GAFAをはじめ、世界のテック企業が今こぞって積極的な投資している分野の一つに「音声市場」が挙げられる。2021年はClubhouseの一時的な流行もあり、それを肌感として感じた方も多いかもしれない。映像、ライブ配信、ブログと世界で拡がる”個”のエンパワーメント。そして今まさに再燃し始める直前、ホットな市場に2017年から挑みを続けるスタートアップと、その創業秘話について、起業家井上氏にお話を伺いました。
プロフィール(Radiotalk株式会社 代表取締役 井上佳央里氏)
1990年東京都生まれ。大学で放送を専攻し、2012年4月にインターネット事業を運営するエキサイトへ新卒入社。UGCやC2Cをはじめとしたメディア事業、課金事業のプロデュース・ディレクションを経て、2017年8月に社内ベンチャー制度でRadiotalk(β版)をリリース。2019年3月にXTechの子会社として設立されたRadiotalk社の代表取締役に就任。2019年5月に毎日放送系MBSイノベーションドライブから約1億円、2020年10月にSTRIVEをリード投資家とした4社から約3億円の資金調達を実行。2021年2月「ICC スタートアップカタパルト」、6月「IVS LAUNCHPAD」決勝出場。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 選考委員。
Radiotalk株式会社について
ー 事業内容について、教えて下さい。
1タップで誰でも今すぐ始められる音声配信プラットフォーム「Radiotalk」の開発・運営をしています。
ー 「Radiotalk(以下、ラジオトーク)」とは、どんなアプリなのでしょうか?
配信者は手軽に収録を開始でき、収録した音声は速度や声の高さなどをカスタマイズしてSNSへ投稿が可能です。2017年のサービス開始以来、「Radiotalker(配信者)」と、リスナーが熱量高くコミュニケーションをとれる場として、多くのコミュニティが生まれています。音声配信というと、ポッドキャストの様な収録型のモノとClubhouseの様なライブ配信型のモノがありますが、ラジオトークではそのどちらも出来ます。
ー どんな方が利用されているのでしょうか?
ユーザーの8割を35歳未満の方が占めており、一般的にラジオを聴く層とは違った、新しい層のリスナーがメインです。
ー 音声配信のスタートアップは既に幾つか出ていますが、ラジオトークはどんな点に優位性を持っているのでしょうか?
まずサービスの定性的な部分でいうと、ラジオトークは収録型の配信から始めたこともあり、コンテンツ力の高い配信者が非常に多いです。企画力のある配信者の周りに配信者が集まり、配信者同士のコラボやイベントが盛り上がり、リスナーも巻き込んだ「祭」のような一体感を楽しむエンタメが生まれています。
機能的な面でいうと2つあって、まず一つは【SNSとの親和性が高い機能】を各種揃えています。具体的には、配信されたモノから自動でテロップ動画の付いた画像を作成したり、認知の少ないユーザーでもRTやシェアが起きやすい仕掛けをサービスとして用意しています。(ラジオトークでは)広告を打ってないながらも順調にユーザー数を伸ばしており、SNSと親和性の高い機能が功を奏した一つの結果なのかと思います。そして、二つ目は【配信した音声をSpotify、Amazon Musicといった各社ポッドキャストに自動配信できる機能】です。国内の独立系配信サービスでこれを出来るのは、現状ラジオトークのみとなっています。
ー ラジオトークで収録した内容を、そのまま各社ポッドキャストにも投下出来ちゃうんですね!話を聞くだけだとコンテンツを他社にも渡してしまう行為にも思えますが・・
大手外資系企業がこぞってポッドキャストに投資をしている中で、そこと競合するのではなく共存する戦略を取っているという背景です。こうすることで、実際にSpotifyを聴いたユーザーがラジオトークのLIVE配信に参加してくれたり、そのままアプリに流れてきてくれたりなどプラスな効果も出ています。
世界で盛り上がる音声市場。新たなクリエイターエコノミー誕生間近な背景に迫る
ー SpotifyやAppleなど積極的にポッドキャストに投資をしています。今、そういった音声コンテンツが見直されている背景には、どんな理由があるのでしょうか?
はい。まず、国内では2017年に発売が開始されたスマートスピーカーの影響は大きいと思います。スマホとセットで自宅の家電と連携させるIoTの流れに世界のテック企業が着目したことと、そういった機能性だけではなく、やはりコンテンツもセットにしたものにしないと中々人々の生活に浸透していかないという経緯もあって、各社が力を入れ始めたのが2016-17年の出来事だったと思います。
そして、さらに見直されるキッカケになったのは、新型コロナウィルスの影響ですね。自宅で過ごす時間が増えた一方で、改めて人と話すことの重要さに多くの方が気がついたと思います。これはポッドキャストだけでなく、radikoや民放を含めたラジオ全体の聴取率も底上げされる要因となりました。丁度、そのタイミングでClubhouseのバズが起きたこともあり、各社がライブオーディオにも参入し始めた等、コロナを機にサプライヤーもリスナーも一気に成長したと言えるでしょう。
ー なるほど。御社が位置する市場としては、音声市場と定義されるのでしょうか?
その定義については、実は難しいところです。Spotifyを除く世界大手の各社は全体のプラットフォーマーになるための一つにポッドキャストを活用していますし、市場としての算出が難しく、私たちも音声市場という認識では自分たちの立ち位置を捉えていません。
今、狙っている市場は「エンタメ市場」の中でも約5,000億円あるギフティングをまずは取っていきたいと考えていますし、そこからラジオトークから生まれるスタープレイヤーたちのオフラインライブの市場やそこに派生するグッズプロデュース、さらには彼らのIPに絡むところまで展開やマーケットを拡げていきたいと考えています。今、世界では「個をエンパワーメント」するトレンドが加速し、YouTubeからYouTuberという言葉が生まれた様に、プラットフォームから新しいクリエイターが生まれるといった現象が起きていると思います。今後、音声でも同じことが起きると考えており、私たちはラジオトークで生計を立てる人「トーカー」をもっと増やしていきたいと思っています。
ー 実際に、そういう方が出てきているのでしょうか?
はい。ラジオトークでは続々と収益化に成功する配信者が増えています。
実際に一晩のライブ配信で100万円以上稼ぐ方が何人も出てきていて、ラジオトーク内で生計を立てられる配信者が少しずつ生まれてもきている状況です。
老舗インターネットサービスの課題と学生時代の専攻が”点”と”点”で繋がる。
ー 起業することの意識についてはいつ頃からお持ちだったのでしょうか?
大学で放送制作を専攻していたこともあり、就職前の私はラジオマンになる未来を予想しており、当時は自分で起業するなど全く考えていませんでした。
ー そうなんですね。では、社会人のスタートはラジオ局にお勤めだったのでしょうか?
当時からラジオの聴き方は、ネットを通して聴く層も増えていて、事実、私もニコニコ動画やYouTubeからラジオを聴いて、ラジオに興味を持った人間でした。そこから、私自身ラジオという産業が好きというより、ラジオという”体験”が好きということに気がつき、同じ様な体験をインターネットでC向けに提供しているエキサイトに新卒で入社しています。そして、エキサイトの社内ベンチャー制度で立ち上げたサービスが、実はラジオトークのスタートなんです。
ー なるほど!現在はRadiotalk株式会社となっていますが、その辺りの関係性はどうなっているのでしょう?
エキサイトは、2018年にXTechに買収されており、そこからはXTechの子会社として再スタートしています。現在では、外部から株主が入り、一スタートアップと変わらず自力で資金力をつけて会社を運営しています。
ー 「Radiotalk(ラジオトーク)」が出来た経緯についても教えて下さい。
サービスが生まれたのは2016-17年ですが、当時私はexcite blogのPdMをやっており、サービス内でのジレンマを感じていました。
ー ジレンマというと?
ブログの投稿者は圧倒的にPC経由が多いにも関わらず、閲覧者はスマホが大半を占めており、閲覧者は増えているのに肝心なブログの投稿数が減っている、という状況に陥っていたんです。Instagramの流行もあり、ブログほど時間とパワーを使わない投稿のスタイルが増えて、長文で自分の考えを綴る様なブログからユーザーが離れつつあったんです。
ユーザーの投稿スタイルがスマホにシフトをしていく中で、これまで通りの長文をスマホで打たせるというのには流石に限界があるとも感じ、それに変わる新しい方法があるのではないか?と考えた結果が、自分が得意にしていた「しゃべったことを、そのまま聞く」というラジオのスタイルでした。丁度、アメリカでも音声入力・AIスピーカーなどが出始めたタイミングでもあったので市場的にもきっと追いついてくるのではないかということで、Radiotalkの構想は生まれました。
ー なるほど!そんな経緯があったんですね。
なので、会社設立当初は(資金調達ってなに?)といった状態でのスタートでした。
「こんなサービスがあったらおもしろい!」「プロダクトで世の中や人の動きを変えたい」という想いで一生懸命やっていたら、気がついたら起業家になっていたという人生です(笑)
今後について
ー 中長期的な展開について、お教え下さい。
世界で盛り上がるクリエイターエコノミー市場の中でも、私たちは「話す」という切り口で勝ちにいきたいと考えています。そのためには、ラジオトークだけで食べていける職業としての「トーカー」をもっと連続的に生み出す必要性と、それを支えるアプリ内での賑わい・コミュニティの形成が必須な為、組織としてもそこを意識しながら引き続き、サービスの改善に努めます。
現在私たちがサービス内で生計を立てられている人たちを「トーカー」と呼んでいますが、長期的には、そういった言葉が辞書に載るくらい当たり前の言葉として認知されれば嬉しいですし、現在は「地上波の電波をつかって、音声を届けること」と定義されているラジオという言葉の意味も、『話すことのエンターテイメント』と言葉の意味や価値観すらも再構築していけたらと思っています。
ー 最後に、記事内でお伝えしたいPR事項などあれば教えて下さい。
これから新たな資金調達も検討しており、それを経て、採用もより本格化したいと考えています。先ほど申し上げた様に、私たちは「話す」という切り口で新しいカルチャーを築きながら、最終的にはラジオ産業自体を再構築したいと考えています。放送業界出身の方や、それ以外の業界にいらっしゃる方でも興味をお持ちの方々がいれば、弊社へのご応募お待ちしております。
ー プラットフォームから正に新しい職業やカルチャーが生まれる、そんな経験が出来そうなフェーズですね!とても興味深いです。本日は有難うございました。
こちらこそ、ありがとうございます。