採用戦略で先生に
―新井さんは、大学で授業をお持ちの先生でもいらっしゃいますよね?
新井氏
はい。元々教えるのが好きですし、現在は採用戦略の一環としても大学で教壇に立っています。企業にとって「応募者を選別できない」というのは、大きなリスクですから。
大学で教えていると、学生の素の姿が見えます。真面目な子、リーダーシップがある子、課題を出してもやってこない子――彼女たちには、私が採用官・面接官であるという認識が当然ありませんので(笑)
その中でセラピストを希望する子がいれば、将来の選択肢の1つとして、当社へのインターンシップを勧めています。
もちろん、人を選ぶのは難しいです。応募者の素顔はなかなか見えるものではありませんし、採用した場合、会社でその人が将来どうなるかはわかりません。ですが、お互いのミスマッチの可能性をより低くする施策は、大学での登壇以外にも拡大したいと考えています。
―採用戦略として教壇に立つ、という発想はどこから来たのですか?
新井氏
なかなか人が採用できなくて悩んでいた時期に、大学登壇による採用活動の成功例を聞いたからです。
そこで、通っているビジネススクールの先生、同輩の皆さんに声を掛けたところ、山野美容芸術短期大学でゲストとして講話する機会をいただきました。
2回目の講話の後、大学側から「必修科目(経営論)の教員に欠員が出たのですが興味はありませんか?」とお話をいただき、細かい条件を確認する前にOKしました(笑)
その後、昭和女子大学 現代ビジネス研究所でもファシリテーターの機会をいただき、現在に至ります。
「やりたい、やりたい」と言い続けていると、いつかチャンスは巡ってくるものです。ただし、そのためにはアンテナを張り巡らせておく必要はありますが。
起業を考えている方へのアドバイス
―最後に、起業を考えている方へのアドバイスをいただけますか?
新井氏
こういうインタビューで話しても記事にされないのですが(笑)、私は起業を勧めていません。安易に起業を勧める風潮には反対です。
起業すると、多くの苦労があり、死ぬほど大変な思いをし、眠れない夜を過ごさなければならないということを理解すべきです。
もっとも今は、企業による業務効率化の推進・リストラ、ITやAIの発達などによって、自身に「起業家」や「個人事業主」としてのキャリアが組み込まれる可能性は、昔より格段に増えました。
また、起業に対するイメージも変わりました。昔は「脱サラ」と言って、あたかも起業家が社会人失格であるかのようなネガティブなイメージもありましたから(笑)
そういう時代背景も併せて考えると、起業や開業を選択肢の1つとして考慮しておくのは十分あり得る話でしょう。その上で、これから起業を考えられている方へアドバイスをさせていただきます。
できれば3人以上で
起業するなら、できれば3人以上、せめて複数人で、をお勧めします。
自分の能力だけに依存すると、すぐに限界が来ます。1人だと、自分が倒れたらおしまい、ですから。
人脈を作ってから
例えばGoogle社をはじめ、学生起業の成功例はありますが、それ以上に失敗例の方が圧倒的に多いのが現実です。学生は一旦社会に出て、さまざまな経験を積み、人脈を築くべきです。
事業の中には、時代が後からついてきて初めて結実するものもあります。
例えば、あるベッドメーカーは、時代を先取りしすぎて当初苦境に陥りました。まだ日本の住居の床が畳全盛の頃です。その後、床素材としてフローリングが導入され始めた頃に住宅メーカーと提携し、一気に成功を収めました。
このように、時代の波が来るまで生き残り、来た時に波に乗る、という戦略もあり得ます。ですが、その波はいつ来るかわかりません。来るかどうかわからない波を待ちながら耐えるその期間は、「大学等を卒業後、即起業」という若い人にはもったいないと思うのです。もっと他に積めるキャリアがあるのではないか、と。
ひっそりと深く
時代の波、という点で言えば、リラクゼーション業界はまだまだこれからだと思っています。私が参入した2011年に700億円だった市場規模が今は1300億円に拡大していますが、さらに伸びるとみています。
業界全体としては、アンケートなどの顧客満足度調査をもっと実施し、お客様の声を踏まえた改善・ブラッシュアップをしていくべきです。
その結果、サービスの質が向上し、エビデンスを得ることができ、社会的な認知度も上がればいいなと。その中で、私たちの会社が世間一般に知られ目立つのではなく、一部の職種・人事部等に知られてひっそりと深く浸透していくことが理想です(笑)
編集部後記
「私は起業を勧めていません」
この新井氏の言葉は、どうしても記事にしたかった。
本文を読んでいただければおわかりのように、氏は起業を全否定しているのではない。
起業をするならば、しかるべき準備としかるべき覚悟の下、しかるべきタイミングで行うべきだ、とおっしゃっているのだ。
聞こえの良い言葉や甘い言葉は、しばしば無責任に発せられることがある。
新井氏の言葉は、先輩起業家としての責任と愛情が詰まった、「後輩」たちへのメッセージである。