日本では年間約140万人の方が亡くなっており、その内の6割(約80万件)に発生すると言われているのが「不動産相続」。多くの方は、発生してはじめてその作業の大変さに直面する、と今回取材をした起業家 塩原氏は話す。拡大する超高齢化社会の「相続」課題はいかにして見つけたのか?今年、シリーズAでの資金調達を実施した、注目の相続スタートアップにお話を伺いました。
プロフィール(株式会社AGE technologies 代表取締役CEO 塩原優太氏)
新卒でIT広告代理店のオプトに入社、Web広告の運用実務を経験。その後アプリ開発を行うスタートアップを経て、中小企業の相続・事業承継に特化したコンサルティング企業へ入社。拡大する超高齢社会に起こる課題の大きさを感じ、2018年、マーク・オン(旧社名)を創業。2021年、AGE technologiesへ社名変更。
株式会社AGE technologies(エイジテクノロジーズ)について
ー 事業内容について、教えて下さい。
社名に掲げている通りAge Tech(エイジテック)領域にフォーカスし、「高齢社会にテクノロジー革命を起こす」というミッションの元、2つの事業を展開しています。
・そうぞくドットコム不動産・・煩雑な相続手続きをテクノロジーによって効率化するサービス
・そうぞくドットコムマガジン・・相続に関する様々なノウハウを配信する無料のWEBマガジン
ー 相続手続きをテクノロジーによって効率化するサービス「そうぞくドットコム不動産」とは、どんなサービスなのでしょうか?
従来は「自分でやる」か「司法書士、又は、専門家に頼んでやる」が一般的であった不動産相続に関する手続きを、Web上で完結出来るサービスになっています。不動産相続の申請業務の中でも、最も面倒なプロセスを解決する、二つの特徴を持っています。
1.書類を集める
ユーザーから依頼を受け各市区町村から、戸籍や住民票、不動産の固定資産評価証明書などの、手続きに必要な書類を弊社で代行取得します。
2.書類を作成する
システムに従って「誰が相続するのか」など簡単な入力を行うだけで、申請に必要な書類を自動生成できるサービスを提供しています。
ー 現状の(不動産)相続手続きの煩雑さについても伺いたいのですが、個人でやるにはとても大変な作業なのでしょうか?
先ほどサービスの特徴でお伝えをした【(書類を)集める】、【作成する】という作業が正に面倒になっています。
具体的に「何が大変なのか?」と言うと、まず「集める」工程においては、”戸籍の取得”です。故人の生まれてから亡くなるまでの戸籍一式を集める必要があるのですが、「親の生まれた場所を知らない」「戸籍をさかのぼると、実は親が過去に戸籍をおいていた場所が複数の地域にあり、それぞれの役所で手続きをしないといけない」など、亡くなった時点から順を追って戸籍を追いかける作業が実際に発生します。そして、二つ目の「(書類を)作成する」工程においては、ケースバイケースで作成する書類内容が変わるので、ケースに応じた適切な書類を都度ルール通り準備する必要があります。また、役所に提出する書類には、明文化されていないルールも多く、初めて作成する方にとっては、細かい部分の差し戻しも非常に多いのが現状です。
ー なるほど。個人で出来るとは言っても、実際はかなり大変な作業なんですね!
はい。ただ相続手続きを、個人でやる方も多くいますし、時間さえかければ出来る内容ではあります。従来は、専門家によっても異なりますがおおよそ10~20万を払って委託するか?自分でやるか?の2択だったところに【Web上で完結できて、明朗会計(定額69,800円)】という新しい選択肢と価値を提供したのが、私たちAGE technologiesの立ち位置といったところでしょうか。
ー 専門家に払うほどお金もかからず、かつ、コミュニケーションも楽になる、丁度いいポジションが御社なんですね!納得です。
「不動産相続市場」の現状とこれから
ー 少子高齢化に伴う、国内不動産相続市場についても伺いたいのですが、現状や今後についてお教え下さい。
現在、年間約138万人の方が亡くなっているという状況ですが、日本の人口ピラミッド構図的にもこの数字はこれから上がっていくことは明らかで、20年後には年間160万人になると予想されています。亡くなる方が増える分、相続が発生する件数も確実に増えていくので、相続手続きのマーケット自体も今後増えていくことは目に見えています。
今現在でも年間80万件は不動産相続の手続きは発生しており、空き家などの未登記不動産なども含めると、マーケットポテンシャルはまだまだあると言われています。一方で、不動産登記の専門家である司法書士は2万人ほど。対応が必要なみなさんが手続きをスムーズにすすめつつ、空き家問題など、国が抱えている不動産相続に関する社会課題を解決していくには、ソリューションが圧倒的に追いつかない状況になると考えています。我々としては、この社会課題に向き合う事業者ら全体で、これら課題を解決していければ、というスタンスで事業に取り組んでいます。
ー 国内に競合に当たるサービスなどはあるのでしょうか?
この分野のスタートアップ参入は過去にもあって、出ては消えを繰り返している印象です。現在把握している範囲だと、相続税申告のソリューションを提供している会社は数社あります。ただ我々のような不動産相続の領域で、集めることが大変な書類取得に関わるオペレーションから申請書類を自動生成するサービスまで一気通貫したUXを提供している会社は現状存在しない為、その点は差別化に繋がっているかと思います。
ただ、僕らが取り組んでいるAge Tech(エイジテック)という領域は、それが指す範囲がかなり広く、色んな課題に対して各社が挑戦しているフェーズだと認識しています。でも確実にマーケットはあって、しかも国内における課題は中長期で見ても深い。そういう意味でも、チャレンジをしているスタートアップ全体で、日本におけるAgeTechの正解を見つけていけたらと思っています。
「いざ起業しようとした時にネタが無かった」。起業のネタを探しに転職した会社で見つけた、超高齢化に伴う社会課題
ー 起業することの意識についてはいつ頃からお持ちだったのでしょうか?
明確に「この時に決めた」というのはあまり無くて、高校生から大学生くらいの時には考えていたと思います。
ー なるほど。ぼんやり考えていたものが、具体化したのには何かキッカケがあったのでしょうか?
就職と同時に東京に上京してきたことが一つの転機になりました。
やはり東京は、集まってくる人も情報も地方とは違い、環境が変わると同時に自分の心境にも大きな変化がありました。なので、社会人1年目にはもう「起業をする」とは心に決めていました。
ー そこから「相続」という事業ドメインは、どの様な経緯で決めたのでしょうか?
新卒でIT広告代理店に入社した後、スタートアップを経験してから自分も起業をしようと思い、転職をして経験を積んだのですが、いざ起業しようとした時にネタが無かったんです。自分が生涯かけて解決したい課題が無いな、と。
ー 最初は明確にやりたいことがあった訳では無かったんですね。
そうですね。ただスタートアップを経験したこともあり、書籍やネットで手に入る情報で事業を決めることには懸念があり、もっと現場に落ちている一次情報を取りにいこうと中小企業の事業承継のコンサルティング会社に転職をしたんです。そこでは金融機関とアライアンスを組んで仕事をしていたのですが、高齢化する地方中小企業の経営課題と人が亡くなることによって発生する市場の大きさを仕事を通じて実感したのが、事業として「相続」を考え始めた最初のキッカケとなりました。
ー そこから「そうぞくドットコム不動産」を想いついた経緯についても教えて下さい。
サービスを一部の限られた人に限定したモノではなく、マスに向けたモノとして展開したいと考えた時、(多くの人に発生する相続手続きとは何か?)を考えた結果、【預貯金・不動産】の2つに絞られました。そこから調べていくうちに、各銀行によって手続きが異なる預貯金ではなく、プロダクト化の道筋が見えた不動産相続の分野からサービスを作ったという経緯です。
あとは、その頃から相続登記の義務化についてもささやかれていたこともあり、法律の改変も追い風になると見越して着手しました。実際、今年になってから相続登記の義務化の法案が可決されたので、結果的に選択は間違っていなかったと感じています。
今後について
ー 中長期的な展開について、お教え下さい。
大きくは3つの展開を考えていて、まず1つ目は、相続手続きに関するサービスの横展開です。現在、不動産相続に特化したものを預貯金、相続税申告といった「相続」に関連して発生する他の作業についてもソリューションを提供したいと考えています。
そして、2つ目が「対応機関側のDX支援」です。サービスを1年半継続していく中で感じたこととして、我々の様なWeb事業者によって、これまで複雑化していたことが簡単になること自体は、確かにいい事であっても、本当の意味でDXを実現するには対応機関側(金融機関、自治体等)の体験も変えていくことが重要だと感じています。手続きの負担が大きいのはエンドユーザーだけではなく、それに対応する全ての機関も同じです。そういった課題解決のため、そうぞくドットコムで培ったデジタルアセットとオペレーションノウハウを元に、対応機関側のDX支援にも回りたいと考えています。
そして最後は、相続が始まる前後の「生前対策・終活」の領域。あるアンケートで「相続を考えるキッカケになった出来事について教えて下さい」という質問があって、その中で一番多かった回答は「実際に相続が発生したことによって」という内容でした。一度目の相続を経験したことによって、その大変さを実感する方が多いのです。弊社はそういう意味での潜在顧客をたくさん抱えています。次の相続に備えて、生きている内に出来る生前対策・終活の領域もこれからどんどんニーズが高まっていくことを見越して、適切なソリューションを提供したいと思っています。
ー 最後に、記事内でお伝えしたいPR事項などあれば教えて下さい。
現在、AGE technologiesは転換期を迎えています。今年の6月にシリーズAの資金調達を終え、改めて組織のミッションを策定した今、ようやく会社らしくなってきたのではないか、と実感しています。それに伴い、積極的に人材も募集しており、各セクションの上位ポジションから積極採用していく方針ですので、そんな会社のフェーズと相続領域に興味のある方がいれば、お気軽にご連絡ください!
ー 魅力ある会社のフェーズですね!本日はありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございます。