「起業に適した機会があるか」の項目において、調査した47カ国中最下位という結果になった、日本(※)。日本における、ユニコーン企業の数・評価ともにグローバルと差が開いている状況の一つとして、起業をしやすい環境だと感じる人が少ないことが挙げられると、今回取材をした坂氏は語る。経済産業省が実施する起業家の創出とオープンイノベーション推進を目的としたプログラム「客員起業家(EIR)の活用に係る実証事業」に参加し、国内スタートアップ創出の潜在課題と未来の起業家に向き合うジャフコ グループ(株)パートナー坂祐太郎氏にお話を伺いました。※出典:Global Entrepreneurship Monitor 2021 / 2022 Global Report
インタビュイープロフィール(ジャフコ グループ株式会社 パートナー 坂祐太郎氏)
2012年入社。主な投資実績はマネーフォワード、Chatwork、WACUL等。Forbes Japanが選ぶ日本で最も影響力のあるベンチャー投資家 BEST10 / 2017年 2位 2021年9位。投資業務以外にも、投資先にCFOとしての出向経験や、投資先支援チームに従事し、現在のセールス・マーケ支援、HR支援、バックオフィス支援それぞれの基盤を構築した経験を持つ。2022年6月より同社パートナー。
「客員起業家(EIR:Entrepreneur in Residence)」とは?
経済産業省が実施する日本の起業増加およびオープンイノベーション推進を目的としたプログラム。起業準備を行う方や新規事業開発に関わる方を客員起業家(EIR)として、プログラム参加者に一定期間ジャフコから業務委託を行う形で事業開発に取り組む。キャピタリストとの壁打ちによる事業アイデアのブラッシュアップや事業会社との接点創出、バックオフィス関連のサポートなど、ジャフコがもつネットワーク・ナレッジを最大限活用し、起業準備が行える点が特長。同社では2022年8月にEIR事業へ新規採択され、現在4名の方の起業に向けた伴走を行う(2022年12月時点)
ー まず「客員起業家(EIR)」について、改めて教えて下さい。
はい、「客員起業家(EIR)」はEntrepreneur in Residenceから取っていまして、「これから事業をやろう!(やりたい)」と思っている方を対象に、一定期間ジャフコから業務委託を行い、リサーチを中心にベンチャーキャピタルの業務の一部を行いながら、その方々の起業の支援・伴走を実施し、未来の起業家の事業が迅速に立ち上がる支援をさせて頂くプログラムです。よく「将来的にジャフコから投資を受けるんですか?」と聞かれますが、ジャフコから出資を受けていただく義務はありません。ただ、両社の方向性が合致した際には、当然そういった可能性はあります。
ー どういった方がこのプログラムに参加・応募してきているのでしょうか?
起業に向けた準備段階と参加者の方々の属性の2軸でお話をすると、既にある程度の事業プランをお持ちの方や、幾つかの分野に分けて事業アイディアを持っていて、それをどの分野で実現するか悩んでいる方が本プログラムに参加されています。参加者のこれまでのキャリアでいうと、コンサルファームや広告代理店、事業会社出身の方がいらっしゃいます。
ー プログラムに参加する方のメリットについても、より具体的にお伺い出来ますでしょうか。
業務委託契約なので弊社が報酬を支払うという点はもちろんメリットはあるのですが、ファイナンスに関する相談が無償で受けられることに加えて、ジャフコが保有する大企業の役職者とのネットワークを活用した提携先候補のマッチングにメリットを感じて頂けています。
過去にプログラム参加者と行った事例をお伝えすると、「Web3入門」という勉強会を弊社のもつネットワークを対象に開催の告知をし、1日で200名を超える参加者を集客したという事例もあります。【業務内でのアウトプット】と、彼らが今後展開していく事業に関連する【顧客接点の創出】の2つを実現できた場となり、そういう観点からも弊社のリソースを最大限に活用できます。
ー なるほど!ベンチャーキャピタルという立場からは、本プログラム「客員起業家(EIR)」をどの様に活用していこうとお考えなのでしょうか。
VCという立場からお伝えさせて頂くと、今後、より早いステージでのスタートアップ投資が重要となっていくと感じています。そして、より早いステージでの投資を実現する為には、起業直後や、もっと言うと起業する前のタイミングで起業家との接点を持つことが必須になるでしょう。このプログラムでは、それらを実現出来ると同時に、起業家自身の覚悟や人柄といった定性的な部分にも、一定期間業務を共にすることでより深く触れることが出来ますし、逆にジャフコの良さやキャラクターを起業家の皆さんに深く知っていただくことができます。また、定量的な実績を持つ以前の段階のスタートアップにおいては、対象となるマーケットにポテンシャルがあるかどうかもとても重要な判断基準となる中で、より強固な投資仮説がつくれることにも繋がっています。
日本のスタートアップ創出における課題や現状について
ー 国内のスタートアップにおける現状についても伺っていきたいのですが、そもそも起業数自体は増加しているのでしょうか?
起業の数でいうと、増えてはいますが膨大に(数が)増えている訳ではないと思います。
ただ、以前と比べて大きく変わっているのが【資金調達の金額】です。スタートアップ情報のプラットフォームであるINITIALによると、10年前、スタートアップの全体資金調達額は、およそ650億円でしたが、2021年時点では8,000億円を超え、およそ10年で約12.8倍まで増加しました。加えて、1社あたりの平均調達額も8,000万円(10年前)から、4億円とおよそ5倍に増えています。これらの数字が示す様に、未上場でも大きい資金調達が出来る土壌が着実に育ってきているという点と、スタートアップという段階からより世の中のデファクトになりうる規模にスケールするサービスを創出できる環境が整ってきていると感じます。
ー なるほど!数字で見ると、とても大きな変化ですね。そういった状況下で、国内スタートアップ創出における課題についても伺えたらと思います。
資金調達面や、スタートアップでも社会にとってインパクトのある事業を展開しやすくなっているといった点も含め、確実に起業はしやすくなっていると思います。ただ、今課題だなと感じているのが、それを応援する側のパワーが分散してしまっているのが勿体無いなと感じています。
ー 応援する側のパワーが分散しているとは、どういうことなのでしょうか?
アクセラーションプログラムや事業会社系のVC(CVC)、国から出る予算など、スタートアップを支援する側の資金が沢山流れている中で、それらが分散している状態のことを指しています。例えば、アクセラレーションプログラムにおいても、一社ではなく複数社で展開した方がより大きいお金がスタートアップに流せると思います。「自社単体でやる必要性はあるのか?」というのは運営企業側も頭を抱えている課題です。
これからグローバルで戦う相手をアメリカや中国と見据えた時、官民一体となって、より大きな動きを出せる支援にそろそろ動いてもいいのではないか?動くべきなのではないか?と個人的には感じています。
ー そういうことだったんですね!納得です。海外の話も少し出ましたが、上場前で時価総額1,000億円を超えるスタートアップ(ユニコーン)が生まれる環境についても、日本と海外で感じることがあれば教えて下さい。
日本国内のマーケットでもそれなりに大きい為、それで完結してしまうという点は、まずあると思います。初めから「より大きいものをつくろう!」という母集団の数が世界と比較した際に少ないのかなとは感じますが、その要因を私なりに考えるに【上場することのハードルの高さ】は要因の一つとしてあるかもしれません。例えば、東証グロース市場(旧マザーズ)に上場しようと思った際の売上規模でいうとおよそ10-20億円が一つのラインになってきますが、アメリカでそれをしようと思った場合、桁が一つ大きくなります。こういった環境の違いも、「より大きいものをつくる」という起業家の意識に関わっているのではないか?と私は感じています。
ー なるほど。
今後について
ー 最後に改めて、今回のプログラムについて告知などあればお願い致します。
ジャフコが持つ知見やネットワークを会社設立の前段階で提供することで、より多くの挑戦を後押ししたいと思いから、客員起業家制度の取り組みを開始することに致しました。今回の取組を通じて、新たな挑戦に挑む起業家と共に考え、共に悩み、10年後の常識になるような事業、サービス作りに貢献していきたいと考えています。是非EIRにご興味がある方は下記よりご応募ください。