導入
社会におけるデジタル化の進展、消費者意識の変容とともに、種々様々なサービスが市場に放たれ、種類も利用数も増加の一途をたどっています。その一方で、そうしたサービスの提供企業は、事業を拡大させていく中で、状況の異なる顧客に多種多様なプランを提供し、結果として取引管理をはじめとしたオペレーション上の様々な課題と向き合わなければならなくなっています。
本日お話を伺うアルプ株式会社は、そうした事業者の課題を解決するサービス、Scalebaseを展開されています。どういった経緯で事業展開に至り、今後どこを目指していくのか、アルプ株式会社代表の伊藤さんにお話を伺いました。
本文
ーまずは伊藤さんのご経歴と、貴社サービスの概要を教えて下さい。
私はモルガンスタンレー、ボストンコンサルティンググループを経て、ピクシブ株式会社で5年間勤めました。そこで新規事業に取り組む中で、ユーザーへの直接の価値提供ではなく、請求や決済など、裏側のオペレーショナルな部分に関して課題を感じ、それらをソフトウェアによって解決できるのではないかと考えました。その実現のために、2018年にアルプ株式会社を設立し、Scalebaseというプロダクトをリリースしました。
BtoB、BtoCのいずれでも、日本国内ではサブスクリプションサービスの利用が拡大しています。これまではオンプレミスで提供されていたようなものもサブスクリプションサービス化がますます進んでいます。そういったサービス型のビジネスでは複雑なプライシングやオプションを顧客ごとに管理し、またアップセルやクロスセルによって契約形態が変動したり、それに基づく入金管理も売上計上とは別で見なくてはならないなど、顧客へのサービス提供とは別にオペレーショナルな部分で工数がかかっています。
当社が提供するScalebaseでは、そういったサービス型ビジネスの販売・請求オペレーションにおける課題を解決するものです。顧客との契約履歴を可視化し、多様な料金モデルを反映して請求できるよう柔軟な設計を可能とし、決済や入金消し込み、督促までをシステム化したほか、それらの成果を一元管理して分析できるようにしています。
170社以上にご利用いただいていますが、SaaSだけでなく製造や通信など、かなり幅広い業種でご利用いただいています。スタートアップだけでなく、大手企業でも、新規事業では、独立系で小回りがきくプラットフォームが使いやすいということで、長らくご利用いただいています。メガベンチャーでも、新規事業が急成長する中で、スケーラブルなサービスとしてご利用いただいています。また、学校、病院、介護などの法人様でも契約管理のためにご利用いただいているケースがあります。
ーサービスの着想を得られた際のお話をもう少し伺えますか。
前職のピクシブは、かなり多様な新規事業に関わっていたのですが、その中でも、画像変換のSaaSを通信会社さんと一緒にやろうとしたことがありました。一般にECサイトなどの運営では、画像サイズを適切な形に変更するのが面倒だったのですが、ピクシブは日本でもっとも画像を扱う会社だったので、通信会社さんと一緒にその画像サイズの転換を簡潔に行えるサービスをやろうとしたのです。画像サイズはECサイトとして商品を並べるためには絶対やらないといけないが、顧客への価値提供からすると少し遠く、限られた自社エンジニアのリソースでは誰もやりたくない。だからそこにソリューションを提供しよう、ということですね。
サービスを提供する会社は、本来、ユーザーへの価値提供を考えた時に、限られたリソースで価値提供と直接関係ないところで面倒なことはしたくないはずです。そういった、やらなければならないけれど、顧客に提供する価値から少し離れたところに、こちらからソリューションを提供する。そういったことは、そもそもみんながやりたくないはずなので競争相手が少なく、安定的に事業を作れるところでもあるだろう。また、そういった面倒なところを肩代わりされた企業は、そのリソースをより顧客への価値提供に振り分けられるから、社会的意義もある。ニッチであるけれど重要であるということで、チャレンジしがいがある構図だなということを、この経験から学びました。
やらなければならないけれど、自分たちではやりたくない、というものは他にも世の中にたくさんあると思うのですが、なかでも、前述のとおりピクシブで新規事業に携わる中で、決済や請求などのお金まわりのオペレーションに課題感を覚えました。ここはソフトウェアで解決できると思いましたし、決済ですとか、お金回りのところは、会社の血液であるお金を巡らせる部分です。将来的に様々なサービスを展開するプラットフォームにもなりうるという点では、面白い分野であると考え、この分野をやろうと思いました。
ー起業に至るまでの経緯を教えてください。
もともと、ベンチャーやスタートアップに縁はないし、新規サービスを展開しての起業は発明の才能がないとできないと思っていました。そういうところに身を置くと思っていなかったのです。 その後、実際に働いていく中で、ベンチャー、スタートアップにいる方々と会う機会があったのが2010年頃です。そういった方々とのご縁が増えたことは、ベンチャーの世界に足を踏み入れる契機になりました。
ピクシブに入ったのは大きな変化でした。当時は今ほど私のような金融・コンサルの出身者がベンチャーに飛び込むこともありませんでしたので、経験として面白いかなと思って飛び込んだのです。 自分が経営者になるとも思っていなかったのですが、新規事業開発に携わったあと、2017年に創業者の後継としてピクシブ社の社長になりました。なってみて、大変なことも多かったのですが、エンジニアとモノづくりをする面白さや、プロダクトの力を思い知らされました。その中で経営者を務めることで、自分なりのリーダーシップの取り方を認識することができたと思います。
そういった経験から、起業というのが、一握りの天才だけのものではないんだ、自分もやってみてもいいし、やれるのではないだろうか、と思えるようになりました。アルプの創業に踏み出せたのは、そういう原体験があったからです。起業をしてからは、真摯というバリューをずっと掲げているのですが、愚直に、誠実にやり続けていけば、なんとかなると信じてやっています。
ー起業する中でどんな点に苦労されましたか?
2点、あげられると思います。
1点目は、起業から数か月でサービスの方向性を変えざるを得なかったことです。もともと、ピクシブで着想を得ていたこともあって、BtoCの決済基盤を整備することを考えていたのです。しかし、BtoCの決済基盤は各社かなり作りこんでいて、あまり入る余地がありませんでした。どうもこれは違いそうだなと。BtoBの方がより汎用性も多く、困っているお客さんも多いということで、数か月で方向転換することになりました。
2点目は、1プロダクトのなかで複数のサービスを扱うことが非常に大変だったことです。請求だけでなく、顧客管理、販売情報の管理、商品マスタの管理、請求書の管理など、Scalebaseという1プロダクトの中でも、様々なドメインのことをやっています。私は当然やるべきだと考え、無邪気に作ろう、とやってきたのですが、その結果としてプロダクト開発は大変重くなりました。複雑なことをやるために開発難易度は高くなる、ということをやりながら痛感しましたし、今でも感じていることです。
ーそうして展開されてきた自社の現状を、どのように位置づけられていますか?
自社のポテンシャルや、事業の手応えは感じているのですが、まだまだだと思っている部分もあります。Scalebaseのサービス提供を開始してから4、5年が経ちますが、困っている会社は依然として非常に多いです。ビジネスモデル、プライシングが変われば変わるほど、我々のような基盤がますます大事になってきます。同じ商品を扱っていても、値付けをかえたりしてプランを増やした途端、何パターンも管理しなければならず、管理が大変になります。サービスも販売方法もどんどん変化させていく世界というのは、オペレーションもそれにあわせて煩雑になり犠牲になる世界です。そこに企業が単独で取り組もうとすると、お金も工数もつぎ込み続けることになります。こういった点をうまく支えられるソフトウェアは世の中になかなかありません。だからこそ、そこはScalebaseが担うべき役割だと感じていますし、我々にはそのポテンシャルもあると考えています。
まだまだ、お客様みんなが自由にビジネスを展開する、ということを実現しきれていないと思っています。お客様のビジネスの自由度をどこまであげられるかが我々の価値だと思っています。事業に必要なオペレーションの摩擦係数をゼロにする、ということをたまにいうのですが、ボタン一つでクレジットカード決済ができるようになる、ですとか、いろんな料金モデルを簡単に実現できる、切り替えられる、というのがあるべき姿だと思います。やれること、やりたいことの幅は本来そんなにあるわけではなく、誰も知らない決済手段というのはないはずなのですが、その一つ一つを実現するのは大変です。そうしたことを簡単にできるようにすることによって、それぞれの事業者が自由に戦略を描いてビジネスを展開できる土台が整うはずで、そのことは社会にとって意義があることだと信じています。
ーそうした現状を踏まえて、今後の展望を教えてください。
現状、当社はScalebaseとScalebaseペイメントの2プロダクトを提供しています。
Scalebaseは顧客契約・請求の管理を担い、先ほど申し上げたような、販売の自由度をいかにあげられるか、にフォーカスしています。我々がターゲットにしているお客様は自由な請求の仕方をしていることが多いです。それらを柔軟に吸収して、多様な販売形態に対応できるようサービスを磨きこんでいきたいと思っています。また、オペレーションの摩擦係数をゼロにする、という考えからは、受注から決済まで一気通貫でできるようなAPI連携の強化というところがポイントです。
Scalebaseペイメントは請求書発行から入金消込・督促・複数の決済手段の管理を提供するサービスですが、自動入金消込の強化のほか、心理的負荷の大きい督促業務などもAIなどの技術を活用することで担うことができ、我々が取り組むことで顧客の負荷を減らせると思っています。請求以降のプロセスをお客様からまるっと投げていただけるようにしていきたいです。
受注以降の業務をScalebase、請求以降の業務をScalebaseペイメントがまるっと担い、それぞれの業務における顧客負担をいかにゼロにできるか、2024年と2025年で取り組んでいきたいと考えています。
これらのことを実現するために、目下、組織の強化にも取り組んでいます。特にセールスやカスタマーサクセスなどの業務コンサルを拡充していきたいと考えています。
我々のプロダクトは、複雑な業務オペレーションをどうScalebaseで表現して実現を支えるかが価値になります。その際、お客様の業務を理解、整理して、適切な形に仕立てながら価値を届けることがセールスやカスタマーサクセスの仕事になります。しっかり顧客とコミュニケーションをとり、業務コンサル、業務支援というと範囲は広いのですが、そういうことができる方にきていただけると心強いです。プロダクトとともにお客様を支え、プライシングをどうするかを考えたり、お客様のビジネスモデルに関する相談にのるというのは、それぞれのメンバーの引き出しをダイレクトに増やします。貢献感も感じられますし、単なる問い合わせ窓口ではない、ビジネスパートナーとしての経験ができると思いますので、もし興味のある方がいらっしゃるようであれば、ぜひお声がけいただきたいです。
ー最後に、読者の方々にお伝えしたいことがあれば教えてください。
我々が目指している世界観、我々のプロダクトで課題を解決することの本質に、共感していただけるお客様を増やしたいと思っています。Scalebaseが何をやっているサービスであるかを示すとき、いつも悩ましいのですが、「サブスク管理」でも「販売管理」でもしっくりこないと思っています。SaaS for SaaS ともいわれるのですが、SaaSに限らず、いろんな会社様が月額課金、料金プランの変更などで悩んでいらっしゃる。そうしたお客様のやりたいことを全部支えられるプロダクトとして、変化をし続ける企業様の助けになるといいなと思っています。ミッションとしては「あらゆる企業にフルスイングを」を掲げてやってきました。我々がサービス展開している企業の負荷を支えることで、それらのお客様が新しい価値を提供できるよう、より努めて参ります。
ー本日はありがとうございました。