起業をすると税理士と顧問契約を結ぶのが通常ですが、社会保険労務士(以下「社労士」という)と顧問契約を結ぶかどうかは迷う人も多いのではないかと思います。
私自身、社労士ですが、なるべくポジショントークは排除して、会社の状況別に、社労士と顧問契約を結ぶ要否について意見を述べたいと思います。
社会保険労務士との顧問契約
個人事業主で経営者1人の場合
まず、個人事業主として起業し、経営者1人の段階の場合です。この場合には、社労士と顧問契約をする必要性は低いと思います。従業員がいなければ労働問題が発生することはありませんし、個人事業主本人も社会保険への加入は適用除外ですので、社労士が助言をできる場面はほとんど思い浮かびません。
経営者1人でも法人を立ち上げた場合
経営者1人であっても法人を立ち上げて起業した場合は、ケースバイケースです。
経営者1人であっても、法人形態にした以上、社会保険への加入義務が生じます。社会保険へ加入する手続を行わなければならないことはもちろん、社会保険に加入すると、毎年7月に「算定基礎届」という書類を年金事務所へ提出することや、役員報酬が一定額以上変更した場合にも「月額変更届」という書類の提出義務があります。また、社会保険料を正しく控除して役員報酬の手取り額を計算することも、意外と難しいものです
そこで、これらの手間を考えずに、本業に集中したい場合は「お金で時間を買う」という発想で、社労士と顧問契約を結んで一任してしまうことが良いでしょう。
逆に、「今は1円でもお金が出ていくのを減らしたい」ということであれば、社会保険の加入手続などは年金事務所に行けば書類の書き方を教えてもらえますので、時間はかかっても自分でやり切ることは不可能ではないと思います。
従業員を雇入れる場合
従業員を雇入れる段階まで来たら、個人事業主であれ法人であれ、社労士と顧問契約を結ぶことをお勧めします。
その理由は、従業員にとって働きやすい会社にしたり、従業員との信頼関係を築いたりしていくために、社労士のサービスが有用だからです。
たとえば、従業員が入社して社会保険に加入する際、社労士と顧問契約をしていなければ、事業主が忙しくて手続が遅れてしまった場合、従業員の保険証が発行されるのも遅くなってしまいます。
また、給与計算で社会保険料や源泉所得税の控除額計算を間違えてしまうと、後からさかのぼって追加徴収しなければならないような場合も出てきてしまい、そのような情況が続くと「この会社は本当にきちんと給与計算を行ってくれているのか。自分は給料を誤魔化されていないだろうか。」という不信感を従業員が持つことにもなりかねません。
社労士に社会保険の手続や給与計算の代行を依頼することで、事業主の手間が減らせるだけではなく、迅速な保険証の発行や正確な給与計算が行われることで、従業員のためにもなるということです。
また、万一、社員との間でトラブルが発生した場合の対応、労働基準監督署や年金事務所の調査に当たってしまった場合の対応、自社で活用できる助成金の紹介や申請代行など、顧問社労士がいることで、人事労務に関し幅広い助言やサポートが受けられるでしょう。
まとめ
社労士との顧問契約を結ぶことは「事業主の手間を減らして本業に集中すること」「従業員が働きやすい会社を作ること」の2つの観点から考え、必要な段階になりましたら、是非社労士を活用して頂きたいと思います。