世界の生命保険市場における二大大国と称される日本。その規模は世界全体の13.5%を占め、アメリカに次ぐ世界2番目の市場となると言われています。その多くが、有事の際に役立つ為にかけられているものにも関わらず、肝心な時に使えない・家族の間で情報が共有されていないが故に請求出来るはずの保険が請求されないといったことが現実で起きていると、今回取材をした起業家 井藤氏は語ります。業界の課題ではなく、私たち個人、そして家族にまで広がる隠れた社会課題として、顕在化しつつある”保険の請求もれをなくす”アプリ「保険簿」についてお話を伺いました。
プロフィール(株式会社IB 代表取締役 井藤健太氏)
1989年生まれ。兵庫県尼崎市出身 関西学院大学商学部卒。
2011年の東北震災後、当時大学生だった私はボランティアで宮城・岩手を訪れた。
そこで、津波で街が流された光景を目の当たりにし、「有事において、保険金の請求は難しい」「潜在的な保険の請求もれは多い」という問題意識を持つ。そして、加入保険情報の一元管理ツールを構想した。その後、生命保険・損害保険の営業・実務の経験、システムエンジニアを経て、2018年10月に株式会社IB設立。
株式会社IBについて
ー 事業内容について、教えて下さい。
株式会社IBは、”保険の請求もれをなくす”というミッションのもと、加入保険情報の一元管理を可能にするアプリ「保険簿」の企画・開発をしています。
ー 加入保険情報の一元管理が出来るアプリ「保険簿」とは、どんなアプリなのでしょう?
ご自身の保険書類を撮影し、アプリに取り込むだけで加入保険情報が自動でデータ化・一元管理することを可能としているアプリです。加えて、「請求できる保険をレコメンドする機能」や「家族と加入保険情報を共有する機能」などを備えています。これにより、有事の際に使える保険を見過ごさない・いざと言うときに備えた家族間での情報共有、そして保険の請求もれのリスクを減らすことを可能にしています。
ー そもそも「保険の請求もれ」というのは、実際にどれくらい起きているものなのでしょう?
弊社独自の試算ではありますが、年間約1.6兆円の請求もれが国内で起きていると考えています。その理由の多くが、「請求出来るはずの保険に気づけていない」や、有事の際に当事者がそれを請求出来る状態になく「家族間でどんな保険に入っているか情報が共有されていない為、請求が出来ない」といった内容なんです。
ー 【(自分が)入っている保険の詳細を理解していない・家族が入っている保険を知らない】という話は、自分自身に置き換えても当てはまる話ですね、、耳が痛いです。しかし、それがなぜ「保険簿」だと可能になるのでしょうか?
大きくは二つの理由があるのですが、まず一つ目は、保険者の保険証券を【データで管理・共有できる】ことです。多くの方が、紙の証券しか持っておらず、それを紛失してしまったことによる請求もれや、それを家族が把握していないといったことが現実として起きています。短期間で払い終えてしまった保険などは、口座からもカードからも情報が見つかりにくく、より請求もれの原因となることが多いです。更に、地震や火災などの災害時には証券そのものが消滅してしまうリスクがより高いです。二つ目は「請求診断機能」という、有事の際に自分が請求出来る保険をアプリが診断という形で提案してくれる機能も備えています。これらの機能により、請求出来る保険にきちんと気づける仕組みを構築しています。
ー なるほど、納得です。
”保険の請求もれ”こそ、隠れた社会課題。
ー 年間約1.6兆円の請求もれというのは、とても大きな社会課題かと思いますが、支払う側の立場(保険会社)からしたら、御社の様なサービスはどの様に映っているのでしょうか。
保険会社からすれば、請求が増えるので保険簿の様なサービスを嫌がるのでは?という質問はよく頂くのですが、実は全くそんなことはなく、保険会社としては「是非、(保険を)使ってください」というスタンスです。
保険本来の役割を果たして、加入者にちゃんとメリットのある保険を届けたいということは、各社共通の想いです。結果的に、それが会社の信用やサービスの価値に繋がることも理解の上ですので、加入した保険を使って欲しくないと思っている会社は実際いないでしょう。
むしろ現在では、保険会社の方から(加入者に向けて)保険簿のダウンロードを勧めて頂いている状況でして、加入後のアフターサービスのツールとしても活用いただいております。
ー それは、とてもいい傾向ですね。
保険の請求もれの金額は、実際に起きていることすら気づいていない事もあり、本当の実態が掴みづらく、データとしてとても出しにくいんです。現在までに公のデータが出ていないことは、そういったことも要因としてあります。顕在化していない分、課題も根深く”保険の請求もれ”こそ、実は隠れた社会課題なんです。
学生時代の研究と、東日本大震災によって生まれたサービス構想。
ー 起業することの意識についてはいつ頃からお持ちだったのでしょうか?
社会人になってから、23-24歳の時でした。
ー そのタイミングで、何かキッカケなどあったのでしょうか?
新卒で金融業界に入ったのですが、将来的にみた生活と仕事のバランスが取れるか不安になりました。その時に、もっと個人の成長と組織の成長がリンクした会社にいたいと思ったことに加えて、街を歩いたり、人と会話をするだけでも「もっとこうなったらいい」と思うことが無数に出てくる中で、思いついたのにやらずに死んでいくという人生が、自分の中の選択肢にはありませんでした。
やりたいと思ったのなら、それに向かって一つでも多くの社会課題を解決したいと考える様になったのが丁度そのタイミングでした。
ー そんな中で「保険簿」は、どの様にして生まれたサービスなのでしょうか。
サービスの構想自体は、私の大学生時代まで遡ります。所属していたゼミで保険業界の研究をしており、業界が持つマーケットのデカさや、世界的に見ても高い日本人の加入率から、この分野に興味を持ち、「日本で一番保険に詳しい学生になる」という意味込みで当時勉強をしていました。
そのタイミングで2011年の東日本大震災が起き、当時大学3年生だった私は、実際に被災地のボランティア活動を通じて、有事の際に保険が使えないといった状況を目の当たりにし、サービスの構想は生まれました。
ー なるほど。アイデア自体は、学生の時からお持ちだったんですね。
その時はマイナンバー制度がスタートする時期だったこともあり、保険簿でやろうとしていることは国家単位のプロジェクトだと思っていました。まさか、これを自分でやるとは当時の自分は思ってもいませんでしたね(笑)
今後について
ー 中長期的な展開についてお教え下さい。
現在は、加入した保険が一元で管理できる機能に特化をしたサービス開発を行っていますが、最終的には、加入している保険の請求手続きなど、保険加入後のあらゆることがワンストップで解決出来るサービスを目指しています。私たちは自社で保険を売るといったことは考えておらず、あくまでも保険加入者と保険会社を結ぶプラットフォーマーの立ち位置として、保険の請求に関するDXに今後も寄与していきます。
ー 最後に、記事内でお伝えしたいPR事項などあれば教えて下さい。
“保険の請求もれ”という課題は、保険業界だけの課題ではないんです。皆さんご自身の課題ですし、皆さんの家族の課題でもあることを忘れないで下さい。この命に関わる社会課題を少しでも多くの方に知ってもらうこと。そして、保険の請求もれのない社会を一緒に目指していける方がいれば、採用・アライアンスを問わず、是非お話しましょう。
ー 見えない課題の大きさを痛感するお話でした!是非、保険簿と一緒に社会課題を解決したい方がいれば、ご連絡下さい。本日は有難うございました。
こちらこそ、ありがとうございます。