも、3つの領域にそれぞれ別々の責任者がいらっしゃり、個別にご相談を受けるケースが多くありました。それが直近では、データ活用の重要性や経営におけるマーケティングへの感度などが高くなっており、これらをまとめて、経営トップに近い方々がマネジメントしていくという動きが加速してきました。それを受け、私たちの方でも、集客から新しい事業機会を発掘するといったところまで、一貫して経営者の方と対話する機会が増えたことが一つの要因です。
もう一つはニーズです。今まではインターネット広告なら新規集客がメイン、開発ならシステム開発で生産性を向上することがメインと、論点はそれぞれだったのですが、直近では、全てを統合して、「エンドユーザーの人たちにどのような顧客体験を提供していくか」を検討・実行していくことが増えています。ライフタイムバリューを見据えてユーザーの体験をいかにリッチにしていくか、また、その体験から、お客さまにファンとして事業やサービスを理解していただき、何度も選び続けていただくロイヤルカスタマーになっていただくかが重要になるだろう、という将来予測をもとに、先手を打ったという形になります。
実は昨年、グループ連携をテーマに営業統括組織を立ち上げ、グループの商材を一つのユニットチームでセールスするという取り組みを実施しました。半年間やってみた結果、想像以上にお客さまからの反応が良く、バラバラにサービスを提供することによって機会損失が生まれていた、会社がそういうフェーズに入ったのだということを、改めて認識できました。それが組織再編に向けた現状把握になりました。
ーそういう実態を把握されてから、再編までにかなりスピード感をもって実行されたと思うのですが、それが実現できたのは何かポイントがございましたか?
現場の声をタイムリーに引き上げることができたことと、その後でトップダウンに近い形で推進できた、というのが大きいかもしれません。グループ内の各社にもそれぞれの目標と事情があるので、あえて個社目標に落とさずに全社目標という形で、グループ全社員に対してグループ全体の取り組みとしてトップダウンで落として進めました。ボトムアップで情報を得て、トップダウンで動かす、両方をしっかりとできたことが大きかったと思います。ミドルアップダウンという言葉もありますが、特に重要なのはミドル層の、部長や事業会社の役員たちです。彼らに現場で起きている情報を拾い上げてもらい、また私たちがやろうとしていることを翻訳して現場に伝え、ともに目指してもらう。こういうスキームが機能したと思っています。
ーありがとうございます。今回こうして、オプトの改革を実行するまでに至った、金澤さんの経歴を、ここで伺えればと思います。
学生時代に映像関連の仕事、卒業してからはテレビの制作に携わり、ADとしてテレビ局の下請け会社で働いていました。学生時代から、世の中に新しいルールを作りたい、物作りをして人の心を動かしたいという思いがありました。しかしテレビ業界の中だと実力不足もあり、なかなか変えられないと思っていたときに、インターネットと出会いました。今までは電話してリサーチ会社にお願いしていたことが、インターネットで調べたらすぐにわかる。インターネットにさまざまな可能性を感じた折に、オプトと出会い、2005年にアルバイトで入社しました。そこから10年後の2015年にオプトの代表となり、6年間代表を務めました。2021年からは持ち株会社である、デジタルホールディングスのグループ執行役員として事業全体を統括したのち、今回事業統廃合に伴い、改めてオプトの代表を務めることとなりました。
ーインターネットに可能性を感じてオプトに参画されたと思うのですが、実際に事業に携わった際に想像と異なる点はございましたか?
入社した当時、私はインターネットで世の中が変わり、今後のスタンダードになっていくという予測をしていました。しかし、営業で対面するお客さまのインターネットに対する期待と感度は想像以上に低い状況でした。当時はまだ、テレビCMやチラシ、看板が当たり前。そのような状況において、インターネット広告に対する期待感を抱いていただくプロセスは本当に大変でした。
そんな中、ある企業のお客さまとのお取引がきっかけで業界全体のグランドルールさえも変わる、ということを経験することがありました。それが、不動産業界でした。その時、自分の成長が会社の成長に繋がり、それがお客さまの事業成長にも繋がって、ひいてはその業界・産業自体のルールも変えられる、ということを体感し、こんなにやりがいがある仕事はないと思いました。自分たちで業界構造を変えられるという手触りは、自分の中でもインパクトがありました。インターネット業界には、「業界を変えられる」力がある。もっと働きたい、寝るのが勿体ないと思うようになり、アドレナリンが常に出ているような状況でした。志を持って挑戦できるかできないかで、人生はこれほどまでに変わるのだと痛感しました。
私は成功体験としてこの経験ができたからよかったのですが、世の中にはこういう体験をつめない人もいます。そういう人たちに、どのように還元することができたら皆がハッピーなのか、ということを考え始めるようになったのも、この頃からです。
このような経験を積み重ね、結果としてインターネット広告で売上日本一の事業部を作ることができました。しかし、その約1年後に起こったのが、リーマン・ショックです。会社として売り上げが上がっていたのにも関わらず、リーマン・ショックで苦しんでいらっしゃるお客さまを救うことができなかった。会社としても、売上も半減し、未収金も重なって、数億円の負債を抱えることになりました。私自身もそうですが、社員のみんなにもつらい思いをさせてしまった。そして1週間前までは、「一緒に仕事しましょう!」と握手していたお客さまに、手の平を返したように「お金を返してください」と、弁護士と2人で出待ちをし、債権の回収をしたこともありました。
地獄の日々を経て、それでももう1回挑戦したいと思えたのは、「産業を変えたい」という強い志があったからでした。挫折しても何度でも立ち上がれるような環境と状況を作りたいと、オプトの代表を志すようになりました。この経験は自分の中で非常に大きかったです。
ーありがとうございます。今のお話もハードだったと思うのですが、そのほか、今までの経歴で大変だったことはございますか。
最初にオプトの代表に就任した時、あらかじめ「会社をどう作っていくか」「どういう戦い方、戦略を取っていくか」というのを決めていました。そして、就任と同時に施策を進めていきました。
しかし、社員の皆からすると、これまでずっと、創業者の鉢嶺についてきたという感覚を持っている人が多くいました。私よりも年上の先輩も、数百人はいらっしゃったのです。そのため、納得感がある人ない人、戦略に対しての賛成・反対の声も多くありました。
そんななかで社員の皆が私を信じて踏ん張ってくれ、私が就任時に考えていた「会社をどういう風にしていきたいか」という目指したい世界観を形にしてくれたことが本当に大きかったです。実は、代表就任時に、就任後3年目までは口出しをしないで任せてくれ、というお願いを、創業者であり会長の鉢嶺にしていたのですが、本当にどんなに悪い状況でも口出しをせず、信じて任せていただけたことには本当に感謝しています。先ほどの不動産業界担当時の経験とあわせて、この二つの出来事は自分の大きな転機となる体験でした。
オプトで実際に働く中で、やりがいや生きがいと自分が繋がる実感を感じるようになりました。関心の対象範囲が自分から、仲間、組織、会社、業界、産業と広がっていって、その広がる感覚が非常に楽しい。次にどんな経験をしたらどのぐらいの世界観まで広げられるのだろうか。常に世界を広げながら、その問いに関する答え合わせをしている感覚はありますね。
ーそういう意味では、金澤さんの中で、これからのオプトについて、どのような展望を考えていらっしゃいますか。
この3、4年で大きな組織再編を行い、本気で産業を変革していくことを志し、挑戦文化を育んできました。ここからどのように事業を形にして成果と紐づけていくかを、カルチャーをアップデートした形で取り組んでいけることは、非常にポジティブなことだと思っています。広告代理店ビジネスだけでは知り得なかった体験と知識、そして人材を育むことができたと思っています。広告代理ビジネスと新規事業開発では、ビジネスプロセスが大きく異なります。
広告代理ビジネスは、すでにある問題や、お客さまが感じている課題をどのように解決するか、10から100にする力が求められます。一方で、新規事業開発では隠れている課題を自ら見つけ出し、課題定義をすることから始まります。
これからは、お客さまを先導し、問題定義できる人材が求められていると思います。そして、ウォーターフォールではなく、アジャイルでPDCAをまわしながら可能性を模索し、見つけて昇華するというプロセスが必要だと思っています。そのため、そのプロセスを、痛みを伴いながらもやり続けた3年間は財産です。これを今までの広告運用力に統合していくことが重要なのではないかと思っています。お客さまと取り組んできたいくつかの具体例は、LTVM(Life Time Value Marketing)の世界観として、当社ホームページにも掲載しています。かなり具体的に説明していますので、ご覧いただければ、どのような施策に取り組めるのか、具体的なイメージをもっていただけると思います。
これからの業界は、透明性や説明責任、公平性がすごく大事だと思っています。広告主とエンドユーザーと私たち、そしてプラットフォーマーの関係は、よりオープンなデータのもと、透明性のある意思決定をして、やってきたことに対してしっかりと説明していくことが、今後はより一層求められると思っています。そういったFAT(Fairness:公平性、Accountability:説明責任、Trans parency:透明性)の世界観はホームページの中でも表現したつもりなので、ぜひ目を通してもらえれば嬉しいです。
こうして、業界全体のビジネスモデルがより健全になれば、企業の成長率にももっと寄与できるだろうと考えています。日本の企業の成長率をより一層伸ばしていかなければいけない時ですが、まだまだデジタルマーケティングというものは代理店の中で閉じがちであると思っています。これをオープンにすることで、業界を変えていきたい。そういう形で、私たち起点で業界構造が変わって人が循環していくと、働き手の価値自体も上がり、若い人たちがキャリアの選択肢の一つとして、マーケティング会社で働きたい、とかDX業界に行きたい、ということが増えていくと思っています。私たちは、それを働き手の価値を上げるといっているのですが、このように産業構造を変えて新しい価値を作ることで、そこで働いている人たちの価値を引き上げていきたいなと強く思っています。なかなかハードルは高く、いつも挫けそうになるのですが、負けずにやっていきたいと思っています。
ー本日はありがとうございました。