起業をする為の経験として向いているのは、ベンチャー企業?それとも大手企業?答えは「どっちもどっち」なのかもしれません。ベンチャーにはベンチャーで、大手には大手で学べる側面があり、それは経験した人にしか理解出来ないのではないでしょうか。今回のインタビューは、大手企業2社での華々しい経験を持って、起業をされた渡邉氏。今だから実感する大手企業を経験するメリットや、そこから起業するためのスキルをどう身につけるか?を伺いました。
プロフィール(渡邉 知氏)
1999年(株)電通国際情報サービス(ISID)入社。
人事部採用グループマネジャー、経営計画室勤務を経て、2008年より(株)リクルートへ中途入社。大手企業の人材採用・育成支援部門で営業活動に従事した後、2011年よりじゃらんリサーチセンター エリアプロデューサー/研究員。主として都市圏から地域への交流人口増をテーマにした社会課題に関わる。複数回の営業MVP、TOPGUN AWARD受賞(2010年度)。2014年よりISIDオープンイノベーション研究所。ビジネスプロデューサーとして、主にICTを活用した地域コミュニティづくりに携わる。2015年、(株)ファイアープレイス設立。東京都観光まちづくりアドバイザー。静岡県地域づくりアドバイザー。(株)さとゆめ社外アドバイザー。
株式会社ファイアープレイスについて
> 事業内容について、お教え下さい。
コミュニティ関連(コミュニティ形成・場作り・コミュニティブランディング)の仕事をしています。事業と聞かれると、まだまだそのレベルではないので恥ずかしい限りです。
> 「コミュニティ」と言いますと、具体的にはどんな仕事をされているのでしょうか?
抽象度が高い表現で恐縮ですが、「繋がりをデザインすること」でしょうか。例えば、コワーキングスペースであれば、「入居者同士で仕事を回し合えるコワーキングスペースになりたい」とか、商業施設内にある中庭スペースを買い物客・施設でコミュニケーションが図れるスペースに有効活用する為のディレクションであったり、首都圏にいるホワイトカラーの人材を、地方の事業承継や幹部人材として、複業でその事業に絡んで貰う機会をイベントから創る仕事などもしています。
> 「コミュニティ」というと実態が見えづらい分、そういった仕事のつくり方のイメージが湧きにくいのですが、最初はどんなことから始めたのでしょうか?
実績を創りたかったので、ビルの屋上と最上階を賃貸で借りて、現在も自社で運営しているROCKHILLS GARDENという施設を作りました。やっぱりリアルな場所や実績になるものが無ければ、場作りやコミュニティの仕事の本質がわからないと思ったからです。
場所を借りて、そこに、自分がこれまで培ってきた経験と人脈をどう紐付けるか考えて、私らしい場所となるよう、繋がりをデザインしていく。現在は、「手ぶらでBBQができる」という場所でありながら、「地域を応援する場所」とか「地域の方と都市圏の方が繋がる場所」とか「都市圏で頑張る地方学生を応援する場所」としてコミュニティ形成に尽力しています。
東北の若手漁師集団、フィッシャーマンジャパンと連携した食のイベントを開催したり、地方学生の就活応援をしてみたり。当時は、そういったハードとソフトを掛け合わせた場づくりを行うプレイヤーが少なかったので、場所にコミュニティを作りたい事業者や、今風の賑わいを作りたい施設から徐々に声がかかる様になってきました。
※ファイアープレイスが運営するビルをフルリノベーションした秘密基地ROCKHILLS GARDEN。屋上では貸切でBBQなども出来る。
起業のきっかけになった長野県の「キャンプ場開発」
> 現在の事業につながったキッカケには、どんな背景があるのでしょうか?
サラリーマン時代に友人経由で、使い切れていない場所の活用案件に携わったのがキッカケです。当時、相談をもらった際にFacebookを通じて「この場所、一緒にどうにかしませんか?」と投稿したんですね。そしたら、その投稿に700いいね!くらいが付いて・・
> 700、、すごい。
そこから賛同してくれた見ず知らずの人たちと一緒に、ウッドデッキを作ったり、小屋の壁を塗り替えたりみたいなことをやっていきながら、VENT VILLAGE(ヴァン・ヴィレッジ)という一つの場所(キャンプ場)をつくったのが僕の原体験なんですよ。そこで「共感」さえあれば、そこにコミュニティが産まれることを学びました。そこで学んだ場づくりやコミュニティ作りが、次のROCKHILLS GARDENにも大きく活きています。
組織を使い倒す。大企業に所属する「メリット」と、その過程で何を学ぶべきなのか?
電通・リクルートといった大手企業2社の経験を経て、起業をした渡邉氏。起業する為に大手企業を足がかりにするメリットは、どんなところにあるのか?今だから言える、所属のメリットと、現在も大手にいる方に向けた組織の使い方を伺いました。
> 起業前は、業界の中ではネームバリューのある大手企業に在籍していたと思います。起業するステップとして、大手企業に属すメリットはどんなところにあるのでしょうか?
大手企業が、それまでの歴史の中で社会に対して培ってきた「信用と信頼を根こそぎ使える」ことが最大のメリットだと思います。例えば、「電通にいました」「リクルートにいます」って言うだけで住宅ローンが組めたりするわけです。名刺があれば会いたい人にも会いに行ける。大手企業に属する渡邉知には、そういった信用と信頼が担保されている一方で、個人としての渡邉知になった瞬間、カード審査は通らないし、ローンも組みづらいという風になるわけですよ(笑)なので、大きな企業に属する最大のメリットは、「自分は何者でもないのに、何者でもあるかの様に信用と信頼をショートカットで獲得出来る」これに尽きると思います。
> 信用と信頼のショートカット・・それは確かにそうかもしれないですね。
僕らが就職活動をしていた頃はインターネットも今ほど発展していなかったですし、会社員になる事でしか「信用と信頼」を獲得する術がありませんでしたが、現在は、それを獲得する手段がインターネットを通じて沢山出てきているので、その辺りの状況が昔と変わっている部分もあると思います。SNSなどの発信手段を通じて、自分の力で信用と信頼を獲得している人も増えてきていますよね。
> では逆に、大手を経験した後に起業した中で苦労したことはありますか?
私個人で言えば、0→1がわからないことですかね。。これはサラリーマンの弱点だとも思うのですが、「課題解決のおそろしく上手なホワイトカラーおじさん」にはなれるけど、ビジネスを創る人になることは本当に難しい。。
サラリーマンの仕事って、基本的に「やらなきゃいけないこと」が上から降りてくるじゃないですか。上半期・下半期の目標達成シートに沿って、目標がセットされて、達成する指標もKPIも組織が決めていて、売らなければいけない商品も、大抵の場合は決まっている。そんな中で相当なハイパフォーマンスを達成しても、会社の外を出てしまうと、自分が何をやっていいか分からなくなってしまうし、解決する課題を与えてくれ!と「課題解決マシーン」になってしまいがちかな、と。。
> なるほど。今、大手企業に属しながら起業を志す方にアドバイス出来ることって、ありますか?
「自分が何者であるのか?」という自己紹介のスキルを高めて、いざ会社の枠組みが解けた時に外で繋がれるモノを持つことが大事だと思います。
組織とか会社で仕事をしていると、外に出た時に「自分が何が出来るのか?」を言えない人って、実はすごく多いです。君は何が出来るの?と聞かれた時に「〇〇会社にいました」って言うのは会社の紹介だし、「マーケティング部にいました」というのは組織の紹介だし、「マーケターやってました」っていうのは職種の紹介じゃないですか。
僕もそうでしたが、そこからもう一段踏み込んで自分の出来ることを話せる人っていうのが案外少ない。自分の価値を伝え切れないんです。
もう一つは、自分の「幸せのスケール感」を把握しておくこと。人を雇用すること、会社を大きくすること、資金を調達すること。どれも、吐くほどしんどいですよ。起業すると8割方、憂鬱です(笑)。自分が目指したい幸せと向き合って、本当に雇用したいのか、大きくしたいのか、とことん向き合った方がいい。僕は最終的には、自分らしく生きられればそれでいいと思っているんですよね。その時に自分の「自分らしい」スケール感をちゃんと把握しておくこと。これは、とても大事なことだと思います。
渡邉知流 仕事のつくりかた「日々の出会いの中で、いかに自己紹介の質を高めるか?」
大企業の看板を外し、これまでに経験の無い分野から仕事をつくってきた渡邉氏。認知の少ないスタートアップという状況下で、いかにしてチャンスをつくってきたのか?その仕事のつくり方に迫りました。
> 少し話は逸れますが、渡邉さんの「仕事のつくり方」についても話を聞かせて下さい。過去に所属した企業のバックグランドはあるにせよ、スタートアップという認知や実績が少ない状況で、いかにして仕事をつくってきたのでしょうか?
僕自身、日々の仕事が「いかに繋がりで生まれるか?」というのを常に体験しているので、とにかく会った人に「(自分は)どんなことを考えていて」「どんなことをやりたくて」「実際に、どんなことが出来るのか?」を、簡潔に伝えられる訓練を毎日毎日することが仕事に繋がるような感じがしてるんですよね。
> 、、それ私も今悩んでます(笑)
わかります(笑)とても悩みますよね。
この前、友人から良いアドバイスを貰ったので共有します。まずは「3つのカード」を思い浮かべるんです。自分の特徴を簡潔に表現する、3つのキーワードを。それだけでも、自分のやりたいことと、出来ることを伝える自己紹介の質はグッと上がります。
例えば、僕の尊敬している先輩でVRベンチャーの役員をやっている方がいるのですが、その方は「VR」「教える」「地方」って言ったんですよ。VRが好きで、地方を応援したい、教えることが好き、というこの3つを掛け合わせて、「VRコンテンツを地方の学生がつくれる様な教育の場を整える」とか、そういう風に繋げていけるんですね。
僕の場合は「ビジョン」「場所」「コミュニティ」を掲げています。自分を現すキーワードを言語化して、相手に伝えることを繰り返す。そうやって、自分の「自己紹介の質」を高めていくんです。
仕事のつくり方にも通じますが、周囲に「こいつは何が出来るんだろう」とか「何を実現したい人なんだろう」って理解して貰えないと、仕事は発注頂けないし、仲間集めもできない。、(現時点で)出来るか・出来ないか分からなくても「こんなことをやりたいんです」と宣言して、それに自分が出来ることをかけ合わせる。初めは半信半疑で仕事を頂きながらも、そこで1度信頼を獲得すれば、「ここまで出来るなら、追加で××も任せたい!」とか「似たような仕事があるからそれもお願いしたい」とか、同じ会社の違う部署内で仕事の依頼がきたり、それが連鎖していきながら、今は継続させて貰っている感じですね。
渡邉氏が考える、これからの会社の在り方。
> 渡邉さんの仕事のつくり方は、渡邉さん個人の魅力に紐づいている印象を受けています。これが「会社」というカタチで成長していくには、属人的なスキルをどう社員に対して落としていくのでしょうか?
すごいいい質問ですね、それ。
> あ、ありがとうございます(笑)
今後2-3年をかけて僕は会社をギルド(組合)化したいと考えているんです。なので基本的には会社もコミュニティにしたいと思っています。さっきお伝えした「私自身の幸せのスケール感」で言うと、会社も事業もスケールしなくて良いと思っていて・・
> え、拡大させないんですか?
スケールポイントとかマネタイズとか、色々やってみたのですがダメなんです。私の能力不足もあるでしょうし、何より、ワクワクしない。興味が湧かないんです。これは聞く人によっては、誤解されてしまう可能性もあると思うのですが、すごくシンプルに言うと、ファイアープレイスは「僕が僕の人生を100%燃焼して、100%楽しみ尽くす為」につくった会社なので、とにかくまずは自分の幸せと向き合おうと決めました。
> なるほど。それでも法人化をするメリットは、どんなところにあるのでしょうか?
自立した異なる専門性を有するメンバーが集うことで、私一人よりも出来ることの「表面積」が大きくなること、でしょうか。理想とする会社の在り方は、縦ではなく横に繋がるギルドですね。個人事業主でやっていくよりも、法人という受け皿とする方が私にとってもメンバーにとってもメリットがあると感じています。メンバーにとって、自立・自律した人生を送るために使い勝手の良い会社にしていきたいですね。
これからのファイアープレイスについて
> 最後に、今後のビジョンや会社を通じて創っていきたい未来を教えて下さい。
ファイアープレイスという会社のビジョンは、「ビジョンを繋ぐ場とコミュニティの創造を通じて、社会をより良くする」なので、「ビジョンある人たちに囲まれる組織」で在りたいんです。ビジョンを有する人が自然と集まってくるコミュニティを創りたい。
ビジョンに年齢は関係無いし、そういう一人一人のビジョンを聞くのが僕はやっぱり好きなんです。やりたいことがあって、自分の生きる方向性を決めていることは、すごい尊いことです。これからも、ビジョンがある人は応援したいと思うし、そのビジョンの実現のために自分や自分の周りで何か助けになることがあるのであれば力になりたいと思います。逆にそれがないと、お互い何を補えるのかも分からないし、繋がること自体が難しいとも感じています。
仕事や生活するって1人だけでは決して無理なので、僕の理想は、「自分の信頼出来る人に囲まれて、仕事も回しあっているし、繋がっている安心感もある」っていう状態が最高に理想的だなと。最近、友人たちとそういう話しかしていない(笑)。何となく、幸せの在り方が変わってきたような実感がありますね。
編集後記
「会社をギルド(組合)化したい。ビジネスは別にスケールしなくても良いと思っている」大手企業2社を経験した後に起業という、華やかなキャリアを持つ渡邉氏の言葉には面食らいました。事業の大小では無く、ビジョンを元に集まるメンバーと最高の仕事をこなす集団を目指すファイアープレイス。これからの会社の在り方に、1つの新しいカタチを世に出してくれそうな予感がする同社の展開に、今後も注目していきたいと思います。