「プランター 」という言葉をご存知でしょうか? 園芸などで草花を育てるプラスチックの容器です、と言えば大概の方が想像出来るのではないでしょうか。実は、この言葉は1964年の東京オリンピックを機に広まった和製英語なんです。そこから60年超の歳月を経て、このプランターにIoTの力を加えた、新しいプランターが開発されています。これまで誰もが「無理だ」と言ってきた都市型農業に革命を起こそうとしている三代目社長にお話を伺いました。
プロフィール(プランティオ株式会社 共同創業者/ CEO 芹澤孝悦氏)
大学卒業後ITのベンチャー企業へ。エンターテインメント系コンテンツのプロデューサを経て、日本で初めて“プランター”という和製英語を発案・製品を開発し世に広めた家業であるセロン工業へ。男性から女性に花を贈るフラワーバレンタインプロジェクトの立ち上げや2012年業界最大の国際園芸博覧会フロリアードの日本国政府スタッフとして参画。60年前に開発された元祖“プランター”をその当時の熱い開発マインドと共に今の時代にあった形で再定義し、次世代の新しい”人と植物との関りかた”を模索する三代目。
プランティオ株式会社について
>事業内容について、教えて下さい。
はい。現在は、2つの事業を準備しております。
1つ目は、私の祖父が1955年に発明した「プランター」にIoTの技術を取り入れ、70年ぶりのアップデートを果たした「Smart Planter™」をコミュニティを通じ、皆んなで楽しく野菜を栽培する、エンターテイメントアグリケーションプラットフォームの開発。
2つ目は、ディベロッパーさんと提携した、都市に全く新しいアグリカルチャーに触れられる場所をつくる、ファーミングスポットの事業です。
>「Smart Planter™」とは、どんなことが出来るものなのでしょうか?
従来のプランターをIoT化することで、野菜栽培体験における”食べる”までのプロセスを一気通貫して共有出来るプランターです。ハードであるプランターには、土壌水分計、土壌温度計、日照計などの機能を備えたセンサーデバイスとカメラを搭載し、栽培中の植物の状態をデータによりこと細かに解析。ソフト面では、アプリケーションを通じて、植物の生育のアドバイスや、家族やメンバーを巻き込んだソーシャルコミュニケーションが取れる機能を備えています。
>ビジネスのモデルとしては、ハード(プランター)の販売になるのでしょうか?
はい。一般家庭に向けた直販のモデルに合わせて、マンションやオフィスビルのディベロッパーさんと連携して、マンションやビルの付加価値として、標準でこのプランターを設置して貰い、ユーザーさんからは管理費の中にプランターの利用料を頂くと行った、BtoBtoCのモデルも考えております。
製品の販売は、来年の5月~8月を目処に考えており、目下商品化に向けて動いております。
>初期の段階では、どんな方をターゲットとして狙っているのでしょう?
これまで農家にのみ頼ってきた野菜栽培を、テクノロジーを取り入れたハードを使い、皆んなで育てていくという新しい体験・世界に興味を持って頂ける方を想定しています。
30代で小さなお子さんを持ち、食に対して、食べ方や生産方法だけではなく、マクロな観点で関心を持たれている方に手に取って欲しいですね。
現段階では、価格的にも郊外のホームセンターに置いて、気軽に購入出来るモノではないと思いますので、蔦屋家電さんの様なアーリー層にリーチが出来そうな場所での商品販売を考えています。
※こちらがSmart Planter™。左部分にカメラとセンサーが付いており、植物の生育を細かに管理・分析している。
「昔は皆んな自分の畑や軒先で野菜を育てていた」。在りし日の日本を取り戻す、現代版プランターがつくる未来
>都内であればスーパーで野菜を買うのが当たり前ですが、地方やちょっと郊外にいけば「食べられる分を自分の畑でつくる」のは普通の光景だったりしますよね。
昔は、都心部でも軒先で野菜を育てるなんて光景があったかと思います。でも、いつの日か、その労力を辞め、時間を捻出することを「野菜を買う」という対価を払って、得てきたんです。でもそんな環境になったのは、高度経済成長から始まり、まだ50年足らずです。なので、Smart Planter™が都心部の暮らしに根づくことで「行き過ぎた資本主義を少し戻したい」といったことも考えています。(自分で食べる野菜くらいは、自分たちでつくろう)そんなことを都心部で生活する人たちにも、もう一度思い返して欲しいです。
>それは、芹澤さんの幼少期の思い出からなのでしょうか?
いえ、私は渋谷生まれ・渋谷育ち。
父親も渋谷で生まれ、母親は銀座、といった家庭環境で生まれ育ちました。そんな人間からすると、地方のそういった話がうらやましくてしょうがなかったんですね。
私の家の裏にはスーパーがありますけど、それが無くなったら死んじゃいますからね。
>(笑)ある意味、都心で育ち・農業を経験してきていないからこそ、出来た発想なのかとも今感じました。
そうかもしれないですね(笑)自分たちが死なない為のプラットフォームをつくって見たかった、なんて想いもあったりします。
>実際、「野菜を育てたことがない人」でも育てられるものでしょうか?
はい。そこには、AIのサポートを入れています。プランター内にあるセンサーを通じて、クラウドでデータを一括解析し、そのデータの中から最適なアドバイスを送るという仕組みを構築しています。なので、「このくらい水をやった方が良い」「いつ芽かきをした方が良い」という情報がAIを通じて、スマホに通知がくる様になっていますし、質問があればアプリ内のコミュニティに写真と質問事項を投稿すれば、それもAIから返信を返す様な仕組みになっています。
学生時代の夢はジャズミュージシャン!キャリアのスタートは着信メロディ制作。老舗三代目のちょっと変わった経歴
> 起業前はどんなキャリアを歩んでいたのでしょうか?
元々はジャズミュージシャンになりたくて高校・大学と進路を決めていました。それと同時並行でコンピューターも好きだったので、当時は、まだ出たてのMacやWindowsを組み立てて、DTM(※)で着信メロディを作っていたことがきっかけで、着信メロディの制作会社に入社しました。
当時、着信メロディ・着うたが爆発的に流行ったタイミングだったので、レコード会社や芸能事務所の担当もしながらサイト制作の仕事を請けたり、映画やアーティストのプロモーションに着うたコンテンツを載せたりといった形でエンタメ業界にどっぷり浸かっていました。
※Desk Top Music(デスクトップミュージック)の略。
> そこから家業に戻るというのは、元々考えていたことだったのでしょうか?
いや、正直に言うと「こんな零細企業なんて継ぎたくない」と思っていたのが本音で、華やかな業界にいたからこそ、泥くさくみえる業界が「かっこ悪い」とさえ思っていました。当時は、(自分には一生縁がない)とまで思っていましたね。
> そこまで思っていて、何がきっかけで戻られたのでしょうか?
きっかけは父親が病気で倒れたことで、それ支えていた母親も辛い思いをするなど、その姿が見ていられなく、私が長男というのもあり、覚悟を決めて戻ってきました。
> エンタメ業界から歴史ある中小企業への転身って、かなりギャップがあったのではないでしょうか?
沢山ありましたね。当時、私が入社した時はパソコンすらほぼない様な状態で、社員のほとんどが手書きで仕事をしている様な状態だったんです。しかも、それが2008年の時です。
> ええ!
書類にハンコだけ押す社員がいたり、と訳が分からない状態だったんです。
組織としても、人事評価制度も無く、社長の一存で給与が決まるので、社員全員が社長のゴマすりに動く様な、いわゆる中央集権的な構造になっていたんです。
そんな状態だったので、ほぼ毎日内心は怒ってました。周囲からは「三代目は何を言ってるんだか分からない」そんな空気の中で日々奮闘していました。
その中でも、祖父がつくったプランターという商品であり、マインドにこれまで培ってきた「エンターテイメント」要素をかけ合わせて新しいことが出来ないか?と企画をする中で、Smart Planter™構想が生まれ、セロン工業からスピンオフする形でプランティオ(株)が生まれました。
今後について
> 会社の中長期的な展開についてもお教え下さい。
まずは、現在ディベロッパーさんと広げているファーミングスポットの実証実験を繰り返しながら、来年の春くらいを目処に本格的な事業として立ち上げていきます。
かつ、ハードウェアであるSmart Planter™に関しても、同様に製品化に向けた開発を進めていきます。そのタイミングでは、一般販売と事業会社との各種提携の両軸でスタートする予定です。
>サービスを通じて実現したい世界観があれば、お教え下さい。
私たちがやりたいことは、これまでの農業を否定するのではなく、従来の農家さんがやってきた農業をマクロなファーミングだとするならば、私たちが開拓したいのは分散型ベジテーションで、どこでも・誰でも出来る「マイクロファーミング」という世界です。
簡単に言ってしまえば、昔の日本で見られた「自分たちで育てて・食べる」といった光景を都市に社会実装し、それを通じて、持続可能な食と農を都市部で実行したいんです。
私たちは、「アグリカルチャー(農)をエンターテイメントしたい」と言い続けてきたのですが、最近になり海外では体験型の農業のことを「アグリテイメント(※)」とも言う様にもなり、やっと世界共通でしっくりくる名称が出てきたなと感じたのと同時に、これまでやってきた道のりは間違っていなかったと感じています。
※AgricultureとEntertainmentを組み合わせた造語。
「都市部で野菜を育てる」というのは、海外では当たり前になっており、ニューヨークのブルックリン区のレジデンスには、畑が付いており、そういった付加価値がないとそもそも売れないといった事例や、ロンドンでも、2012年に開催したロンドンオリンピックに向けて2,012ヶ所のファームを都市部に設置したものが、2018年現在には3,000ヶ所を超える規模にまで拡大し、そこでは約120万食分の食料が作られているという事実があります。
誰もが「無理だ」と言ってきた都市部での食の生産が、世界では当たり前に行われている。そして、それをなぜ農耕民族である日本人が出来ないのでしょうか? そこには色々な問題がありますが、もうテクノロジーで解決出来る時代なのです。
なので、持続可能な食というのを農家だけに託すのではなく、都市部に住む人を含めた全員でやることで、食や農家に対する見方も変えていく。それを従来農業と都市部で行う「マイクロファーミング」でバランスを取り、それを2020年までにやっていきたいと思っています。
> 2020年?東京オリンピックを目安にですか?
はい。プランターは、前回の東京オリンピックを機に、私の祖父が世に広めまして、天皇陛下からも勲章を貰うなどしているのですが、今三代目として手がけているSmart Planter™と、東京オリンピックがまたこのタイミングで奇跡的にやってきます。。
これが出来るのは私の天命であると強く思っていますので、人生を賭けて「持続可能な食」を実現します。
> 最後に鳥肌が立ちました(笑)今日は有難うございました。
ありがとうございます。